▽77,


緑間君と再会をはたしてから
皆で秀徳の試合を見ていたがやはりというか
緑間君は一本もスリーを落とさない。

高尾君もPGとしての動きはとても良く

全体を良く見渡している。

もちろん他にも大坪さんのCは脅威だ。

体格が良いうえリバウンドは逃さない執念。

秀徳の大黒柱…そんな雰囲気。


きっと大坪さんが地盤を固めてサポートに木村さん。
宮地さんと緑間君が点を取り
高尾君がゲームメイクをする。

そんな感じだろうか。


また、そのせいか
緑間君の単独の行動があまり目立たないのだ。

むしろ、そういった所も利点として彼らは
動いているようにも見える。



それに、緑間君の打つシュートはループが高く
ボールがリングをくぐるまでに時間がかかる。

それは、相手が守備に戻る時間を与えてしまうのと
敵側の精神面を削るのに良い時間で。

頭を抱えるリコちゃんの横で
心なしかうきうきしている火神君に苦笑しつつ
リコちゃんから重大発表が言い渡される。

それは、王者との連続二連戦。


準決勝が正邦、決勝が秀徳となかなかハードである。

しかしこんなときでも

「逆境てちょっと…燃えません?」と言う黒子君に
肩の力が抜けて少し安心する。
彼はやる気なのだと…思って。


その後の準々決勝は問題なく
(リコちゃんは頭を抱えていたが)終わり
皆で帰ろうとバス停まで歩く。


しかしバス停に着いた時点で
今日の試合のスコアブックを控え室に
忘れてきたことを思い出し

私は足を止める。

再度ないことを確認しみんなを引き止めると

『あ…皆ごめん!忘れ物しちゃったから
 先に帰ってて。』

と声をかけ来た道を引き返す。

もちろん黒子君や火神君…先輩達も
一緒に行こうか?と言ってくれていたが
今日二試合あったのだ。

そんな疲れている皆にムリをさせる訳にはいかない。


すぐ近く出し大丈夫、とやんわり断わった。



しかし、ここで誰かに着いて来て
もらえばよかったとすぐに後悔することとなる。









私は会場までは問題なく着きスコアブックを
控え室から取ってきて
後は帰るだけのハズだった。


…なのに。



「ねぇ、君さ誠凛のマネージャーっしょ?
 いろいろ、気になるんだよなー。」

と帰り際に通った会場の隅で、そう話しかけてきたのは
明日対戦予定の正邦、津川智紀。一年、SG。

誠凛の情報を聞き出したいのか

嫌がる私を見て楽しんでいるのか
どちらかは分からないが


何故か隅の隅まで追い詰められ

現状いわいる壁ドン状態だ。



彼の笑顔が怖い。



出来るだけ目を合わせないようにして

『そうですけど…何か?』
と、これまた出来るだけ冷たく端的に言い放つ。


「いやー?今年は誠凛どんなんなのかなぁーって
 聞き出そうと思ったんだけど、

 君さ嫌がる顔可愛いね。」


『…か、かわっ!!?』


津川君の爆弾発言に若干引きつつも
身の危険を感じる瞬間でパッと顔を上げてしまう。

それが更にお気に召したのかにやりと笑い
距離を縮めてくる。

『え…ちょっと、困ります。』

あまりの近さに両手で胸を押し返すも
相手は現役バスケ部で180センチほどあるのだ。

私の力では到底かなわない。


「いや、マジでさ。めっちゃ可愛いんだけど。」


どうやら私が嫌だ嫌だ言えば言うほど
燃えるらしくぐいぐいと押してくる。


いや、本当に困った。

こんなMなのかSなのか分からない異常な人の
対応の仕方なんて分からない。
『嫌だ。』と言えば喜ばれるこのしまつ。

仮に『いい。』と言ったしまえば良いのかもしれないが
それを本気にされた場合は最悪だ。

行き場のない気持ちがこみ上げてきて
だんだん目が潤んでくる。



しかし、それさえも津川君には
逆効果に彼の加虐心を煽ってしまう様で


彼の笑みは変わらない。


するりと津川君の手が首筋を撫でる。

『…い、ゃ、』


ぞわりと寒気が背に走り顔を背け目をぎゅっと瞑る。
無反応を決め込んだほうが良いかもしれない…
そう思っての行動だったが

ふわりと柔軟剤の香が私の前を掠めて
次の瞬間バシっと鈍い音が聞こえる。

恐る恐る目を開けると蜂蜜色した髪と
目を引く様なオレンジのジャージが目に入る。



「おい、てめぇ坊主。
 誰の許可取ってこいつ口説いてんだ?
 あぁ?轢くぞ、こら!」


いつもよりやや低いドスの聞いた声に私も
驚いてしまうが
津川君は面白げに笑っていて


「秀徳の宮地清志じゃん、何んす?あれ?
 もしかして、その子とできてるとかです?

