▲氷室辰也と誕生日.
十月といえど秋田の十月の冷え込みは私には厳しく
両手をさする。






時刻は23:50分。






日が跨いでしまいそうである。




色んな乗り物を乗り継いで
時間がかかってしまったのだ。




『…とりあえず、予約したホテルに行かないと。』




明日は十月三十一日。
ハロウィン。
 




しかし本日、十月三十日は氷室君の誕生日。

本当は今日、祝ってあげたかったんだけど
平日だし学校があってくるのが

ずいぶん遅れてしまったのだ。




『…一応、明日行くって伝えてあるし
 明日お祝いしてあげよう。』



なんて一人で考えていると

真正面から見知った顔の男の子が 
小走りで駆け寄ってくるのが見えて驚きつつも
思わず笑みがこぼれたのだった。
















▽▲














学校が終わり、

部活が終わり

アツシや先輩達に己の誕生日を祝ってもらい


すっかり遅い時間になってしまった。



それに祝ってもらうのは
今年で二回目になるにもかかわらず
照れてしまった自分が恥ずかしい。




最近はこの陽泉のメンバーと一緒にいるのが
嫌いじゃない。


もちろんアメリカにいた時も、

それはそれで楽しかったが今のように
心安らぐ瞬間は少なかったかもしれない。

これは日本と言う場所のおかげか。


アツシ達のおかげか。



両方かもしれないな。



と思いながら帰路を辿っていると震える携帯。




ディスプレイには”Tiger Kagami”の文字。

「…タイガか。」と自然と顔が綻ぶのが分かる。



ピッと電話に出るや否や

「タツヤ!!お前今日誕生日だったよな!?
 おめでとう!!」

と大きな声で言っているのが、
こちらでも分かるほど


「ありがとうタイガ。
 また年末にはそっちに行くから会おう。」



タイガとは一度

くだらないプライドのぶつかり合い、

入れ違い、

すれ違いにより大きな喧嘩をしてしまったが
仲直りしてからは兄弟としよりいっそう仲がよくなったと思う。



まぁ、どうしても陽泉では
俺がアツシに世話を焼いてしまうため

最近になってアツシの方が
弟のように見えなくもないが

アツシは末っ子と聞いているし
本質的に弟っぽいのだ。

仕方ない。



あの偏食は治さないとな…。


なんて考えながらタイガと話していると
驚くべきき内容があかされ

携帯を落としそうになる。


電話口で影の薄いシックスマン君から
「…火神君。それ言っちゃだめなやつですよね?
 馬鹿ですか?」
と相変わらず切り口の鋭い突っ込みが
聞こえてくるが俺はそれどころではない。







「…Really?(本当?)」

と聞けば少し戸惑っていたが
吹っ切たのか諦めたのか

「…Yes,It's true!(あぁ、本当だ!)」



と電話口から肯定の言葉が聞こえ
嬉しくて胸が高揚した。








タイガからもらった電話も
かなり遅い時間だったし話しによれば

数時間前に東京を発ったと聞いて

もしかしたらと思い走り駅へと向かう。



入れ違いにならないでくれとガラにもなく
神様に祈りながら走る。

角を曲がった瞬間目に入る一人女性。


寒いのか両手をこすり合わせている
その姿は己の庇護欲をかきたたせるには十分で


「なな!」と呼べは跳ねるように顔をあげ
驚いた顔が目に入る。


『氷室君!!…どうしてここに!?』



驚く彼女をよそに

一歩、また一歩とななへと近寄り
ふわりと抱きしめる。


体がずいぶん冷えている。



「…タイガに聞いたんだ。」

と耳元で言えば少し怒ったような顔するなな。

ころころと表情が変わり愛おしく感じる。


『もう!内緒だって言ったのに!』

とむくれるななを見ながら
ついつい笑みがこぼれてしまう訳だけど

「タイガも悪気はないと思うから、
 あんまり叱ってやらないでくれ。」



そう言うと困ったように眉を下げ
『分かってる。』と答える。


この子の事だ。

怒る気などそもそもあまりなそうだが。




『…本当は明日祝うつもりだったんだけど

 でも今日会えてよかった。
 氷室君誕生日おめでとう。』

少し顔を上げて微笑まれると締め付けられる胸。

周りには落ち着いていて
気品のあるヤンキーなんて呼ばれているけれど

俺だって男で、


ましてや自分が好意の寄せている女性が
わざわざ自分の為に会いに来てくれているという


この状況で、
とてもじゃないが理性は全く持って意味を持たない。

だから、この子にも危機感を持ってほしいのだが。


そう思いながら少し体を離し携帯を見ると、


丁度時刻は00:01分。

ななに携帯の時刻を見せると
『良かった、ギリギリセーフだったよね?』
と笑う。

俺はカバンに入れていた
自分のマフラーを取り出しななの首にかけ








「Trick or treat,」


と問いかける。

ななは目をぱちくりさせるも
日を跨いで今は十月三十一日。

ハロウィンだ。






『え!!…プレゼントはあるけど…。』






「駄目だよ?
 ハロウィンはお菓子と決まっているからね?」

と戸惑うななに言えば
『どうしよう…。』と考え出す。








「…いたずらってことでいいかな?」


なんて少し意地悪に言えば
『ま、待って!』と慌てる可愛い彼女に
かけたマフラーを軽く引っ張り


そのままキスを落とす。








触れるだけ、それでも長いキス。








名残惜しいがゆっくりと
離してあげると真っ赤の顔が目に入る。




「今日はわざわざ来てくれてありがとう。」



さも、何もなかったように言えば頬を膨らませ
『スマートすぎて怒るタイミング逃しちゃった。』

と笑っていた。















次の日はもちろん陽泉のみんなとななとで
ハロウィンを過ごすこととなり


アツシが随分喜んでいて、いつもなら止めに入る場面も
まぁいいかと大目に見てやった。



それも、ななが俺にされたことを
危惧してしっかりお菓子を用意してきていたんだ、











と言うことは


誰にも言ってないんだけどね?











































☆氷室君のお誕生日!
陽泉コンビは10月生まれで仲良しさんだなぁ、
と前々から思っていました。



キセキの世代は皆絡めてたので今回は絞りましたが
気に入っていただければ幸いです!

















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