▲赤司征十郎と誕生日.
俺は自分の誕生日をさして
特別とも、なんとも思ってはいなかった。
    
ただ歳を重ねるだけ。



実際、家で誕生日を祝う習慣もなかった。


いや、正しく言えば



母が死んでから亡くなった。
そう言った方が正しいだろう。



また、時折学校の友達や部活仲間達に
祝ってもらうことはあっても

ただ、それだけのことだと割りきっていた。

今年の誕生日までは。


















俺の周りは割りと素直な人が多く
隠し事には向いていない人達ばかりで

自分の自意識過剰…という場合もあるが
あからさまに皆の態度がおかしい。


まず、黄瀬。

俺の前に現れたと思ったら


「あ、赤司っち?12月20日暇っスか?
 良かったら皆で集まるんスけど、どうっス?

 いや、別に深い意味はないっス!!!

 …えーと、ま!考えといて!!」


と走り去って行った。

それもとても勢い良く。
なぜ京都にいるのか?、とか
色々聞きたいことはあったが去ってしまった物は
まぁ、仕方ない。



次に紫原。

紫原は直接会う勇気がなかったのか
メールが入ってきた。内容は


「赤ちーん、20日よろしく。
 ちなみに苺きらいじゃなかったよね?」


とだけ。




そもそも苦手な物はあっても食べられない物は
ないので問題ないが
何がよろくしなのか、全くもって分からない。


そんなことを考えていると
今度は青峰から電話がかかる。

今日は慌ただしいなと思いながら電話に出ると


「よぅ、赤司。直感でお前今何がほしい?
 何でもいいはなしだぞ。」

と、挨拶も無しでこれだ。
まあ、青峰らしいと言えばそれまでなのだが
電話越しの向こうで「青峰君のバカ!!」と
怒る桃井の声が聞こえる。

その様子が少し懐かしくて己の顔が
緩むのがわかる。

俺も変わったものだ。


「ごごごめん!赤司君!!」

「いいや、かまわないよ。
 …欲しいものか。特にこれと言った物はないが
 そうだな、思い出に残りる物がいいだろうか?」


何でもいいは駄目だと言われてしまうと
悩むものがあるなと答える。

「そう…っか。うん。わかった。」

しかし桃井は何か納得したよう返事をし
挨拶をする。
俺が言うことではないが桃井は相手の気持ちを
汲むのが上手い。

何かを察したのかもしれない。

そう思いながら電話を切り
やれやれと思い家路につく。



家に着くと使用人に上着とカバンを預け
自分の部屋に行こうと歩きだすと
「征十郎様。」と声をかけられる。

「どうかしましたか?」

「征十郎様宛にお手紙が届いています。」

自分に手紙?と不思議に思いつつも
お送り主を確認すると
緑間真太郎と書いていて更に深まる謎。

封を切ってみるとおは朝の占いの一部があり
12月20日の占いで俺のラッキーアイテムが
親切にも入っている。

ちなみに赤色と黒色のマジックペン。

占い用紙の隅に「12/20黒子が迎えに行く。」
そう、たった一言書かれていた。


「しかし、12月20日…運勢は1位…か。」

なんともありがたいことだと思いつつ部屋に入り
大切に机にしまう。
何かを企んでいる皆を思い
明日を少し楽しみにしながら。



















▽▲














12月20日当日。

部活が終わるや否やなぜか実渕や葉山、根部谷に
黛さんまでもがバタバタと走り帰っていく。

いや、黛さんにいたっては
根部谷に引きずられている。

そんな印象が強かったが。




まぁ、何かあるのだろうと思いつつ着替え
体育館へ戻ると他の部員達から

「今日は自分達で体育館閉めるから
 先帰ってくれよ。」

と言われ少し考える。
「実渕達からか?」と聞けば苦笑いが返って来て
チームメイトに軽くお礼を言い

正門まで歩き出す。

いつもより幾分か早い下校に少しなれない気持ちが
あるも、たまには悪くないと思い返す。

そんなことを考えていると
ぽつんと洛山の制服でない生徒が目に入る。


本来他校の生徒、ましてや県を跨いでいるため
特に目立つはずなのだが
周りの生徒は誰一人として気にしていない。
いや気づいていない。

「やぁ、黒子。待たせてしまったか?」

ぽつんと立っていた黒子に近づき声をかけると
黒子も驚きはせず「いえ、大丈夫です。」と
薄く微笑む。

「でわ、赤司君のことです。
 既に感づかれているとは思いますが
 行きましょう。」

と詳しくは話さず歩き出す。
俺もあえて詳しくは問いたださない。

黒子との二人の下校はなかなか新鮮で
お互いの部活のことなど話して歩いた。

こうゆう他校との情報交換は貴重で大切だ。

時間もあっという間に過ぎで目的地に
たどり着く。


そこは一度来たことのある店で確か
実渕の知り合いの店だったと思う。
入り口に何人かの気配を感じるが
黒子に「さぁさぁ。」と
半ば無理やり背中を押され入れると

パンっと何回かの破裂音。

すぐにそれがクラッカーだと気がつき
見渡すと帝光時のメンバーと洛山のメンバーが居て
爽快だ。

しかし、
一番に目に入るのはななの顔で
心が満たされていく。


そんな気持ちになる。






想像していたとはいえ少し驚きつつ店に足を
踏み入れると
「赤ちーん、おめっとーう。」など周りから口々に
お祝いの言葉をもらう。

「ありがとう。皆してわざわざ京都まで
 来てくれたのか?
 紫原なんて遠かっただろう?」


「別にー。距離は、まぁあったけど
 大学見学に行く先輩の車で来たから
 問題ないし。」

と顔を背ける。
素直じゃないのは変わらないか。


「そんなことより赤司っち!
 色々用意用意したんすから早くやろうっス!」


ひょこっと何処からか顔を出した黄瀬が
頭に鹿の角を付けていてぴょんぴょん跳ねている。

…イメージは…そう鹿より犬だな。


「きぃちゃんはしゃぎすぎ!
 しかもそれクリスマスだかんね!

