▽70.


体育館に並ぶ上半身裸の部員達。




頭にハテナマークを浮かべる新入生と
哀れみの表情でその姿を見つめる先輩達。




そんな奇妙な雰囲気で部活は始まった。





始めは心配していたが
リコちゃんが一人ひとり観察し的確にアドバイスをしていき
それを私がノートに纏め上げていく。


もちろんあとでリコちゃんと選手達に見せるためだ。



アドバイスをもらった一年生達は
始めこそは不思議がっていたが

図星をつかれていることもあり
不安がる子は今や一人としていない。

まぁ、日向君が補足してくれたことも大きいけれど。








ちなみに端っこで黒子君もシャツを脱いでいるが


……おそらく誰も気がついていないだろう。



事実リコちゃんも「黒子君は休みー?」と叫んでいるし。


おまけに、そのあと「うわっ。」と驚く声も聞こえる。
いつものことだけれど少し懐かしくもあり
やれやれと微笑んでいるとばちっと黒子君と目が合う。

黒子君自身も困ったように笑っていて

本当に彼が笑えるようになってよかったと
不謹慎ながらも私は思った。







そのあと、結局全体のステータスを
リコちゃんが確認するだけで終わり解散となり

私は体育館の備品や場所のチェックを兼ねて一人残っていると
リコちゃんに「ちょっといいかしら?」話しかけられる。

どうしたんだろう?と思いながらも後を着いて行くと

「せっかくだから一緒に帰らない?」
と誘ってくれたのだ。


断わる理由もなかったので『もちろん。』と返せば

「あ、日向君もいるけどかまわないかしら?」と

言われてしまい後悔するのは数秒後。






しかし、『帰る。』と言ってしまった手前
断わるわけにもいかず、帰る準備をし

三人で帰ることに。





私とリコちゃんと日向君。

なんとも不思議な組み合わせ。
もちろん会話の内容の中心は黒子君についてだ。




「黒子君…だったかしら?
 …彼本当に帝光の試合に出てたの?」

リコちゃんからものすごい疑惑の目で
問い詰められるが、まぁ…無理もないだろう。


『…そうですね。試合にはもちろん出ていましたよ?

