▽57,






『…へっくしゅん。』




ずずっと鼻をかみながら
ソファーの上で体育館座りをしている。



今日は黒子君が一軍メンバーとして
始めての交流試合があるのに


私は熱を出してしまうと言う失態を犯してしまった。






始めは無理してでも行こうかと思ったが


タイミング悪く朝、緑間君から

おは朝占いのラッキーアイテム入手の為
電話がかかり



声が変だということがバレ、
その流れで風邪ということがバレた。



大丈夫だと言う私に


「コーチや主将には俺から伝える、
 だからたまには休みのだよ。」

と電話を一方的に切られてしまう。




「しまった。」と思うも
緑間君は有言実行派。


まず間違いなく報告するだろう。




本当は休みたくないし
今ならまだ誤魔化せるかもと

緑間君より早くコーチに電話しようとすると





携帯が震える。

ディスプレイには”虹村さん”の文字。



「あ、やばい詰んだ。」と思った瞬間だった。




いや、しかしコーチより先に虹村さんに報告する
緑間君の性格の悪さ。

計算してか天然かは分かりかねるが。




もちろん電話口の虹村さんは


「風邪か?大丈夫か?今日は気にせず休め。」
と言ってくれているが
私的には休みたくないため

『いえ、行きます。』と言えば

「駄目だ。」と速答され泣く泣く折れたのだった。







そんなこんなで家で現在待機中。


市販の風邪薬を飲んでぼけーとしていると、
ぴぴぴと体温計の機械音が鳴る。





『38度3分…かぁ。』



予想以上に高い熱に一瞬くらりとするも
子どもって体温高いし

このくらいならまだ大丈夫か
なんて少し楽観的に考える。



それでも風邪薬を飲んでこの熱の高さは
流石に病院に行かないといけないかな…。

と思いつつ重たい腰を上げ服を着込む。




しかし、そんな中でも気がかりなのは
黒子君のことで

黒子君大丈夫かなぁ。なんて心配しながら玄関を出た。








病院は事前に連絡していたこともあり
待ち時間も少なくお昼になる前に受診がおわる。



打ってもらった点滴で
大分落ち着きを戻し意識もはっきりしてくる。

吐き気も無い。


よしよしと思い歩いていると
見慣れたジャージを着た人が少年を引きずっている

摩訶不思議な光景を目にする。



…あれは帝光のジャージだ。








しかも良く見るとジャージを着ている人に
引っ張られているのは
灰崎君の様な気もしなくは無い。



すると引っ張られている灰崎君と目が合う。






それを黙っていられる性格ではない灰崎君は

「あ!!」と大声を上げるものだから
引きずっていた人が止まり振り返る。

灰崎君を引きずっていたの予想はしていたが、
やはり虹村さんだった。





私の姿をとらえると灰崎君を引きずったまま、

こちらに近づく虹村さん。


私も二人の方へと歩く。





「ななっ!風邪は大丈夫か?」

が虹村さんの第一声だ。
嬉しいような、恥ずかしいような

そんな気持ちになる。




すると、さらりと虹村さんが私の額に手を当てると
顔を少ししかめる。

どうやら、熱の高さが気に入らないようだ。




『解熱剤も打ってもらったので大丈夫ですよ?』

と笑うと、

「そうか。」と返してくれるが
あの顔は絶対信じていないな。





いや、しかし本当に良く見ると

灰崎君がなんだかぼこぼこにされていて傷だらけ。
私よりか重症に見える。



すると灰崎君が

「っんだよ。てめぇはサボりじゃねーのか。」

といじけていて。





『…灰崎君さぼったんだ。試合。』

と呟けば「ん?まぁ。」と
横にいる虹村さんが怖いのか歯切れ悪く答える。


その態度にカチンときたのか
「まぁ。じゃねぇ!!」
と虹村さんがベシっと灰崎君を叩く。


「今からこいつ会場まで引っ張って行くが一人で帰れるか?」



と虹村さんが心配そうに顔を覗き込む。

『大丈夫です。ありがとうございます。

 …それより試合はどうですか?』

黒子君のことが気になっていた私は
虹村さんにここぞとばかりに質問するが

横では灰崎君が


「お前あのチビと仲良いのか?」

と少し驚いている。


虹村さんはそもそも私と黒子君が仲が良いことを
知っていたため驚きはしないが

それ故か気まずそうに


「…あいつか。午前中は調子が悪くてな。
 午後も出してもらえるか、どうか。」



と言い淀む。

虹村さんの表情からして状況は芳しくない
ということだろう。

その言葉を聞いて私は跳ねるように方角を変え
走り出す。


後ろで虹村さんが「ななっ!!」と
呼び止める声が聞こえるが

「すみません!!」と叫び返しつつ
私は走ることをはやめなかった。








少し走るとやや大きめの会場へとつく。



『…会場は確かここだったはず。』

と息も切れ切れになりながら敷地にはいると
いろんな学校の生徒があふれかえる中で帝光の皆を探す。


すると建物の陰で聞き覚えのある声が聞こえる。


『あれは…青峰君?』


建物に近づくと青峰君と黒子君が話している
真っ最中で。


「チャンスは残ってる。テツには掴む力だってある。
 できるさ!」

と笑って話している青峰君。


内容がすべて聞き取れていたわけではないが
落ち込んでいる黒子君を

青峰君が励ましていると言ったところか。


私も二人に駆け寄り

『私も黒子君なら掴めると思う!』


と言えば驚いてこっちに振り返る。


「ななさん。…。」

と黒子君がつぶやくと青峰君が

「なな…。お前、顔がすごく赤いけど
 風邪だったんじゃねーのか?」

と心配してくれていて続いて黒子君が
「そうですよ。良くなったようには見えませんが。」
