▽46.







『……うっ。』


只今絶賛バス酔い中。



大きなバスに揺られること
一時間と少し。

今回の合宿場につく。


『なんとか気合いで保ったよ!』
と、強がる私に

隣に座っていた、さつきちゃんは心配そうに
背中を擦ってくれる。


もちろん一軍のバスに乗っていた為

「大丈夫か?」

と虹村さん達にも心配される始末。

しっかりせねば。




『大丈夫ですよ、少し酔っただけです。』


そう答えるも虹村さんはしかめっ面で

「そうか?ま、合間見て休んどけ。」

と頭を撫でられる。
若干グシャグシャになってしまった髪を
手櫛で直しながら『ありがとうございます。』と
言えば

「どうせ俺が言ったって休みやしねぇーんだろうけど?」


と拗ねたように言う虹村さんは
年齢に伴った顔つきで可愛らしかった。

しかし

「休んでいーなら、あっちいこうぜ?」
と絶対、変な意味での休もうだろ!と

思うような笑みを浮かべながら
灰崎君が話に混ざる。


『君は今から練習でしょーが。』

と返すも「めんどくせぇ。」とやる気はゼロ。


しかし主将は、そんな態度を許すわけもなく
灰崎君の頭をグリグリと押し付ける。


「はーいーざーきー?あぁん?
 てめぇ、いい度胸じゃねぇか!!」


口を尖らしながら怒る虹村さん。

「痛ぇ!」と灰崎君も抵抗するが意味はなく
なんだかんだで虹村さんの方が力が強いのだ。


嫌がっている灰崎君に、遠慮ない虹村さん。
虹村さんを呼びに来た赤司君は呆れている。


「全く、虹村さんが来ないと始まらないと言うのに
 また灰崎が何かしたのか?」


赤司君はこちらに来ると二人を眺めて
ため息を吐く。



『ちょっとね、灰崎君が合宿に来てまで
 サボろうとして怒られてるの。』


と私も二人を眺める。

なんだか不思議ととても仲良しに見え。


『なんだかんだで仲良しだよね
 あそこの二人。』


そういって笑うと赤司君も目を細め「そうだね。」と
微笑んでいた。











選手は体育館へ練習するために移り
マネージャーはドリンク作りから始める。

人数と時間がいつもより長いため量が
尋常ではないほど多い。





さつきちゃんはスコアをつけるため
一人体育館に残っている。


となれば、ドリンクは私の仕事で。


『っよし!頑張らないと!』


緑間君お手製のレシピを見ながら作業に入る。
ちなみに、一度文句を言う緑間君に腹をたて

さつきちゃんが緑間君に、作らせたところ
物凄くまずかった。

どうやら彼は頭は良いが不器用だと言うことを知り

さつきちゃんと緑間君には
細かい作業は任せられないなと

心の中で思ったのだった。





一通り作業が終わり体育館は
さつきちゃんに任せ

厨房で宿のおば様と皆の晩御飯の準備。

四十代くらいのおば様で
会話が弾む弾む。

「あら?貴女手際がいいのね?」


なんて、誉められて嬉しかった。
だてに一人暮らししているだけあって

家事全般はなれてきたものだ。


しかし料理については、一軍、二軍、三軍
全員分を作らなければならないため
もはや料理というより格闘的な勢いで作った。

「若いっていーねー。」とおば様は笑っていたが


そんなに若くないよ!と心で否定し笑顔で返す。


そして、作り上がった際に元々持参していた
ゼリー系の栄養ドリンクをひとつ冷蔵庫を借り冷やす。


おば様とはすっかり仲良くなったため
いつでも冷蔵庫は使用していいよ。と

しっかりお許しも頂いている。問題ない。








そのあと

体育館へ戻りさつきちゃんに声をかける。



『お疲れ様。こっちは大体終わったよ?』



すると、さつきちゃんは私に気がつき
チラリとこちらを見ると
「ありがとうー。ごめんね?任せっきりで。」

と、直ぐにスコアブックに目を戻す。


こう、おそらくだが体力ではなく神経が
疲れるのだろう。疲労感を隠せていない。



だが、現時刻七時間過ぎで
八時になればご飯だ。

そのあと、反省会アンド明日の共有。

最後にお風呂なり済ませて十一時までに就寝。

といった流れ。


頑張れさつきちゃん!と思っていたら
コーチがタイミング良く
皆に声をかけ練習をストップする。


ふむふむ、やはり今からご飯なのだろう。

軽く話をし片付けてから食堂へと向かうよう指示し
話を終える。

さつきちゃんはメモをしていた
スコアと各選手の内容を先生に伝えに行き
私は片付けを手伝う。




ここでも、サボろうとする灰崎君を見つけ
モップで殴り紫原君の後ろに隠れる。
 

「痛ぇ、こら!てめぇ!」と灰崎君が当然のことながら怒る。