 赤司君お誕生日おめでとう。」


「ありがとう桃井。しつける相手が
 こんなにいては大変だっただろう?」

忙しく動く桃井にクスリと笑えば桃井は
黄瀬と青峰を見て小さく溜息を吐く。

「もう本当っに大変だった。」

がくんと肩を落とす傍らで青峰が黙っている
訳もなく文句を言い出す。

もちろん黄瀬も静かにできない性質なので


「おいコラさつき!黄瀬と俺を一緒にすんじゃね!」

「っちょ!赤司っちに桃っち!?青峰っちも!?」


と、ぎゃいぎゃい言い出した三人を遠めに
少し呆れつつもゆっくり抜け出すと
今度は洛山の皆に囲まれる。

「せぇーちゃん。おめでとう。」

「おう!赤司めでたいな!ま、とりあえず
 飯食おうや!」

バシバシと根部谷に背中を叩かれ前半実渕の
言葉は聞き取りづらかったが
「永ちゃん落ち着けよな。つか、メインより先に
 飯食いたがるってどおゆうこと?」
と呆れる葉山を見ながら、まぁいつもの事かと
気が抜けていく。

すると、大きく溜息をつく声が聞こえて
振り向くと黛さんが椅子に座っていて

「俺は別に来たくて来たわけじゃねーからな。」

とそっぽ向いてしまう。

「えぇ。分かっていますよ。
 根部谷に引っ張られているの見ましたから。」

そもそも人が多く集まるところが苦手な彼は
率先してこうゆう場所にはこないだろう。
そう俺も認識しているつもりだ。

しかし

「でもまぁ、祝わないつもりもない。」

再度そうゆうと黛さんはカバンから小説を一冊取り出し
ぱらぱらとめくり始める。
少し耳が赤いような気もするが


ここは先輩をたてて
気づかないフリをしておこう。






それにしても、いつの間にか
こんなに自分は
いろんな人と関係を築いてきたんだなと
今更ながら感慨深くなり

くるりと店を見渡すと

ばちり、とななと目が合う。


『赤司君誕生日おめでとう。
 これ、皆で考えたプレゼント。』

はい、とななから手渡されたのは一冊のアルバム。

中学校から今までの写真が綺麗に納められており
洛山以外に、誠凛、海常、桐皇、秀徳、陽泉の
メンバーまで写真に収められている。


『今まで結構写真とってきてたんだけど
 こんなところで役立つとは思わなかったよ。

 どう?気に入ってもらえた?』

写真の端には色んなコメントも寄せられていて
なないわく世界にたった一つのアルバムらしい。

「…ありがとう。正直こんなに素敵な物が
 もらえるとは思っていなかったな。」

自然と綻ぶ顔を最早隠すことを止めて笑うと
ななも満足そうに笑う。

『あとは、表紙に名前書くだけなんだけど…』

表紙にも何か書くつもりなのかと待っていると
どうやらペンがないようで慌てふためきだす。

じっと待っていようかとも思ったが
そういえば俺はマジックペンを2本ほど
持っていたのだと思い出し「持っているよ。」と
カバンを開ける。

すると

「赤司がペンを持っていない訳ないのだよ。
 …今日のラッキーアイテムなのだから。」

そう自慢げに言いブリッジを押し上げる緑間に
「緑間君…ラッキーアイテムまで渡したんですか?」
と冷ややかな言葉を送る黒子。

今回ばかりはおは朝占い信者の緑間に
助けられたなと思い
マジックペンを取り出し渡すとなぜか
紫原が受け取り
表紙に"あかちーん"と書かれ戻される。


一瞬のことで一度静かになるも

「うん、これで良いでしょーケーキ、食べよう。」

と言う紫原の声でまた一段と騒がしくなる。

「あー!!もー!
 むっくんケーキ食べたいだけじゃない!!」


と叫ぶ桃井に溜息を吐きつつケーキを
取り出す紫原のほうに皆集まる。

その中でななの手を掴み引き寄せ
「ありがとう。」と囁き手の甲に軽く唇を落とせば
真っ赤になりわなわなと震えるなな。


『っんな!あ、ああ、赤司君!?』

「おそらく…だが全てを企画してくれたのは
 ななだろ?」


前回の誰かの誕生日時もそうだったように
今回もきっとななが考えてくれたんだろう
ということは簡単に予想ができて
ちゃんとここに来る前に黒子にも確認を取っていた。


「だから、ありがとう。」


まっすぐ見つめて伝えれば
未だ恥ずかしそうに赤らめ嬉しそうに笑う彼女。



鈍感な彼女のことだ。

この行動に深い意味を持たないと
思っているかもしれない。

そうなるとこの気持ちを伝えるには
まだ時間がかかりそうだと
人知れず思った瞬間でもあった。
















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