▽65,


あの日から変わってしまった帝光バスケットボール部。


一つは部活にこなくなった
私の幼馴染の青峰君と

赤司君との1or1で負けたむっくん。


もう一つは豹変してしまった赤司君に



ななさんの入院。






一日でいろんなことが起こった日。




あの日から数日以上たつというのに
ななさんの目は覚めない。



目撃した人の情報によればどこかの同い年くらいの子に
河へ突き落とされた事が確認されているらしいが

それが誰なのかもわからない。




ただ分かるのはあの日から


殺伐とした部の雰囲気。








こんな状況で三年最後の全中を迎えようとしていた。






















▽▲



















聞き覚えのある機械音につられて
私の意識は少しずつはっきりしていく。

やけに右手が痛い。



重たいまぶたを持ち上げると真っ白な天井に
白いカーテンが視界の端に入る。

ああ、ここは病院なんだな。と


そう思い痛みを感じる右手に視線をやると
見覚えのある少年が一人。


『…花宮君。』




試合だったのだろうか、
ジャージ姿のままの花宮君がそこにいて
規則正しい寝息をたてている。


顔にはうっすらと涙の後。


また、花宮君にきつく握られた右手が
痛みを訴えていたのだと気づく。






私は上半身を花宮君がおきないよう起こすと
ベットの上におかれているトーナメント表を見つける。


おそらく花宮君のもの。



そのトーナメント表を開くと、どうやら今日は
霧崎第一と誠凛との試合があったようで

その終わりに立ち寄ってくれたと言うことだろう。


そんなことを考えていると

花宮君が身をよじりだし起きる。



少し驚いた顔をすると


「てめぇなな…何ヶ月寝たままでいるきだ。」
と開口一番に怒ってくる。





『私そんなに寝てたの?』

と驚けば「っち、めんどくさい心配かけさせんじゃねーよ。」
と答えにならない回答が帰ってくるが

安心したような顔に私も顔が緩む。


しかし、いつもよりどこか元気がないように見えて


『…今日、何かあったの?』

と聞けば「……別に。」と顔を背けるも
花宮君が答えに一瞬の間を取るときは嘘をついているときだ。


『うそ。…長年一緒に居るんだから
 もう、花宮君の嘘見抜けるんだから。』

そう言うと更に右手にこめられる力。



「生意気いってんじゃねーよ、ばぁか。
 ……俺は…後悔なんてしてない。」






馬鹿と私をののしりながら傷ついたような顔で
うつむく花宮君。



『…何があったか分からないけど
 自分自身を騙しちゃ駄目だよ?