 それなら残念っすよー。
 もっと苛めていたかったのに。」

津川君からしたら冗談めかして
言ったつもりだったのだろうが
オブラートに、物が言えない彼の言葉に
宮地さんはぶちギレた様で彼の周りが殺気だつ。


『み、宮地さん!』

慌てて後ろか宮地さんの腕をぐいっと掴むのと同時に
横から
「はいはーい、そこまでそこまで。」
と高尾君がいつもの調子で止めに入る。


宮地さんは少し怪訝そうな顔をするも黙っていて
津川くんぽかんとしている。

「あんた…誰?同じジャージって事は秀徳さん?」


「そ、一年の高尾っつーの。
 それより、さっきあっちの方で正邦の人が
 アンタのこと探してたぜー?」



高尾君がひらひらとさせる手の先には
少し離れた先を歩いている
緑間君…しか見当たらないが
津川君は「やべっ。」と走り去ってしまう。

去り際に宮地さんが少し動きそうになるものの
私が腕を掴んでいるためそれをぎゅっと阻止する。

ほんの少し宮地さんの殺気が減ったところで
緑間君がこちらにつき
眼鏡のブリッジを上げ小さく息を吐く。


「全くお前と言う奴は何かに巻き込まれていないと
 気がすまないのか。」


少し呆れたように、しかし心配の色が見える声。

「しっかしまぁ…笑顔のない宮地さんも
 スゲー怖かったけどな。」

そう言いながら頭を掻く高尾君をみてハッとし
宮地さんの顔をを覗き見ると
怒りはすっかり抜け落ちていてホッとする。

すると、宮路さんはカバンからタオルを取り出し
それをそのまま顔にバフっと投げられ
慌ててキャッチすると「ふっ」と宮地さんの笑う声が聞こえる。


「顔、拭いとけ。そんな顔で誠凛戻ったら
 心配されっぞ。」


宮地さんは自分の目じりを指でとんとんと叩き
ふんわりと笑う。

おそらく涙が流れた後が顔に残っているのだろう。

慌てて拭きながら『ありがとうございます。』と
笑えば安心したように宮地さんも再度笑う。


「ったく、やっと笑ったな。」


その言葉に頭をかしげる緑間君達と私


『私そんなに笑っていませんでしたか?』


「まぁな、いつも久々に会うと泣いてばっかな気がしてよ。」


困ったように笑う宮地さんを見ながら
確かに最後に去年、宮地さんに会ったときは
号泣してたしなぁ…。と思い返す。


すると、ずっと黙っていた緑間君が
顔をしかめて「ななが…泣いた?」と
ぽつりと呟く。

信じられない、そんな顔をして。

それに高尾君も一緒に
「そういや俺も見たことないかも…。」
悩みだす。


『まぁ、あんまり人前で泣かないしね。
 …あの時は、特別というかなんというか…。』

緑間君を目の前にして
まさに君たちの事で悩んでいたんだと
言えるはずもなく語尾が曖昧になってしまう。


宮地さんも少し考えるような態度をとるが

「ま、こんな我が侭な奴らの相手を三年も
 マネージャーとして勤めりゃ泣きたくなることもあるよな。」

と軽く笑いジト目で緑間君を見る。


「な、!!俺はあくまでおは朝に忠実に…!!」

宮地さんの視線を捕らえつつ緑間君が
反論しようとするが横で高尾君が大笑いしているため
それはかなわず高尾君を軽く叩いて
来た道を戻っていく緑間君。

「ーいって。真ちゃんマジになりすぎてうけるわ。」

むすっとした緑間君でさえ面白いと言わんばかりに
高尾君は叩かれた頭をさすりながら
「次、気ぃつけろよ?」と私に一声かけ
緑間君を追っていく。


宮地さんはそんな後輩の後姿をみながら大きく
溜息を吐くと

「本当は送ってやりてぇけど、そうもいかないからさ
 帰りは気をつけて帰れよ。」

とふんわりと笑う。


『ありがとう、ございます。』

その笑顔にどぎまぎしながらお礼を言うと
「おう、今度会うときは笑っとけ。」と言い残し
去っていく。

最後にあったのはほんの数ヶ月前で
一年にもならないというのに
見せる表情は少し大人びていて驚いてしまう。



『本当に自分が年上なのを忘れちゃいそうだよ。』






知らず知らずこぼれる己の笑みを自覚しながら
学校まで戻った。

























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