▽73.








ついに迎えた海常との練習試合当日。


真っ赤に充血した火神君に
近場のスーパーで入手したホットアイマスクを
手渡し温める様に勧める。


練習試合が、楽しみで寝れなかったそうな。




結局あの日黄瀬君に問いかけた質問の答えを
もらえないまま

今日を、迎えた訳なのですが



「どもっス!広いんでお迎えにあがりました。」
と笑顔で黄瀬君は現れて黒子君とじゃれてる姿を見ると
少し安心するとともに、不安になる。

正反対な気持ちなのでとても不思議なかんじだ。





「ほらほら、ななっちおいてくっスよー?」

ブンブンと手を降る黄瀬君に『行くー。』と返事をし
駆け寄る。


少し歩くと体育館につく。



そこで、また嵐。






体育館へ行くや否や。

軽い挨拶を交わし片面の古びたゴールリングを
唖然と見つめるメンバー。
何がどうなっているのかと思いつつ

リコちゃんと海常の監督竹内さんの話に耳をたててみると

誠凛はかなりなめられているようだ。


「見学するには学ぶものがなさすぎる。」

とまで言われている。
おまけにここから黄瀬君は出さないともだ。


しかし、まぁ、
そこまで言われて言い返さないみんなではない。




「調整とかそーゆーのムリかと…
 そんなヨユウすぐなくなるかとおもいますよ?」


青筋をたてる皆に苦笑いを溢しながら
私自身高揚する気持ちを隠しきれなかった。

皆は試合に備えてユニフォームに着替えに行き
私は準備を整える為、一人体育館に残る。


少し離れたところでワナワナと怒る竹内監督を
レギュラーメンバーであろう人達と
その他もろもろ、が宥めている。

仕方ない。

あんな、喧嘩の売られ方をしたのだ。

しかし、そうなってしまった原因も監督にあるわけで
なんとも言えないが
あの集団の中に同じマネージャーであろう子が見える為
無視できない。


誰にも気づかれない程度に溜め息を吐き
近づく、



『先程は監督と部員達が失礼し申し訳ありません。
 練習試合はどのような感じでしますか?
 一緒に準備をします。』

これ以上逆鱗に触れないように、触れないようにと
丁寧に話しかけ
これ以上にない作った笑顔で笑いかける。


いわいる大人モードだ。



何をきつく言われても受け流す気持ちで聞こう。
そう、身構えていたのに


「君は…あの事故の子か。」


と竹内監督から放たれた言葉に
身構えていたのも虚しいほど意味をなさなかった。









「事故…っスか??」




暫く続いた沈黙を破ったのは黄瀬君で
なんの事だと催促してくる。
私は放心したまま言葉が紡げず目をそらすと

「あー、すまん。白金から君のことを聞いていてね。
 あいつは君に "―辛いことをさせた―"と
 珍しく懺悔していたよ。

 詳しくは知らないが。」



そう言って私の肩を軽く叩く。
白金監督がそんなことを言っていたなんて
全然知らなかった。

高校に入ってからは定期検診もなくなり
病院にあまり行っておらず、会っていなかった。

それに、どうやら聞いた話では監督は
大きな総合病院にうつったとか。



『…そうですか。白金かんと「あああああー!」』


私が声を発した瞬間、竹内監督の方から
男の人の声が体育館全体に響く。

その声に驚いてびくりと肩が震える。

誰だろうと目線を移した瞬間
「うっせーんだよ!!!!」とツンツン頭の彼が
蹴り飛ばす、

この世界に来て始めて見た彼らの絡みに
安心し笑みがこぼれる。

変な言い方になるが
なんだか、懐かしいのだ。



どうやら蹴られたのは森山君のようで
彼は「痛たた。」とゆっくり立ち上がる。
そして、ここからが彼の真骨頂。

私の手をぎゅっと握り「やっと、会えた。」と
確かにそう、言ったのだ。
まさか…あの不可思議な世界の……とも思ったが
あの時の彼等はWC終了すぐのことだし
知っている筈がない。

