▽56,







黒子君が一軍へ昇格してから翌日、


いつも通り部活を行っていると
さつきちゃんが黒子君を呼びに体育館を出る。





やっと黒子君が一軍に合流するんだと
思い嬉しくて私の顔が緩むのがわかる。






すると、さつきちゃんが
「失礼します。黒子テツヤ君連れてきました。」

と体育館に戻ってくる。



直ぐに虹村さんが気づき
「おう、サンキュ。」と返す。



皆も練習していた手をいったん止め
黒子君に視線が集中する。




その状況に黒子君は少し緊張しているようだ。





すると青峰君が嬉しそうに

「おっ!ついにきたな!テツ。」

と笑う。
私もついついにやにやしてしまう。




その様子に少し黒子君の緊張も
ほぐれるかと思いきや赤司君が


「…やぁ。待っていたよ。ようこそ帝光バスケ部一軍へ。」

と話し出し最終には


「勝つことだ。」




なんて言うものだから
体育館にピリッとした空気が流れる。




私自身どうして帝光は、
こんなに勝利に固執するのかが分からない。







大人の事情は分からなくもないが、

あくまで学校は教育を中心としているはず。


こんなんではひねくれた子しか出来なさそうだと
思わなくもない。



そんなことを考えている私の横で

緑間君と紫原君は黒子君という存在が
一軍に来たことに驚いていて

紫原君なんて

「えーほんとに来たのー?」

と声に出してしまっている。





やれやれと思いながら黒子君のところに
行こうとすると

遅刻してきた灰崎君がやってきて黒子君にぶつかる。





ぶつかったくせに何やら色々と
失礼なことを黒子君に言っている。






『はいはい、灰崎君遅刻しすぎだから。
 しかも、そのくせ堂々としすぎ。』

と黒子君からべりっと引き剥がすと





「お前が毎夜一緒に寝てくれたら
 ちゃんと起きれるかも。」


なんてにやにやしながら言って来るので


『もう、馬鹿言ってないで…』

と怒ろうとすると虹村さんの腕が伸びてきて
灰崎君の頭を鷲掴みにし


「あ゛あ゛」とどす黒い笑みを浮かべている。




『に、虹村さん落ち着いてください。
 私、何もされてませんから。』



と急いで止めに入ると

「してなくても言ってる時点でアウトなんだよっ!!
 遅刻もしてきやがっててめぇは!」


とぶんぶん灰崎君を振り回す。




『に、虹村さん灰色君死んじゃいますから。ね?』

と言えば止めてくれる虹村さん。

灰崎君は顔面蒼白だが。





そんなやり取りを見て黒子君は驚きつつも
くすりと笑い

「よろしくお願いします。」と頭を下げたのだった。











その後の練習は黒子君にとっては過激な物で

途中何回もリタイアしそうになるのを
励まし最終をむかえたが、

居残り練習をする余裕はなかったようで


ふらふらとロッカーへ消えてゆく。


急な移動だったため、まだ三軍のロッカーなのだ。








皆も着替えるためロッカールームへと消えていく。




その後さつきちゃんと体育館の片付けや
タオルやユニフォームなどをしまい終える。

ひと段落着いたところでさつきちゃんが



「ななさん一緒に帰えらない?
 青峰君たちとも帰るんだけど。」



と誘ってくれる。


たまにではあるが、この三人で帰るときもある。








『もちろん!!って言いたいところなんだけど
 教室に携帯忘れちゃって、

 取りに行かないといけないからごめん。また今度ね!』


と手を合わせれば

「ううん。分かった。」と、さつきちゃんは笑った。



うん。優しい。いい子だ。
こんな可愛い子を幼馴染としてしか見えないなんて

青峰君の好みは私には良く分からない。

『青い狼、青峰君に襲われない様気をつけるんだよー。』

と笑いながらさつきちゃんに別れを告げ

職員室に寄り鍵を借りようとすると
既に貸し出し中で無く


そのまま教室へと戻る為歩き出す。





暗い廊下は人気もなく若干不気味だ。



皆と会ったあの世界を彷彿させる。






廊下を曲がり教室が見える廊下に出ると

予想はしていたが教室には明かりがついていて
誰か居るのかな?

と思うも廊下からは人影は見えない。






そのままガラッと開けると私の席の横、
緑間君の席の近くで誰かが倒れていているのが見えて

慌てて近寄る。





『…っ!大丈夫?』と声をかけると
気だるそうに振り返ったのは、




水色君だった。





一瞬驚きはした物の苦しそうな様子の水色君に
頭を切り替え身体を支えてあげる。

すると、水色君が


「俺のカバンに薬が入ってるから取ってくれ。」


と目線でカバンの位置を示す。



幸いにもカバンは近くの床に放り出されていて
急いでカバンを引っつかむ。



『ごめんね。』と一言断りを入れ
カバンを覗くと病院独特の紙袋が入っており取り出す。


錠剤が三種類。


その中に、発作用と書かれた物があり
『これ?』と聞くと小さくうなずく。



紙には二錠と記載があったので二つ取り出すも
水色君のカバンに飲み物が無いことに気づき
自分のカバンからお茶を取り出す。




『一回口つけちゃってるけど綺麗だと思うから。』


と気休めにもならない言葉をかければ
苦しそうに笑う水色君。




本当は、薬はお茶で飲むべきじゃないんだけれど

そうは言ってられない。



薬と一緒に渡すとお茶で薬を飲み込む水色君は

一度口をつけたよ、

と教えたにも関わらず口をつけやがった。






薬を飲んで数分息を整えるように肩を動かすと


「ありがと。だいぶマシになったよ。」

と立ち上がる。






『…大丈夫?こんなところでどうしたの?』



水色君からお茶を受け取りながら尋ねると

バツが悪そうな顔をして視線を逸らせば
「……忘れ物してね。」と言いよどむ。



しかしすかさず

『自分のクラスでもないのに?』

と聞くと跳ねるような速さでこちらを見返す。

『ここ、私のクラスなの。』

と言えば、




「それはミスしたな。
 …まぁ忘れ物ってのは本当だけどちょっと興味があって。」



と一つの机を見つめる。
その机は黒子君のものだ。



『黒子君?』

と呟くと

「そういえば黒子と仲良かったっけ。」

と返される。

それに対して小さくうなずく。





「あいつ冬季昇格テストで一軍になっただろ?
 …俺も二軍にあがることは出来たんだけどさ
 羨ましくってな。」

自傷じみた笑みを浮かべながら話す水色君。



その心内は私には分からないが凄く悲しそうだ。




「時間がないんだ。見ただろ?

 俺発作持ちでさ
 …激しい運動なんてこの先続けられないんだって。

 もちろん、二軍に上がれたことは嬉しいけどよ。」



と俯く。



確かに、倒れている水色君を見たとき

ただ事ではないと思っていたが、
運動が出来なくなるほどだなんて思っておらず

かける言葉に躓く。




「どうして才能を見出されたのが黒子で
 俺じゃなかったんだろうってね。」

と悲しげな水色君に



『…黒子君、努力家だよ?』

と小さく返せば

「知ってる。」と悲しそうな笑みを浮かべていて





「あんたがもっと馬鹿な奴だったら、
 こんな余計な話しなくても良かったのにな。」

と出口に向かって歩き出した水色君は続けて


「まぁ、でもあのカラフルなメンバーに
 好かれてんの分かる気がするわ。」

と最後にそう言って手をひらひらさせながら
私が言葉を発する前に帰っていった。







どうすることもできない私は自分の無力さに嫌気がさし
しばらく教室から動けなかった。





























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