▽67,







バァンと乾いた大きな音を立てて控え室に入ると

黄瀬君、緑間君、青峰君、紫原君が驚いてこちらを見る。

「ななっち…来てたんすね。病み上がりなのに、

  …って!?そんない息切らしてっ…!?」





と私を心配し支えようとしてくれていた
黄瀬君の手を勢い良く振り払う。

それに、また驚く周り。

ただ一人赤司君は驚いていないが。

『…決勝戦、明洸とのあの試合、なんのなのあれ!?
  手を抜くのじゃ事足らず、


 あんな!あんな馬鹿にしたような試合!!』

声を荒らげる私に対して驚く皆と冷静な赤司君。

あと、静かにうなだれて涙を流す黒子君。



「…ななさん。」とか細い声で私の名前を呼ぶ
黒子君に再度胸が締め付けられる。


「…そんなことつったて弱い方も悪いだろうが。」



と言い放つ青峰君の感情は本心でないことは分かる、


すねているだけ。

ぐれているだけ。


それも分かるが今は受け流してあげられるほど
私も冷静ではなく



『…その、考え方が間違ってるっていってんの馬鹿!

 一度や二度厭味言われて馬鹿にされて、
 それで拗ねて自分も同じことしてたら意味ないじゃない!

 青峰君も同じよ!』


廊下にも響いてしまうんじゃないかというほどの
大きな声で言い切り息が上がる。

青峰君は言いかえす言葉が見つからないのか俯いたまま。


緑間君、黄瀬君に関しては
ただただ驚いている様子で

話には入ってこないも二人とも苦い顔していて。




すると、赤司君が私の腕を少し強めに掴み

「その辺にしておけ。
 今回の試合について最終許可を出したのは俺だ。」

と何食わぬ顔で赤司君は言う。


『……どうして?約束したのに。』

あの日病院で確かに赤司君に約束したはずなのに。
俺じゃない僕の赤司君に。



「確かにしたが、
 今回の試合では守るべき場面ではなかったと判断した。

 漫然と点を取り続けるより、
 こちらの方が選手はよほど集中していたよ。

 その緊張感はおのずと観客に伝わり
 ただ見ている者には良い試合に見せることが出来るだろう?」


悪いと、思っていないのだろう。

悪びれることなく淡々と

そう、淡々と語るのだ。


帝光中バスケットボール部のパフォーマンスとしてと。



「それにテツヤには既に言ったが手を抜くなと言うなら、
 何故他の試合でも何も言わなかった?

 自分と関係のない相手の時は目をつむり、
 友人とやる時だけそれらしいことを言うのか?

 青峰じゃないが勝った方も負けた方も
 満足のいく試合など到底叶わないよ。」



確かに赤司君の言い分はごもっともだ。しかし、

『…そうだね。もっともだよ。でも、私は。』

私は、こうならないために必死で駆け回ったはずだった。


そのはずだった。


けど、それは自己満足だったのだろうか、
と言いよどむと黙っていた黒子君が話し出す。


「僕には…わかりません。

 けど、あの日の勝利は今までのどんな挫折より苦しかった。

 たとえ、それ以外に道がなかったとしても。
 あんな思いは二度としたくありません。

 …バスケットはもう、やめます。」


そう言って更衣室を出て行く黒子君。

追いかけようとするのを黄瀬君に止められる。


「こんなこと、前にもあったスね…。
 行ってもななっちが傷つくだけっスよ??」

真剣な顔の黄瀬君の手に片方の自分の手を添え

『…ありがとう。でも、ごめん。』

とゆっくり手を振りほどき後を追った。



















黒子君に追いつけと走ったのに、
まだ完全に回復しきっていない身体は

すぐに悲鳴を上げ息も切れるは
視界も歪むはで倒れてしまいそうになる。



『ーっ、黒子君いないっ。』

沢山いる選手の波を掻き分けて行くも黒子君にはたどり着けず
ただただ悪化していく体調。

ぐらりと視界が歪み倒れそうになるのを
ぐっと誰かに支えられ地面へ這い蹲ることはなかったが
「大丈夫か?」聞こえた来た声に

色んな感情があふれそうになる。








『宮地さん…。』





















▽▲
















全試合が終わり王者、秀徳高校とも言われるバスケットチーム。

自慢じゃないがなかなか良い成績を収め
仲間と帰ろうとしたときだった。

一度、どん底に落ちそうになったの無意識だろうが
俺の事を救ってくれた女が目に入り


まさか、こんなところで会えるとはと驚きつつ
「ちょっと先行っててくれ。」
とチームメイトに声をかけ駆け寄ると

こけそうになっていて、あぶねぇ。と支える。

その顔は何かに傷つけられたかのように悲しい、
辛い顔していて自然に顔を歪めてしまう。




とりあえず、少しパニックなってるこいつを引っ張り
人気のないところまで連れてくると
近くにあったベンチに座らせる。

もちろん来る途中で『あの!?』と
抵抗の姿勢も見せていたが

俺が無視していたため途中で諦めていた。




「…久しぶりだな。俺のこと覚えてるか?」


今更ながら俺のこと
忘れてたらどうしようとか思っちまうあたり、

まだまだだと思う。

『はい。宮地さん…ですよね?
 直接名前を聞いてた訳ではないですが…。』

と、ぎこちなく笑うこいつの顔を見るのは少し俺には辛く

「ま、覚えてんなら良かった。…で?
 そんな面して何があった?」


と単刀直入に切り込めば再度影を落とす。








『…勝利って何でしょうか。』

搾り出された声はか細く弱弱しかったが

「嬉しいことだ。勝利ってのは自分の為だけじゃない。

 試合に出れなかった同じ仲間の為、

 試合で勝って負かしてきた
 相手のチームの為でもあると俺は思う。」





勝つことだけがすべてじゃねぇ。

勝ってる奴らだけが主役なわけでもねぇ。


「それに、このことを教えてくれたんのお前だぞ?
 …何があったかは知んねぇけど…」

まで言うと目の前で泣き出す。



それに動揺してしまうが
同い年の男子はみんなこうだと俺は思いたい。

すると

『ーっ…そうですよね。私大切なこと忘れてました。
 勝つことは自分だけの為じゃない。

 …確かにそうでした。』


涙をぐしぐしと裾でぬぐいながら顔を上げると、
今度は満面の笑みを返してくれて
ガラにも泣く照れてしまう。

「ま、まぁ、元気になったなら良かった。」

と顔を逸らせば

『すみません。名前をまだ言ってませんでしたよね?
 私は浅葱ななです。』


と真正面向かれて笑われれば、こっちも正面向くしかなく
「俺は…宮地清志。改めてよろしくな。」

と言えばななは満足そうで。
















この日完全に恋に落ちてしまった俺だが、
この恋が前途多難であることは、





あと数ヵ月後に知ることとなった。

















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