 ただ、なんというか彼の凄さは試合の中で発揮されるので
 言葉では形容しがたいんですよね。』




「…試合か…。」

と何やら考え込んでいる日向君の
横でにやりと笑うリコちゃん。


「……分かったわ!試合ね!」



と突如意気込むリコちゃんにどしたのものか?と
首をかしげていると小声で日向君が

「あの、カントクの笑顔は
 何か嫌なことを思いついた顔だ…。」

と怯えていていたのが
まさかこんな形で実現されるとは思いもよらなかった。















翌日





部活に行くとリコちゃん…基監督から
今日は二年生と一年生の練習試合をする、

と言うことで部活が開始する。


想像していたが、やはり火神君は凄い。

ポテンシャルが通常の人とは違うのだ。


また、二年生も少し押されているが
去年良いところまで行っただけはある実力で、
加えて本気でプレーしているが全力ではない様に伺える。






『…やっぱりワンマンプレーが目立つな。』

確か火神君は日本のバスケに幻滅していたのだった、か。



しかし、ワンマンプレイで勝てるほど二年生も甘くなく
だんだんと点差は開いていく。


一年生の中には

「やっぱ、二年生には勝てない。」
と弱音を吐いているものもいる。





もちろん、そんな言葉を許すはずない火神君が
怒りに行くのを黒子君が止めていて

相変わらず、黒子君は…と本日も笑みがこぼれる。





『…リコ先輩。』

スコアをつけながらリコちゃんに話しかけると
「ん?」と聞き返してくれる。






『黒子君の本気はここからですので。』









『見ていてください。』

と笑えば驚いた顔で黒子君を見返す。


「そういえば、彼が出ているのすっかり忘れてたわ。」

と呟くリコちゃんの声にまた、笑みが出たのは秘密だ。





すると、丁度コートで黒子君が
「すみません。適当にパス下さい。」
と一年生に話しかける。

話しかけられた相手はキョトン顔で
「は?」みたいな感じになっているが
点差が開き自棄になっているのか黒子君に荒いパスを流す。






そうなれば、こっちのものだ。


ミスデレクション。


見えないパス。


軌道が読めない動き。



驚くみんなの気持ちが追いつくまもなく
開いていた点差も直ぐに縮まっていくが


最後にシュートをはずす黒子君は
やはりいつもと変わらない。






でも




「だから、弱ぇやつはムカつくんだよ。
 ちゃんと決めろタコ!!」

と火神君がネットにボールを押し込む。




…うん。なかなか良いコンビだ。






その日の帰り黒子君に
「バニラシェイク…おごります。」
と誘われて一緒に帰ることに。


高校入ってからは
あまり一緒に帰ることがなかったので新鮮な気持ちだ。


お店につくと
適当に注文をとり、商品を受け取り席に座る。





『試合お疲れ様、どう?』

黒子君におごってもらったシェイクを飲みながら
斜め向かいに座る彼に話しかける。


「思っていた通り…良いチームです。
 強い強くない関係なく。」

と見た目では本当に分かりづらい笑みを薄っすら浮かべる。

『そっか、良かった。』
と話していたところで向かいに火神君がどかっと、

本当にいきなりどかっと座る。




「よぉ、お前一人…って!!なんでまたいんだよ!」

と私の姿しか捉えていなかった火神君が
黒子君の存在に気づき驚く。


「僕が座っているところにキミが来るんです。
 …好きだからです。ここのバニラシェイク。」

いつもと変わらないポーカーフェイスで
シェイクを飲む黒子君に

「店変えようかな…。」と呟く火神君を見るあたり
ここで何度か遭遇しているのだろうか?




しかし、ため息を吐いていた火神君も
バーガーを私と黒子君に
ひとつずつ


投げ渡してくれる。

運動神経が良くない私は慌てて受けとる姿を
火神君は笑って見ながら


「ま、それ一個分は認めてやる。」と
不敵に笑った。


それに答えるようにまた、黒子君が薄く笑う。







そのあとはガツガツ食べる火神君を見て
食欲が失せつつも食べ終わり
マジバを三人で出る。

何だかんだで

仲良くなってきているのでは?と思わなくもない。





すると、ふと火神君が


「キセキの世代ってのはどんくらい強ーんだよ?」

と投げ掛けてくる。
もちろん私が答える前に黒子君が



「…しゅんさつされます。」

と真顔で答える。ずっこけそうになる火神君を
横目で見ていると彼は苦笑いをしつつ
「…もっと違う言い方ねーのかよ。」
と珍しく愚痴をこぼす。


黒子君はその言葉には反応せず
少し考えるように空を仰ぐ。






…これは、考えるとき、悩んだときの
彼の癖だと私は思っている。





「ただでさえ天才の五人が
 今年それぞれ違う強豪校に進学しました、

 まず間違いなくその中のどこかが頂点に立ちます。」






確信にも似たような声。


しかし全く怯む様子のない黒子君に
火神君が笑みをにやりとこぼす。


「…はっ!そいつら全員ぶっ飛ばして日本一なってやる!」









とかっこよく決めたは良いものの

「…一人ではムリです。」

と間髪いれずに突っ込む黒子君


でも




「僕も決めました。

 僕は影だ。
 でも、影は光が強いほど濃くなり光の白さを際立たせる。

 光の影として僕はキミを日本一にする、」














その、黒子君の顔はすがすがしく
どこか吹っ切れたような顔。




『ふふ、そうだね。私ももちろん強力するから。』


そう言って笑うと少し顔を赤らめる火神君。

体格が良いとは言えども彼らは
高校一年生まだまだ幼いところがある。

ほんの少しのことで照れて慌てて落ち込んで
立ち上がって強くなるのだ。



「ーっ!そ、そいやお前は何で黒子と一緒の高校に!?」

照れ隠しのつもりなのだろう。
ぷいっと他所を向く。

火神君からすれば何気ない一言なのだろうが
ずきりと痛む胸。





『…止められ、なかったんだー。皆のこと。』


こうなることはわかっていたのに。

バラバラになってしまうこも

黒子君が、荻原君が、

こうなることはわかっていたのに。





「あれはななさんの責任じゃ…!!」


珍しく動揺する黒子君に笑いかけて
『そんなことないよ。』と答える。
何がなんだか良く分からないであろう火神君は

頭をガリカリ掻きながら


「あー、なんか良くわかんねーけど
 誰の責任とかそんな面倒なこと考えんだけ
 無駄だろ?

 どうせ、皆ぶっ飛ばすんだからよ!」


と、拳をぐっと前に付きだして
にかっと笑う火神君


「……ほんとに火神君は楽観的ですね。」


「なっ!なんだと黒子!?」




相変わらずの態度ではあるが
少しの笑っている黒子君。







願わくば彼が悲しみにくれて泣くことが





この先ありませんように、と。
私は願う。












prev / next

[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -