▽45.








きゅっきゅっと体育館でバッシュの独特な音が鳴り響く。

黒子君に居残り練習を頼まれて
早くも一週間たとうとしている。


やはりというか

センスは良いが運動神経自体が並みなのだ。
練習も人一倍している。
頭もそんなに悪くない。

緑間君的に言うならば人事は尽くしている。




『黒子君!そこの切り返し少し遅いと思う!』



出来るだけ黒子君が上達出来るように
最近では一軍の練習や皆の動きを見て

黒子君の時に活かそうと試みている。


やっぱり一生懸命な彼を、応援したいのだ。



一通り練習をこなし体育館の鍵を閉め
途中まで二人で帰るのが日課となっており


はじめは大丈夫だ、と断ってもいたが



「僕の我が儘をきいてもらってるんですから
 送ります。」


という、THE紳士アンド頑固の黒子君に勝てず




今日も二人でてくてくと帰路を辿る。





「今月から忙しくなって居残り練習も
 できなくなりそうですね。」



帰りながら黒子君が至極残念そうに話す。

しかし、夏に入るこの季節から確かに忙しくなるのだ。


『そうだねー…えっと、強化合宿に
 全中、あとは今年は体育祭だっけ?

 イベントのオンパレードだよ。』

と私は項垂れるも
黒子君は可笑しそうに笑っていて

「ななさんは好きそうなイメージですけど?」



『確かに嫌いじゃないけど、
 若い皆に着いていけるかどうか…。』


最近教室でのやり取りや、
部活でのやり取りの中で

やはり、皆若いなぁと思ってしまう。


まあ、良くも悪くも始めの数ヵ月は
大人っぽい花宮君と今吉さんが

面倒見てくれていた…と言うところも
大きく影響しての事だろうが。





「何を言ってるんですか?
 自分だって若いでしょう?」


と、首をかしげるが
中身は相当ヤバイんだよー?と思う。



『心はもうおばさんなのー。』

馬鹿か、みたいな顔をしている黒子君に
なかば投げやりに言うと
「困った人ですね。」と
呆れられたのだった。









▽▲










「ななさん!どう?」



とある、昼休み。
今日は青峰君とさつきちゃんと一緒にご飯を食べてる。


あと、緑間君と紫原君もいて

ちなみに赤司君は、委員会のお仕事で忙しく不在。



そして今議題となっているのは夏の強化合宿についてだ。

旅のしおりならぬ、合宿のしおりを作らなければ
ならなくて。
しかもこれが一軍、二軍、三軍と
練習内容が違うため各軍のマネージャーが、作ることに
なっている。




そう、なので一軍は私とさつきちゃん係りだ。



『うん、可愛くて良いとおもうよ。
 この内容はパソコンで私が纏めておくから。』


さつきちゃんが、見せてくれたのは
スケジューリングの表で
分かりやすく尚且つ可愛らしい挿し絵も入った

下書きを見せてくれて。

学生感が出ていて良い感じだ。



「さつきの絵ってあれだよな。
 女子感まるだしでよ。

 こう、がーっとしたのにしようぜ!」



ご飯を食べ終わった青峰君がさつきちゃんに
茶々を入れるがいつものこと。

青峰君もなんだかんだて
素直じゃないなぁーと思う。


「がっーって抽象的過ぎて意味が分からないのだよ。
 それに、よく見てみろ。

 桃井の書いたものは確かに少し女性向けではあるが
 内容は綺麗に纏められているのだよ。」

と緑間君が、誉めるとさつきちゃんは嬉しそうに笑っていて


『そうだねー。まあ、決定権は赤司君と虹村さんだし
 まず、青峰君の提案は却下だろうね。』



そう言いながら私は紙パックのジュースに
ストローを刺す。

いつものお気に入りのものだ。



「ちっ、赤司も主将も女子に甘ぇからなー。」


と青峰君は拗ねて机にベターと寝てしまう。
しかしタイミング良くか悪くか

赤司君が委員会の仕事から帰ってきて


「俺がなんだって?青峰?」

と笑顔で入り口に立っていた。

その姿に青峰君は冷や汗を流しながら
「あ、赤司。お帰り…。」

と焦っている。

私は笑いそうになるのを必死で我慢し
さつきちゃんと緑間君は呆れている。


黙ってお菓子を摘まんでいた紫原君は



「峰ちんが赤ちんのこと言ってたー。
 噂をすればなんとやらだねー。」


とナチュラルにバラす紫原君。
恐るべし。

「…っおい!紫原!てめっ、」
と言うも手遅れで



「ほう?青峰。
 どうやら今日は元気が有り余っているようだね?

 練習を二倍にするよう虹村さんには
 俺から伝えよう。」


「っげ!」と青ざめている青峰君をよそに

笑顔で赤司君はこちらに近づき
さつきちゃんの手書きのしおりを見る。




「良くできているね。一軍から三軍までの
 スケジュールが良く分かる。」


と言っていて。

流石はさつきちゃん
情報収集に長けているだけあって

内容を纏めるのも上手いのだろ。


彼女が情報収集家として動くのはまだ先だが。


「ほんとー?ありがとう!赤司君に言われると
 自信持っちゃうな。」


エヘヘと、笑うさつきちゃんは本当に嬉しそうで。



『あとは、これをパソコンに読み込んで
 文字だけ打ち直して大量印刷すれば出来上がりだよ?』


と赤司君に言えば「そうか、すまないね。」
と微笑む赤司君。


しかし、というか
やはり、というか

青峰君は納得いってないようで。

「ちぇー、面白いみがねぇよな。」
と、まだ不貞腐れている。



練習が二倍になったことも原因のひとつだろうが。


「峰ちん、まだそれ言ってんのー?」




「いやだってさ、さつきばっかりなんか
 癪じゃねーか。」



呆れている紫原君に青峰君はだってと抗議する。
全く、何にいったいそんな張り合ってるのか。


『もう、我が儘な子ね!
 見開きに合宿中3日間のおは朝占い乗せといてあげるから。』


と適当に場を収めようと言ったのが
失敗だった。

物凄く嬉しそうに(私から見て)
緑間君が、こちらに振り返る。



「それは!…いいアイディアなのだよ。」







とキラキラした目で訴えられ
ごめん、冗談半分で言ったんだと

怖くて言えず目線のみで助けを求める。


しかし、
ざまぁ。みたいな顔して青峰君は見ていて

紫原君に関しては我関せずを貫いている。

さつきちゃんは「みどりん本気?」と引いていて


各々助けてくれそうにはない。



すると、赤司君がため息はっきりとを溢す。



「緑間、なな、冗談はそこまでだ。
 お前達も練習量を増やされたいのかい?」



赤司君の言葉に凍る私と緑間君。

『すみません。練習はいつも通りでも私には不可能です。』



謝った勝ちだと、先に赤司君にあやまる。


緑間君に関しては、謝る事はしなかったが

「言い出したのは俺ではない。」

と、突っぱねてはいる、


けれど、どうしても申し訳ないオーラーが
漂い隠しきれていない。

流石ツンデレ。


素直ではない。


すると、紫原君が

「てかさー、赤ちんいつからななちんのこと
 名前で呼び出したのー?」




少し気にするように赤司君を見ていて。

…確かに。今さりげなく言われて一瞬気付かなかった。

いや?まてまて、



紫原君も今さりげなくななちんとか言わなかったか?
君は認めた相手にしかちんをつけないんじゃ…

いや、それは黄瀬君だけか。


なんて悶々と悩んでいると紫原君が



「あれー?赤ちんに質問したのに何でか
 ななちんが悩んでる?」


と私の顔の前でぱっぱと手を振るも
私の脳内それどころではない。


もしかして赤司君の僕司降臨?

何だかんだで監督とお話ししてから
何も出来ていないしな。


ガタンと音をたて勢い良く立ち上がる。
紫原君が驚いていたけど気にしない。




『赤司君!』


と少し強めに言うと「はい。…?」と
訝しげに私を見ていて

しかし、今は気にしていられない。
確認しなければ。



『私のこと、もう一回呼んでみて!』


「…?なな。」


『あれは!?』

と青峰君を指さす、
「おいっ!あれってなんだよ!」と怒っている様にも
見えるが、こちらも気にしない。

全力でスルーだ。



「…??青峰。」




ふむ。大輝じゃないな。




『じゃあ、赤司君!自分の一人称は!?』





「……、!?俺だ。」





俺!…じゃあ、大丈夫なのかな?
と再度着席し頭を捻る。

名前で呼ぶ人もいる…ということだろうか。



「結局お前は何がしたかったのだよ。」




『…いや、赤司君が。』


そこまで言うといったん黙る。

赤司君に僕司の片鱗が…と思ったが
まだ心配はなさそうだ。


しかし、ここをどう切り抜けようと
冷や汗がでる、

皆めっちゃ怪しい目で見てる!




『えっと、赤司君が名前で呼んでくれるの
 珍しいなぁーって

 思って、?』



「何で疑問系なわけー?」

と厳しい突っ込みが紫原君から入る。
うっと息が詰まるも

たが、意外にも助け船を出してくれたのは赤司君で。





「深い意味はもちろん無いが
 少し…名字は慣れていないんじゃないかな。と

 思ってね。」


と空いている近くの席に座る。

「そうなの?」
とさつきちゃんが不思議がっていて、
私は驚きが隠せない。


改姓したことは、ここにいるメンバーは
誰一人として知らないはず。



「勝手な想像だけどね。いつも練習時体育館で
 名字を呼ばれたときの反応と

 青峰達の様にも名前で呼ばれたときの
 反応に僅かに違いがある。

 気がついていなかったかい?」


と笑う赤司君は本当に中学生とは、
思えない余裕が見えて。


『…違わない。』と自分でも
気がつかなかった所を指摘され少し悔しい。

緑間君は何か考えている様で、



『私も…赤司君は僕より俺が好きだけどな。』



と、言い返せば

一瞬目を見開き


「……貴方って人は。


 本当に不思議な人だ。」 


と赤司君は困ったように笑う。

先程、一人称は?と質問したときの
少し驚いていた彼の顔を見過ごす訳もなく。

強気で言ってみて正解だった。

やはり、既に僕司君はうまれていのたか。と。






もちろん、私と赤司君以外は
なんのこっちゃ?と顔を見合っていたが



どちらの内容も今はまだ知るよしもなく
お昼休みの終わりのチャイムがなったのだった。










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