▽71.








三人で帰って以降も特別大きな変化は
なく、日常と呼べる日々になるものだと
思っていた。

しかし、いきなり、唐突に
リコちゃんから


" 月曜朝が8時40分屋上集合ね "

と一本のメールが入る。
何故?月曜のこの時間?と訝しげに思いつつも

入部に関してのことだと言われれば断れず
了承する。

教室で「早く正式に入部してぇー。」と
唸っていた火神君を見てしまえば
なんだか、悪い予感しかしない。



黒子君と、廊下で会ったときも
「月曜日、正式に入部出来るといいんですが。」
と見えないはずの犬耳が

へにゃんと黒子君の頭に垂れているように見え
笑ってしまったが

それは、また別のお話。




そんなこんなで迎えた月曜日。










「ふっふっふ、待っていたぞ。」

と仁王立ちしているリコちゃんに若干一年生達は
やや、引きぎみで「どうしたらいいんだ?」と
いった雰囲気を隠しきれていない。


げんに一年生から口々に

「アホなのか?」

とか

「決闘?」

とか、囁かれている。



しかし、相手は先輩。

面を向かって言えるはずもないと
戸惑う中、敬語が苦手な帰国子女の火神君が
臆することなくリコちゃんにもの申す。


「つーか、忘れてたけど月曜って
 あと五分で朝礼じゃねーか!!?」


そう、先程から屋上下のグラウンドに
全校生徒が見える。

おそらく、今からでは距離的にも
もう間に合わないだろう。



すると、リコちゃんが今ここから抱負を叫べと
言い出す。

どうやら、去年も日向さん達はやったようで
生ぬるい目標じゃダメだそうだ。


しかも、達成しなければ

全裸で告白という罰ゲーム付き。



なかなか、ハードルの高い罰ゲームだと思うが
リコちゃんのことだから本気なのだろう。

先程の戸惑いから一年生は更に戸惑い
狼狽えているなか火神君が



「なんだ、余裕じゃねーか。」とにやっと笑う。

大胆不敵、というよりは魑魅魍魎な感じ。
今からイタズラするぞっ、みたいな。



「1のB五番火神大我!
 キセキの世代を倒して日本一になる。」



火神君の声は大きく体にビリビリと衝撃が伝わる。

下に居る全校は驚いて此方を向いている。

向けられている視線は好奇心的なものが多く
けっして気分が良いものではないと私は思うのだが

火神君は全く気にしていない。



しかし火神君が火蓋を切ってくれたおかげで
「俺も、」「僕も、」と一年生達は次々と抱負を叫ぶ。


「お前はどうすんだよ?」と火神君に言われ
『あ、やっぱり私も叫ばなきゃダメ?』と苦笑いをひとつ。

すると、リコちゃんが

「ななちゃんはいいわ。女の子だもの。
 これがきっかけにクラスで浮いちゃうのも
 かわいそうだし。」

と笑顔で"しなくていい。"と言ってくれる。

ほっと胸を撫で下ろすも横で火神君が
「俺らはいいのかよ…。」といっていたのは
聞かないふり。



最後に黒子君が


「すいません。僕、声はるの苦手なので
 拡声器使ってもいいですか?」

と何処からととなく拡声器を持ち出し構える。

リコちゃんも横からにゅっと出てきた
黒子君に驚いたのか

「良いケド…。」と承諾したところで
先生方が「コラー!」と止めにはいり中断となった。


そのあとは、屋上で説教を受け授業も受けて
帰り道。






ふ、と立ち寄ったコンビニの雑誌コーナー新刊欄にあった
"月刊バスケットボール"を手にとる。

見出しは
"バラバラに散ったキセキの世代IH優勝はどこか!?
徹底分析!!"

と書かれてあり皆の学校の説明が書かれてある。


絶対王者、不撓不屈の秀徳。

個々の能力により力を付けた新鋭の暴君桐皇。

毎年IH出場中の強豪青の精鋭、海常。

鉄壁と言う比喩すら生温い絶対防御の陽泉。

敗北を知らない開闢の帝王洛山。



もちろん、この中に誠凛はない。 

黒子君の写真も、火神君の写真もない。





でも、それでも、二人はそんなこと気にしないのだ。
そんなことを考えていると後ろから

「なんか良ーいことでも書いてあった?」

と声をかけられ振り返ると高尾君が後ろに立っていた。
オレンジ色のジャージに部活様であろう
エナメルのバックを肩からかけていて正直重そうである。


『びっくりしたー、全然気がつかなかった。
 学校の帰り?』



「そそ、帰りの途中で外からなながいんのに
 気がついてさ。
 そっちも、帰りっしょ?
 よかったら一緒に帰えんねぇ?」

ふにゃんと、笑いながら問いかける高尾君のこの笑顔は
圧力や威圧とは違う有無を言わせないものがあり
断る理由もなく『もちろん。』と一緒帰ることに。

それに、彼のことだ。


今の今まで誰かと帰っていたのだろう。

それこそ、緑間君とか。


しかし、私に気を使い一人で来てくれたのかもしれない。
私と緑間君が仲良いのを知らずに。


いや、今のこの状況で仲が良いなんて
おこがましかった…だろうか。


高尾君と帰っている途中
秀徳のこと、ムカつくシューターのこと。
いろんな話を聞きながらそんなことを考えた。

最後に

「でもさ、ムカつくって思ってたけど
 あいつの練習とか真面目なところとか見てっと

 認めざるえねぇんだよな。悔しいけど。」


と笑う高尾君の言葉に笑みが零れた。

















▽▲












イン、マジバ。








たまには家に帰って自分で飯でも作ろうかとも
思ったが何だかそんな気分にはなれず

何時ものようにマジバにて
大量にバーガーを買う。

いつも店員は驚いた感じて注文を聞き取っていくが
良く来るんだし俺にとっては普通の量だ。



そろそろ、慣れてほしいんだけどな。


そんなことを思いながらトーレの上に
器用に積まれたバーガーを
お気に入りの席に持っていき腰かけると

今日のことを思い出す。

「ちょっと大声出したぐらいであんな怒るかよ?」

人知れずそう、呟いたはずだったのに、

「未遂なのに僕も怒られました。」

と最近では
聞きなれたやつの声が聞こえる。

帝光中出身、キセキの世代と呼ばれる奴等と
バスケしていたという
凄い存在感の薄いシックスマン。

影の立役者。

黒子テツヤ。


マジこいつ影薄すぎて気づかないところが難点。




"店変えようかな…"と考えていると
黒子がしょんぼりとした顔でシェイクを啜りながら
顔をあげる。


「何かあれから、屋上厳戒体制がしかれたらしくて
 …入部できなかったらどうしましょう。」

困ったことになりました。と落ち込んでいるが
「それは、ねーだろ。」と俺が一蹴り。

ま、普通に考えりゃただの度胸試しだろうよ、あんなもん。



「それよりひとつ気になってたんだけど、
 そもそもお前幻のシックスマンなんて
 いわれてるくらいだろ?

 何で他の五人みたいに名の知れた
 強豪高校に行かねーんだ?」



日本一になるだ、とか。

キセキの世代倒すだ、とか。

そんなこと言ってるわりに何故?新設校である
誠凛を選んだのか。
実は気にしていたり、いなかったり。


すると、少し思案するような感じで黙っていたが
ゆっくりと黒子は、口を開く。


「…僕がいた中学校はバスケつよかったんですけど
 そこには唯一無二の基本理念がありました。
 それは…


 勝つことが全て。」


勝つことが、全ての帝光中か。
黒子の雰囲気からして仲良くバスケって訳には
いかなかったんだろう。

げんに淡々とではあるが、

個人のプレーが目立っていたこと
それに対しての黒子の想い。


大切な何かが欠落している。確かにそう言った。

だから、自分のバスケで倒したい。

誠凛高校の皆で倒したいと



恥ずかしげもなくコイツは、言うのだ。


なんつーか、真っ直ぐな奴だなと呆れつつ


「したい、じゃねーよ。日本一にすんだよ。」
と我ながら俺もこっぱずかしいこと言ってんだと
思い笑った。

いつのまにかキセキの世代を倒して日本一になる。が
コイツらとキセキの世代を倒して日本一になる。


そんな考えになっているのに俺はまだ気づかなかった。




















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