なんて言いながら眉が下げる。



そんな二人に『病院に行ったから大丈夫だ。』と
笑って見せる。



『少し心配で見に来たんだけど不要だったね。』


と笑って二人の背中を押す。


『ほら、お昼の時間終わっちゃうし
 私は帰るから。』


そう言うと、しぶしぶ皆のところへ
戻っていく。

心配そうに見ている二人に笑顔で手を振り
見送る。

姿が見えなくなり安心して一気に襲ってくる気だるさ。






『全力で走ったのが悪かったのか…。』


ふらつきその場で倒れそうになる。


意識を飛ばしてしまいそうになるのを
なんとか堪えていたが

だんだんと薄れていく意識。


『……このままじゃ。』

と思うも手遅れで倒れる寸前に誰かの声が聞こえた
そんな気がした。















▽▲

















「おっと。大丈夫ですか?」




試合が終わり帝光中に敗退。
最後の三年目で一回も帝光に勝つ事は出来なかった。


仲間に肩を叩かれながら

「高校になってもバスケやろうな森山。」

と励まし合いながら
話して観戦に戻ったのは数分前。


既にこの時点で神奈川の高校、海常高校の内定を
もらっている。



全中を終えて引退しか残っていないが
まぁ、充実した三年間だったとは思う。




そんなことを考えながら歩いていると
少し離れたところで、ふらつく女の子が目に入る。


慌てて近寄り体を支えると
既に意識を飛ばしていて触れた部分が

かなり熱い。

はっはっと、とぎれとぎれ息をしていて
熱があるようだった。




「私服のようだし、どこの子だろうか?」


とりあえず近場のベンチで寝かし鞄を漁る。

「俺ハンドタオルなんて持ってたかな?

 ………っお?あった。」



鞄から取り出したハンドタオルを近場の水場で
濡らして絞ると

額に乗せてやる。

『…っんん。』と一瞬身をよじるも起きる気配は
ないようだ。



「辛そうだな。」



苦しそうに息する女の子の頭を撫でる。


「こんな状況じゃなきゃ名前を聞けたんだがな。」


眠っている女の子を見ていると
だんだんとこちらも眠くなってくる。

あくびを噛み殺しながら
女の子の頭を自分の膝に乗せ

蹴伸びをして目をつむる。





眠ってしまうのに時間はかからなかった。












何時間何分経ったかはわからないが
ポケットに入れていた携帯が震えて目が覚める。

どうやら電話がかかってきていたようで



ハッとして寝かしていた女の子を見ると
まだ眠っていて
先ほどの振動では起きていないようだ。


さらりと頭を触るとまだ額は熱いが

だいぶ息は整っていて


ゆっくりと膝から頭を下すと荷物を持ち少しベンチから
離れて電話に出る。

チームメイトからだ。





「おーい。森山ー。お前何処にいんだよ。
 試合全部終わっちまったぞ。」

と言われ時計を見ると、けっこうな時間がたっていて



「悪い悪い」と返事をして少し話し電話を切る。


そろそろ戻らないとなと思いながら
ベンチに戻ると、先ほどまで寝ていた女の子が

いなくなっていて

あたりを見渡すも姿はなく



「起きたんだろうか…?。名前を聞けば良かったな。」
と誰に言う訳でもなくひとり呟いた。















▽▲






















眠ってしまってから、どのくらい時間が
経ったかは分からないが

人の温もりを感じて起きると誰かに
背負ってもらっているようで

『…青い髪。……青峰君?』


と声を出すと「お?起きたか?」と
青峰君が安心したように言う。

良く周りを見ると、黒子君、緑間君、赤司君、紫原君
全員勢ぞろいで私は青峰君に背負われている。


『あれ…?みんな試合は?』



と聞くと呆れた様に緑間君が眼鏡のブリッジを上げ

「既に終わっているのだよ。…もちろん勝ってだ。」

と答える。



『…良かった。』と言えば紫原君が

「全然良くねーし。アンタと連絡取れないって
 主将が騒いで、峰ちんが会った―とか言うから

 皆で探して、したらななちんがベンチで寝てるとこ
 見つけて、ちよー驚いたし。」



ちらりとこちらを見て話す紫原君は
怒っているようにも見える。


『………ごめんね。迷惑かけて。』


と言えば

くすりと赤司君が笑い

「紫原は怒っている訳ではないよ。
 心配しているだけだ。

 ……もちろん少し俺は怒っているけれどね?」


と不敵に笑う。


ひいっと思い青峰君の肩をぎゅっと握る。

「しかし、それでも主将を宥めるのは少し
 骨が折れましたね。」

と黒子君が困ったように笑う。

想像しただけでも大変そうなのが目に浮かぶ。
ははっとから笑いで返せば

「でも、こんな状態にも関わらず僕等の為に
 来てくれてありがとうございます。」

と笑ってくれる。

しかし、

「でも、まぁぶっ倒れてりゃ意味ねぇけどな。」

と青峰君が水をさすような言葉を言うので

後ろから『もうっ。』と青峰君を叩けば
「いてっ。」と顔をしかめる。






『………皆ありがとう。』




と最後につぶやけば

「今しばらく寝とけ。」と青峰君に言われ
再度青峰君の背中に顔を埋めた。




















後からバカは風邪ひかない。と言う理由から
青峰君が背負っていたことが判明した。



あと、ハンドタオルが額に乗っていたと
黒子君に渡されたが私の物ではなく。


しかし、このハンドタオルを見ていると
薄っすらと誰かと居たことを思い出す。

本当に薄っすらで思い出せないが


何だか優しさを感じて大事にしまったのだった。










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