▽48,





昨日と同じようにご飯を食べ

昨日と同じように黒子君にゼリーを渡し、

昨日と同じようにお風呂に入り




寝る前の最後のミーティングに顔を出す。



違うところといえば、



もちろんこの後に白金監督に呼び出されているということ。




ちなみにご飯のときは緑間君に

「…気持ちは分からんでもないが、
 ここまで静かだと気味が悪いのだよ。」

とか、黒子君からは


「何だが今日は元気がないですね?」

と心配されて申し訳ない。






しかし正直緊張はピークに達していて
先生のお言葉なんて右から左へと流れていく。



そうこうしている間にミーティングという最後の砦もなくなり
既に後には引けない状況。


いや、そもそも後に引ける状態ではなかったが。





どうしよう。
と思っていると虹村さんが

「ほら、行くぞ。」と呼びに来てくれたので
彼の後ろを歩く。



「どうした?さっきから元気ねえな。」






虹村さんも虹村さんで私の緊張が伝わってきたのか
少し心配そうに様子を伺ってくる。




「怒られるようなことはしてねえだろ?大丈夫だ。」

と安心させるように言ってくれるが
怒らせるようなことを既に言ってしまっているのだ。



ぎこちなく笑みをこぼすと、
頭わわしゃわしゃと撫でられる。

くよくよしたって意味ないことは
分かってはいるんだけどなぁ。


と考えていると監督の部屋の前で。

躊躇いもせず丁寧に虹村さんがドアをノックする。




すると間を置かずに白金監督の声が聞こえてくる。



「…入りたまえ。」




『失礼します。』と虹村さんと一緒に入る。

私たちが通常利用している部屋よりは少し広く
良さそうな大人用の部屋。


「いきなり呼んで悪かったね。まぁ、座ってくれ。」



白金監督に促されて虹村さんと私は座る。

部屋には私、虹村さん、白金監督、真田コーチの四人だ。







「君たちを集めたのは他でもない。
 これからのバスケ部についてのことだ。」



白金監督から「これから」の単語が出た瞬間、
真田コーチが食いつく。


「白金監督。これからのことでしたら私や虹村はともかく
 浅葱は関係ないのでは?」

と厳しいお言葉を頂く。
まぁ当然の反応と言えば当然なのだけれど。



「ふむ、そこについても私の中ではちゃんとした理由がありますよ。

 …むしろ事の発端は彼女と言っても過言ではない。」

そう言いながら微笑む白金監督。

やはり、この間の話のことなのだろう。





虹村さんと真田コーチは私と白金監督を交互に見やる。
それはとても不思議そうに。




『先日のお話…考えていただけたんですね。』

正直、意外だった。

話してはみたものの
小娘の戯言くらいにしか気にとめてもらえないだろうと、


そう思っていた。





「あぁ、考えていたよ。
 部にとってどれが一番良い選択なんだろ…とね。」

白金監督と私しか分からない内容に
残りの二人は顔をしかめるばかり。

「…あの、どうゆうことっすか?」

痺れをきらした虹村さんが恐る恐る
白金監督に質問する。



「あぁ、悪いね。…単刀直入に言うと私は今病気を患っていてね、

 今のうちに監督を休んで療養してほしいと
 彼女から話があったんだ。」



ざっくりとこの間私と話した内容を説明してくれる。


真田コーチは目を見開きこちらに焦るように振り返る。


「…君はなんて失礼なことを!
 監督の病気についてはどこで知ったんだ。」

とお怒りだ。

そういえば、この人悪い人ではないが
上からの声に敏感な人だったな…と暢気に考えていると

白金監督が

「彼女とは同じ病院に通っているんだ。」
とフォローしてくれている。



「監督はそれで、部を休むんですか?」


虹村さんが少し不安そうに監督の顔を見つめていて。

「あぁ、虹村、お前には申し訳ないが
 今回の全中は私は休まさせてもらうことにするよ。」


と監督が笑う。

まさか本当に休んでもらえるとは思っていなかったため
私自身も驚いている。



『白金監督…。』



まさかの展開に泣きそうになる声を
ぐっと抑え立ち上がり頭を下げる。



『あの時はえらそうに物を言ったのに
 ……ありがとうございます。』


その様子に虹村さん達は驚いていて。

「君が何を思って私に言ったかは分からないが、
 あのときの君は今と同じように泣きそうな顔をしていたね。

 …本当に君は全てを悟っているかのように。」


ゆっくりと白金監督立ち上がり頭を上げなさい。
と私の肩をたたく。


「ただし、君にも協力をしてもらうがいいかね?」


と、白金監督は優しく笑いかけるので