 辛いなら、辛いって言って。

 助けてって…言って。』


起きたばかりで回らない頭で一生懸命話すも
想いは伝わるだろうか。

すると、突然立ち上がった花宮君は
ベットに片足を乗せ
私の背中に手を回すとぎゅっときつく抱きしめる。




「馬鹿か、お前は。痛いの辛いのななの方だろうが。」


確かにそう言った花宮君の声が震えていて
私も彼の背中に手を回す。



「…もう少し、このままで動くな。」


と花宮君らしくキツイ言い方だったが
黙って背中をさすった。





しばらくして私は意識を再度手放し
寝てしまったようで

目を覚ますと花宮君の姿はなかった。


だが、同じ病院に昨日"木吉鉄平"という名の
高校生が膝を試合中に痛めて
搬送されたことを看護婦さんのうわさで知り

花宮君がおかしかったのは
このことだったのかもしれない…と少し思った。









また、目が覚めてからは

高尾君や

さつきちゃんがお見舞いに来てくれて
嬉しかったが

どうやら私は、とても長く寝ていたようで
全中が近いことをさつきちゃんに教えてもらい
驚いた。

それに加え今の部の状態も聞き


泣きそうな顔して話すさつきちゃんに
申し訳なくなり私も黙ってしまう。



『…そっか、マネージャー業をまかせっきりで
 ごめんね?』

とさつきちゃんに言うと「大丈夫。」と
顔を横に振る顔色はさえない。




「…でも、青峰君とテツ君はたぶんあの日自分達を
 追いかけて行ったことがきっかけでななさんが

 こんな風になっちゃったと思ってて

 特に元気なかったから目が覚めたって知って
 少しは元気になってくれると思うんだけど。」


河に落ちたあの日。

いや、落とされたあの日。




目が覚めてから幾度となく「誰に落とされたか?」
という質問を大人からされたが

どうしても、水色君とは言い出せなかった。





『…そっか。二人の責任じゃないのにね?』

と笑うと「そうだね。」と返してくれる
さつきちゃん。

そんな話をしていると病室のドアがガラっと開き
赤色の彼が入ってくる。


その雰囲気は以前とは全く違う物で。


「…赤司君。」とさつきちゃんが呟くと

「桃井か。すまないがななと二人で話がしたい。
 席をはずしてもらえるか?」

と有無言わせない雰囲気で言い放つ。
少したじろぐさつきちゃんの肩に手を置き


『そんな言い方しちゃ女の子は怖いよ。

 さつきちゃん、じゃあまた今度。』

と笑いかけると「ごめんね?」と笑い返してくれて
病室を後にする。


赤司君と二人の部屋。



異様な空気が流れる。







『…はじめましてって言った方がいいのかな?』



そう冗談半分で言うと赤司君がクスリと笑い
先ほどまでさつきちゃんが座っていた椅子に
腰掛ける。



「何度か君には会っているし、僕の存在にも
 気がついていたんじゃないのかな?」


笑っているけど笑っていない表情。

近くで見るとオッドアイの橙色の目が
綺麗に見える。


『そうだね。知ってたよ。
 赤司君の中にもう一人の赤司君が居ること。

 …なんて呼ぼうかな?君の事。』





「何だってかまわないさ、好きにしてくれ。
 ただ、僕は俺から入れ替わった。

 もう後には引けない。
 君も何か色々と隠し事をしているようだけど
 不毛なことだ。」



目の前にいるのは赤司君なのに赤司君じゃない人で
つめたい言い方。

『不毛なことなんてないよ。
 …赤司君…バスケは楽しい?』




少し驚いた顔した赤司君はうそ臭い笑みを
崩さずに


「…テツヤにも良く聞かれていたよ。
 だが……。」


『勝つ以外は不要なこと?』



言い切る前に聞けば、「そうだね。」と
返される。


『ね、お願い。この先どんなチームになってしまっても
 試合には手を抜かないでほしいの。』


この先、いや、既に点数取ったりなんだったりと
ゲーム感覚で試合をしている。

そんな感じがするとさつきちゃんは言っていた。


三年最後の全中。



黒子君の心が折れてしまう一瞬。





大切な友達の荻原君を傷つけてしまう一瞬。






「…それは約束しかねるな。

 今のチームは必ず勝てるが、それではただただ点を取るだけで
 緊張感のない試合になってしまう。

 それでは選手には良くない。」




『そう言うことをいてるんじゃないの。
 一人何点は取らなきゃいけないノルマとか

 そう言うのは良いの。まだ、良いの。


 でも、たとえば点数をコントロールするような
 ボールをむやみに遊ばさせるような


 そうゆう相手を馬鹿にした試合をしないでって
 そう言ってるの…お願いだから…。』


消えてしまいそうなそんな、情けない声が出てしまう。


自分でもわかる。

暫く寝ていた為衰えている体。

恐らく全中までに回復は厳しいかもしれない。


私に出来ることは限られている。



続く沈黙の中、赤司君が言ったのは
「分かった。約束しよう。」
と言う言葉だった。





今の彼はどこまで本心で言っているか分からないが
信じるしかなく



『ありがとう。』とぎこちない笑みで返した。



















しかし、そう上手くことは運ばなかったのだ。

























































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