なら?なぜ?と

思考を巡らせていると

「あー、えっと、あの時は君熱で倒れていたからね、
 覚えてないのもムリないかもしれないが
 2年前のコトなんだけど。

 ○○市民体育館でさ?」


と言われ再度思考を巡らせる。

黄瀬君からは
「森山先輩…いくらななっちが可愛いからって
 自分の妄想を押し付けちゃ駄目っすよ。」
なんて酷いことを言われている。


『熱…ベンチ…2年前の○○市民体育館……。』


2年前の大きな風邪と言えば黒子君の初試合の時しか
思い出せない。
確かにあの時私は体育館で倒れた。

倒れてベンチで誰かに…とおもいだしたところで
一つ心当たりを見つける。

『もしかして…ハンドタオルの人!?』

そう言って顔を上げると凄く嬉しそうな顔をした
森山君と目が合う。



「そう!そうだよ!思い出してくれて良かった!
 2年後しになった会えるなんて…
 運命としか言い様がないだろう!!」



『う、うんめい?』

二度目になるが凄く嬉しそうに言うものだから
なんて返していいか分からずシドロモドロ
していると「だからうっせーんだよ!!!!」と
またまた、笠松君の蹴りが入る。

うん、やっぱり彼は体育会系って感じが滲み出ていて
とても好印象だ。


そんな、やりとりとしていると誠凛組が帰ってきて
結局準備はできず皆とすることに
私は一礼しながら蹴られた森山君に目線を向けながら

『遅くなっちゃいましたけど
 あの時はありがとうございます。
 また、ハンドタオル持ってきますね。』

と伝え誠凛の皆のところに小走りで戻る。


後ろで、「…本当に可愛い。」と森山君が呟き
「先輩であってもななっち譲らないっスよ…?」
なんて二人がバチバチと火花を散らして居たことなんて
知るよしもなかった。















▽▲









「それではこれから誠凛高校対海常高校の
 練習試合を始めます!!!」



始まった練習試合。
完全になめきっている海常高校の雰囲気。
その空気をぶち壊したのは黒子君と火神君。

いや、まさか…ゴールリングを壊すとは思わなかったけど。

しかも反省するどころか

「すみません。ゴール壊れてしまったんで
 全面コート使わせてもらえませんか?」

の黒子君の言葉がトドメとなる。


数分後、全面コートが使われる事になり
再開する練習試合。

今回は初っぱなから黄瀬君を投入してきている
ところを見れば
それなりに竹内監督もご立腹なのだろう。

黄瀬君も、ガツンとダンクを決め
(笠松君に壊れてないと怒られていたが。)
それからというとハイスピードの
点取り合戦になっていて慌ててリコちゃんがT.Oを
取りに行く。

戻ってきた皆は既に疲れきっていて
急いでドリンクを手渡して行く。


「彼には弱点がある。」

と言い出したかと思えば黒子君は
自分のミスディレクションの弱点を話し出す。

当然怒るリコちゃんからプロレス技をかけられる
黒子君を苦笑いしながら見ていると
それだけで終わるTO 。
「ああああー!黒子君シバイいて終わっちゃったー!」
と、叫び嘆いている。

コートに戻るリコちゃんに近づきながら
『みんなを信じてみましょう?』
と、微笑むと「…そうね。」と溜め息を溢していた。




大丈夫。勝ったって負けたって

彼らには意味のあるものなのだから。






そして、TO 後はやはりというかなんというか
誠凛も頑張って食らい付いているが
じわじわと点差は開きつつある。

間違いなく黒子君を目視出来るようになっているのだ。




すると何やらコートのなかで黄瀬君と火神君が
話をしているっぽいのだが、
如何せん…ここからでは距離がありすぎて内容が
分からない。

心配する私とは裏腹に聞こえてきたのは
火神君の笑い声。

そして「お前の弱点はこいつだ!」と黒子君を
つきつけクォーターが終わりインターバルに。
コートから帰ってきた火神君は珍しく静かで大人しく
やっと熱が冷めたのか落ち着いていた。

しかも、次のクォーター時の作戦まで提示してきたのだ。


ここで驚かずして何処で驚こうか。

リコちゃんも
「…なるほど。…うん。いけるかもソレ。」
と納得済みだ。

しかし、いざ出来るか出来ないかリコちゃんに
問われると弱気な火神君。

すると黒子君が、火神君に横腹チョップを入れ
「黄瀬君を倒すんでしょ?」とたったそれを言うだけで
火神君の雰囲気が一気にかわり
「ったりめーだ!」と火神君も黒子君に横腹チョップを
入れる。