『もちろんです。私のできることならば。』と
私も笑顔で返した。





監督からの協力要請とは私に虹村さんのサポートをしてほしい

との事だった。


私の言うこれからのことを思うと彼一人で荷が重いだろう。と


しかし、まぁ今後のこと、
未来のことについては

監督に何も話していなかったのに
私の危惧していることが分かったと言うのだろうか。

もしくは監督は既に未来のことを見据えて危惧していた?
ということも考えられる。



もちろん真田コーチは完全には納得していなかったようだが

白金監督のご意志ならと押し黙った。
全く持って意気地なしだ。





すると不安そうな声で

「俺にできるでしょうか?」
と虹村さんがつぶやく。

家のことでも大変だろうに申し訳ないな

という罪悪感に駆られるが監督が


「浅葱はお前なら大丈夫だと信じていたぞ?」

と言えば



何故か虹村さんも押し黙る。

どうしたのかな?

と顔を覗くと難しい顔して虹村さんは
「頑張ります。」と答えたのだった。
















監督との話も終わり虹村さんと
歩いて部屋に帰ろうとしたところ虹村さんに

「ちょっと少しいいか?」と言われ外に出る。

いきなりのことだったし私からの説明も聞いておきたいんだろうなと
思い黙ってついて行く。






少し歩いたところに自販機とゴミ箱、
ベンチが並んでいるところがあり二人で腰掛ける。



「白金監督が言ってたことだけどよ。

 どうして、監督に休めなんて言ったんだ?
 …ただ、たんに監督の身体を心配してって感じには
 見えなかったが。」




虹村さんはそう、怒る訳でもなく

でも明るくとも違う真剣に聞いてきていて。

言葉を注意して選ぶ。




『監督のことを心配してって……

 そう言えたら一番なんですけど、
 そんな綺麗な事じゃなくて私は最低なんです。』




『…このままだと誰も一軍の皆がばらばらになってしまいそうで

 そしたら、誰かが傷つくからって思ってたんです。』



虹村さんは黙って聞いていてくれるが、

ちぐはぐな私の言葉は自分でも良く分からなく
質問の答えにはなっていないだろう。


しかし、それでも黙って聞いていてくれていて。





『でも、最近思うんです。誰も傷つかない方法なんてなくて

 …結局今回の事だって遠まわしに白金監督と虹村さんを
 傷つけてるんじゃないかって

 …思ってて。』





結局は他力本願な自分が憎たらしい。

監督があそこで居れば、とか。
そんなことばかり考えていた。


しかし、今日監督と話して不安そうな虹村さんを
見て

いかに自分が勝手なことを言っているのか分かった。

自分は関わることを決めたのに



関わるのではなく関わらそうとしている。

自分ではない。



人と人を。






「…お前が何考えて、何にそんなに負い目を感じてんのか
 俺にはやっぱりわからねえ。

 けどお前もそんなに辛そうな顔してんなら
 お互い様なんじゃねえのか?


 確かに、これから監督なしであの馬鹿どもを
 まとめられれるか心配だな。

 けど、手伝ってくれんだろ?」



虹村さんはそう言いながら
私の頭を優しく撫でる。



「それに、ななが心配してること
 ちょっとは理解できるぜ。

 赤司達のことだろ?

 秀でた才能ってのは時に人をも殺すからな。」


そう言いながら夜空を眺める虹村さん。


彼もまた無冠の五将とは別格の
中学ナンバーワンプレーヤーとして名を馳せている。


似たような苦労はあるのかもしれない。




「でもな、お前が気負うことじゃねーよ。
 あいつら自身で乗り越えなきゃなんねぇこともある。

 監督だって一旦休むことでマシなんだろ。




 だから、泣くな、。」



自分でもどうしてこんなに涙が出てしまうのか

分からないまま虹村さんの話を聞いていると
ふわりと香る虹村さんの香り。


抱き締められているんだと
直ぐに気づく。


虹村さんと初めて会った
あの不思議な世界でも虹村さんは

抱き締めてくれたな。



なんて、ぼんやり考える。




『…虹村さん。ありがとうございます。』

と少し身体を離して言えば


「真っ赤な目だな。」



と笑われた。







そのあと部屋に戻り赤い目をさつきちゃんは
とても心配してくれたが、

大丈夫だと言えば

それ以上は追求しては来なかった。



虹村さんも、けっきょく追求はしてこず



皆優しいなと


眠りについたのだった。

















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