▽66,


そして始まった全中。



結果報告を毎度毎度さつきちゃんがメールで
入れてくれて状況は把握している。

何の問題もない。

現在圧勝中。



良かった。スコアも一緒に教えてもらい
確認できる限りでは


確かに圧勝しているがふざけている様子も

今のところ見受けられない。





私も少し歩けるようになったし
明日は観戦にはいけるだろうかと考えていた

その日の夜だった。


高尾君からの電話。

珍しい、とも思ったが今日は全中。
試合のことかもしれないと部屋を出て電話を取る。




『…高尾君?…どうかした?』



電話に出ても聞こえない高尾君の声。
しばらく続く沈黙の先でわずかに聞こえる
鼻をすする音。


「…最後の全中だったんだけどよ。
 負けちまった。

 ななにも練習見てもらったけど

 やっぱ帝光には勝てなかったわ。」


中学校三年間一度も帝光に勝てなかったと泣く
高尾君。

彼らキセキの世代には覚えのない痛み。




『…高尾君。今何処にいるの?』


下手な慰めは逆効果だろうと思い場所を聞くと

「…××公園。」と意外と病院から近い
公園の名前が出てきて『今から行くからそこにいてね?』と
電話を切り病院を出る。


十分とかからない程度でそこに着くと
ベンチに高尾君がいて、まだジャージなところを見ると
家には帰っていないのか。



「…よっ。」と軽く手を上げる高尾君に
勢い良く抱き驚く高尾君を他所に

『お疲れ様。見にいけなくてごめんね。
 でも、高尾君が頑張ってたこと私は知ってるから。』

そう言って力を込めれば私の肩に頭を乗せる高尾君。

「ーっ、マジ情けねえ。…けど、ありがと。」


と高尾君と二人でしばらくの間何も話さず公園にいて
真っ赤に腫らした目で最後は高尾君は笑い

「良く考えりゃ高校もあんし、もっとがんばねぇと。」

と立ち上がってくれて私にも笑みがこぼれる。


明日は試合を見に行こうと心に決めて。



























しかし、恐れていた事はあっさりとやってくるもので













全中、決勝戦。



この日怒る婦長さんをなんとか説得し
会場まで来てあたりを見渡す。

結局、キセキの皆は後ろめたい気持ちからか
試合が近くて忙しかったからか

あの日の赤司君以外は顔を出してくれてはいない。

さつきちゃんは来てくれているが。







『婦長説得するのに時間かかっちゃったな。』


見回して見ると既に試合は始まっていて
丁度、準決勝中で帝光対鎌田西、双子のところだ。

『また、あそことの再戦か。』と見ていると
何やら双子が躍起になっているようで

プレーが雑に見える。


また、皆のプレーもさつきちゃん話どおり
どこか殺伐としていて基本パスは出ない。



なんともいえない気持ちで試合を見ていると
相手側の肘が黒子君にあたり倒れこむ黒子君が見えて

運ばれている様子に意識がないんだと判断し
直ぐに会場を出て選手の医務室へと向かう。



『…大事なければいいけど。』


そんな思いを呟きながら。



制服で来ていなかったことが駄目だったのか
なかなか中に通してもらえず苦戦を強いられたが

途中、親切な男の子に出会い訳を話すと
一緒に行こうと話してくれる。

彼は、明洸中三年荻原君。

明るく元気でまっすぐな子だ。

彼もまた試合中に倒れた黒子君に会いに行くんだとか。


「いやーでも奇遇っすね!」

と話す荻原君は本当にとても良い子で。




『そうだね。荻原君がいてくれてよかった。』

と直ぐに打ち解けて話していた。
すると、医務室の前にさつきちゃんが居て
「…ななさん。」と少し驚いている。

それもそのはず。今回見に来ていることは
誰にも伝えていないのだから。


それに気がついていないのか荻原君が

「黒子君っていますか?」

とさつきちゃんに話しかける。
驚きつつもさつきちゃんは

「あ………はい、けどまだ目が覚めなくて…。」と
歯切れが悪い。
それ対して荻原君も目を伏せつつ
「……そーすか。ありがとう。」と話していると






「誰だいキミは…テツヤに何か用かい?」

と後ろから赤司君が現れる。
私の方をちらり見やるも驚きはしない。

想定内…と言うことか。

そんな私と赤司君の無言のやり取りに
気がつくわけなく荻原君は話し出す。


「明光中の荻原シゲヒロ。友達の見舞いに来たんだ」

そう言うや否や赤司君は「ふむ。」と
考え込み
「決勝戦の相手か。」といっていて
何かいろいろと納得していたようだったが

「まあ、結果は同じことだ。検討を祈るよ。」
と興味もなさそうに私たちの横を
通り過ぎようとした



その時だった。



「…ちょっと待てよ。あんたバスケやってて楽しいか?」

と荻原君が赤司君を止める。
私ももちろんさつきちゃんも驚いていて。

しかし赤司君はいつになく冷たくて
「意味が分からない。まさか楽しく…とでも言うのか?」
と彼の言葉を一蹴りするが

怯まない荻原君。

「負けたら悔しいさ!
 けど、次勝とうって頑張れるし勝ったときら嬉しい

 だからバスケは楽しいんだ!」


一生懸命な荻原君の言葉に私は少し涙が出そうになり
ぐっとこらえるが、どうやら赤司君には響いていない。

「全く響かないな。負ければただのきれいごとだ。」
と言い放ち立ち去る。


「黒子にまた絶対やろうなって…」と叫ぶ荻原君の姿は
私は涙でぼやけて見えなかった。




彼のような気持ちが大切なのだと実感しながら。










そのあと結局黒子君には会わず
酷く険しい顔した荻原君に


『ごめんね?』



と言えば
「アンタが悪いわけじゃないから謝らないでくれ。」
と、あんなこと言われたにも関わらずニカッと笑う荻原君。

『ううん。謝らせて。
 彼らがこうなること分かっていたのに
 止められなかった私の責任でもあるから。』

私は荻原君のようには後ろめたくて上手く笑えない。

荻原君のような心を彼らにも持たせてあげたかったと
…そう思うのは驕り…だろうか。



「俺さ、帝光中は確かに強しすげーと思うけど
 …皆冷たい目してんだよな。

 確かになんかあったのかも知んねーけど、
 あれはアンタの責任じゃないと思う。

 よくわかんねーけどな!」

と再度笑う荻原君に
『ありがとう。…次の試合応援してる。』と
拳を二人でつき合わせて笑い決勝戦は始まった。









観覧席に戻り試合を見やる。問題なく進んでいると思った。



しかし、そう思ったのははじめだけだった。








明らかに相手にしていないバスケスタイル。

わざと横を抜けさせる皆。

一人緑間君は真面目にしていたが
それ故ここぞと言うときにしかまわされないパス。

直ぐに気がついた。



だから、再度走って下の会場まで行こうとしたが、



いつだって気づくには遅く、

行動するには躊躇いが残り間に合わない私。








なんとか人を掻き分け降りると
終了のブザーが響き渡り泣き崩れる黒子君が見えた。








ああ、結局私は何も変えられなかった。と











その現実を突きつけられて。































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