あれは、痛そうだ。




そこで、インターバルは終わり第2Qへ。

何が変わったのか戸惑う黄瀬君に
見せつけた二人の連係プレー。
あからさまに変化する黄瀬君の態度。

ここからでは聞き取りづらいが
「やっぱ変わったス。帝光時代にこんなバスケはなかった。」
と、そう言っているような。



でも、違うんだよ黄瀬君。

こうゆうバスケがあったこと帝光でも
あったんだよ…?と
手を握り祈る。

すると、リコちゃんが私の手の上から重ねるように
手を置いて
「大丈夫、そうよね。」
と綺麗に笑う。



『そう…ですね。』


そう言い呟くき

丁度コートを見つめたときは火神君と黒子君の
ダブルチームが黄瀬君を追い詰めていて。


そう、審判の笛の音が響いたときだった。

慌てて見ると黄瀬君の肘が当たり頭から血を流す
黒子君の姿。

その姿に自分の血の気が、さっと引いてしまうのが
わかる。
急いでベンチで寝かし一年生の皆と応急処置に挑む。

その間も「大丈夫だ。」と言い張る黒子君をキッと
睨み付けて。

リコちゃんも黒子君を、出す気は無いようで
二年主体のOF火神君のDFと内容を変更。
「大丈夫なんで…すか?」と苦手な敬語を使い
心配する火神君に


「大丈夫だっつてんだろ、ダアホ。
 たまにはちゃんと先輩の言うこと聞けや殺すぞ。」


私ももちろん、その言葉に火神君も驚く。

どうやら彼はスイッチが入ると言葉がキツくなるそうで
伊月君は"クラッチタイム"と呼んでいるみたい。

まぁ、しかし

「……たくっ今年の一年はどいつもこいつも
 もっと敬え!先輩を!そして、ひれ伏せ!」

とぶつぶつ言っている。
リコちゃんはうんうんと頷いていて普通だ。
なら、この現状も普通…なのか?


しかし、やはりというか日向君達もかなり粘ってはいるが
点差はじんわりと開いていく。
「黒子君が、いてくれれば。」と
漏らしたリコちゃんの本音に寝ていた黒子君が起きる。

「…じゃぁ、いてってきます。」と
未だフラフラしている黒子君は立ち上がる。
「ダメよ!」と言う監督に

「でも、約束しました。
 火神君の影になると。」

その言葉にリコちゃんは出すことを許可し見送る。
黙っていた私は黒子君の、背中に
『いってらっしゃい。』と声をかける。

黒子君は顔を少しこちらに向け「はい。」と
微笑む。その、姿を見て安心する。







できれば、今後出たいと言った彼をもう引き留めたくはない。


荻原君の時のように。








そして、黒子君が入ったことにより同点へ。
出ていなかった時間が彼の薄さを濃くしたのだろう。
でも、それで負けてくれるほど海常も甘くはない。

ランガン勝負。

高速の点の取り合い。





それでも、それでも、皆は勝利へと活路を開く。




ブザービートで決めた火神君のアリウープ。


100対98


ぎりぎりのところで誠凛の勝ち。


ほっと安心し晴れやかな気持ちで終わる。と
同時に滅多に見せない黄瀬君の涙を見てしまい
ツキンと、痛む心。

その様子に、気がついたのか黒子君は
私の肩をゆっくりと叩く。
火神君も異変に気がついたのかこちらに近づき



「お前がそんな顔すんじゃねーよ。
 誰にだって敗けはある。
 それは、早いか遅いかの違いだろうが。

 立ち上がる奴はそっからいくらでも立ち上がる。」



何も知らないはずの火神君は「な?」と
無邪気に笑う。

『そうだね。信じたい、ね。』


今はまだ上手く笑えないけれど
黄瀬君を信じたい。

海常高校の皆を…信じたい。


帰りは黄瀬君の姿が見えなかったが
再戦を主将同士が誓い皆で帰った。









そのあとに苦しいお肉の戦いが待っているとは
知らずに。




















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