ちなみに紫原君も適当にモップを、かけているが
まあ、かけているだけマシだろう。


また、背が高いため逃げるに最適だと
思い背中に回ったが

「えー、なに?俺疲れてんだけど。」


と紫原君は助ける気ゼロで 

『後でお菓子あげるから!』と言えば


目が輝き

「崎ちん暴力はよくないよー?」
とあっさり手のひらを返す。


「お前はどっちの味方だよ!
 つーか、暴力はその女の方だろうが!」

と、もちろん納得いっておらず
紫原君はとても素直に

「お菓子の味方ー。」
と、良く分からないことを言っていた。





片付けも終え皆で食堂へと移動し
各々ご飯を受けとると一斉に食べ出す。


皆、運動部ということもあり量が半端じゃない。
見ているだけでお腹がはりそうだ。



「ちょっと青峰君汚い。」

と、さつきちゃんが怒っていて
いつもの事だと思って聞き逃してしまいそうになったが
呼び名が変わっている。



『あれ?さつきちゃんいつの間に青峰君呼びに?』




「青峰君が大ちゃんはやめろーってしつこいから
 この間から変えたの。」

とさつきちゃんは可愛らしくむくれていて。



『ほうほう、思春期だね青峰君。
 かわりに私が大ちゃんって呼ぼうか?』


と茶化すと「マジやめろ。気色わりぃ。」と
一蹴りされたので睨んでみるも、

「ばーか。」と言われる。
効き目はない。


横で緑間君に
「少しは静かに食べられないのか。」と
二人して怒られたのは致し方ない。


しかし、久しぶりの誰かとのご飯は
それだけで私にとってはテンションが上がる
十分な理由で。



『真ちゃん怒っちゃった?』
と冗談半分で言えばお茶を吹き出す青峰君。

それを物凄く嫌そうに紫原君が見ていて

「緑間っ!し、真ちゃん…。」と
青峰君は笑っていて


「お前と言う奴は毎度毎度!」と
緑間君が激怒。

「み、みみどりん落ち着いて?」
とさつきちゃんは宥めてくれている。




「なな。緑間をからかうのも
 そこまでにしておけ。

 直ぐに緑間をからかうのは悪い癖だな。」

と赤司君に、言われてしまい
とりあえず、えへへ?と笑い誤魔化す。




『緑間君の反応が面白くてついつい。』




「面白いとはなんだ!」

と、未だぷんぷんの緑間君とともに
ご飯を食べ終える。

チラリと三軍の皆とご飯を食べてる黒子君に
目をやると、やはりというか

あまりにご飯をたべれていなかった。



やっぱり、食細いな。と
思いながら皆に先いっててー。と声をかけ

食器を下げ

冷蔵庫からゼリーの栄養ドリンクを持ち出し
ひょいと食堂に顔出すと


黒子君もちょうど食器を下げに来て
ナイスタイミングと思いながら
黒子君に話しかける。


『黒子君お疲れ様。このあとちょっといい?』


そう尋ねると「ええ。」と言ってくれる。
『ありがとう!直ぐ行く。』

と厨房から出る。

その間に黒子君も食堂を出ていて
入り口で待ってくれている。


『ごめん待った?』と二人で歩き出す。

「いいえ、大丈夫です。」と言う黒子君は
やはり、疲れていて。

『ちょっと外歩こうか。』と宿の外に出る。
気分転換も必要だろう。


何も言わず黒子君は歩く。

夏とは言えども山奥の合宿場。
夜はなかなか、涼しい。



少し歩いたところで
持ってきていた栄養ゼリーのドリンクを
黒子君に手渡す。



『あんまりご飯食べてなかったでしょう?
 明日持たなくなるよ?』

驚きはしていたものの「ありがとうございます。」と
受けとる黒子君。



「覚悟はしていましたが、やはり練習が
 ハードで…着いていくのに必死です。」

俯き気味で話す黒子君の表情は暗く
落ち込んでいるのが分かる。




『そうだね。ハードだと思う。
 だから、せめて食べておかないとね!』

大丈夫、だとか。むくわれるから、とか。

そんな、曖昧な言葉はかけづらく
出来るだけ明るく別の言葉を選んで言う。




「…そうですね。明日も頑張らないと。」
とふにゃりと笑う黒子君。


『あ、でも黒子君だけにしか用意してないから
 秘密だよ?』

と慌てて付け足すと


黒子君は「わかりました。」と再度笑ったのだった。













あとは、他愛のない会話で盛り上がりながら
宿に戻りミーティングに向かった。

合宿一日目は平和に終わりを迎え
安心して眠りについた。








明日のことなど、想像せずに。




















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