▽33.






『私…………?』 



囁くように出てしまった声にハッとするも
近くに居た今吉君、赤司君、虹村さんには
バッチリと聞かれてしまう。

「…どうゆうことやて?」


少し離れたメンバーには聞こえづらかったのか
「何がだ?」とざわめきだす。


水色君はクスリと笑いを溢すと
また一歩また一歩と少しずつ歩いてくる。



《ふふふ、あはははははははははははは。

 僕は失うということで君達に絶望してもらいたんだ!
 ここに残っても
 戻ろうと思っても

 必ず何かを失う!…そして絶望してくれ。》



奇声の様な高らかな笑い声をあげ水色君は
くるりと背を向ける。
《最後の予告は既に渡してありますから。》と
言い残しさらさらと姿を消してしまった。

いや、何処かでこの状況は見ているんだろうが。


一方、体育館は水色君とはうって代わり重苦しい空気が
流れていて口を開けられる状態ではない。

しかし黙っていても何も変わらない。
先程そう言った今吉君の言葉が深く胸に響く。


言わなければ変わらない。

行動しなければ終わらない。


なら、行動するしかない。



『ここに、帰って来るときに水色君と少し話をしたんだ。

 最後の予告の紙を手渡しでもらってさ
 紙には、

“最後の選択肢は君に委ねるものとする。
 君にしか引けない物なのだから。“

 って書いてあって恐らく私の事だと思うの。』


そう言いながらポケットにしまっていた紙を出す。
赤司君や虹村さんが、内容を直ぐに確認していたが
険しい顔は変わらず。

少し離れた所では
「そんなっ、」とさつきちゃんが、
今にも泣きそうな顔で何だか私が申し訳なくなってくる。



「ちょって待って、それじゃあななっちが
 犠牲になんなきゃいないって事っスか!?」


未だ静かな体育館に黄瀬君の悲痛な声が響く
悲しみや悔しさ、憤りのない気持ちも一緒に伝わり
自分の中でも色々な感情が込み上げてくる。

駄目だ、今黄瀬君の顔を見たら泣いてしまいそう。


「んだよ、それ!俺だって納得いかねー!
 こんなワケわかんないとこ連れてこられてさ!」

と便乗して怒り出す葉山くん。
実渕さんと根部谷君も口々不満を言い出す。

「そうね、小太郎の言う通りだわ!
 一体、人を何だと思ってるのかしら!!」


「まあ、確かにな。創設者か何だか知らねぇが
 少し自分勝手過ぎんじゃねーか?」



根部谷君が怒るところはなかなか怖いと思っていると
便乗しそうにない黛君まで
「根部谷達ほどではないが、巻き込まれた側は迷惑だ。
 遊びたいなら他所でやってくれ。」

と洛山のシックスマンがお怒りだ。
その様子にメンバーはもちろん周りも驚いていて。


しかし、なぜか洛山組を始めとし皆が各々
水色君に対して怒りを露にする。




「そうだぜ!いい加減にしやがれ!
 俺らお前と面識ねぇだろうが!まじで迷惑だ!」

と若松君。その横で怯えながらも桜井君が

「そ、そうです!人の命をなんだと思ってるんですか。っ、」
と言う。涙目なのはいつものことか?



「お?桜井よう謝んの我慢したな。
 聞こえとんのか水色。そうゆうことやで?」

と今吉君は何だか少し嬉しそうで
諏佐君もそんな皆を見守っている。
青峰君もめんどくさそうに息をはく。


「おい水色っつったか?
 確かに俺は途中で道を間違えたかもしんねぇ。

 けど、それでテツ達に恨まれることがあっても
 お前に恨まれる筋合いはねぇ!」

そう言って当初からハンドリングしていた
バスケットボールを力強く投げつけ見事にシュートさせる。

さつきちゃんは青峰君の言葉にか今の状況にかは
分からないがついに涙をこぼしていて。


「峰ちんの言う通りだしー。
 弱いのなんて結局は自分の責任でしょー?

 俺やることはちゃんとやってるし
 あんたに恨まれる筋合いないよね?

 まじ、そろそろ捻り潰したいくらい
 うざいんだけど。」


紫原君は確かに相手を上手く気遣えれるタイプではないが
それはちょっと言い過ぎではないかい?


「こら!紫原!少しは言葉を選ばんかい!
 じゃが、ワシ等も同じ気持ちじゃ!」



「ゴリラが威張ってどうするアルか。
 全然怖くないアル。」

劉君の辛辣な突っ込みに岡村君へびしゃーんと
雷が落ちる。
こりゃ落ち込んだな。


「でも本当に自分勝手だよな!紫原じゃねーが
 俺等だって努力してんだよ!馬鹿にすんじゃねぇ!」

だん!と足音をたてて福井君も声を荒らげる。

「お?福井もかっこつけてるアルか?」
と劉君が茶化すも「ちげーよ馬鹿っ!」と
福井君は顔を赤らめる。
普通に可愛い。


「届かない光に感じる苛立ちは俺にも分かる。
 俺も同じ様に道を外しかけた。

 だか、正面から試合をして間違っていたことに
 気づいたんだ。
 君は、もう無理なのかい?」


悲しそうな氷室君の声が胸を締め付ける。
おそらく火神君と喧嘩したときの事をいっているのだろう。

すると氷室君の近くに居た高尾君も叫びだす。


「そうだぜ!一回や二回挫折しただけで
 諦めんなっつーの。ここにいる俺等なんて真ちゃん含め
 キセキの世代にどれだけコテンパンに
 やられたと思ってんの?マジで。

 それでも皆バスケやってんじゃねーか。」

甘えるんじゃない。そう高尾君は言っていて。

「マジでぶっ殺したいくらいムカく奴だな。
 お前が傷ついて、それでお前が誰かを傷つけて良い訳ねぇだろ!」


叫びながら、ちらりとこちらを見る宮地君。
私の事を言ってくれているのだと直ぐわかる。

「そうだな。宮地の言う通りだ逆恨みもほどほどにするんだ。」

と珍しく物申す大坪君。
凄くレアなんじゃないかと思う。
横で木村も、
「確かに。これ以上ふざけたことは止めてもらいたいな。」
と掃き捨てるように言う。

すると、緑間君も立ち上がる。

「水色。お前は人事を尽くしたのか?
 ここにいる全ての者は己に恥じぬ人事を尽くしている。

 馬鹿も休み休みに言うのだよ。」

くいっとブリッジを上げる緑間君。真ちゃんかっこいー!と
高尾君が肘で緑間君を突っついている。


「てかさー、マジで水色?だっけー?めんどくさくない?」

原君がぷくぅーとガム風船をふくらます。

「確かにな。てか、俺らは個人的にマジで
 うらまれんだろ!」

と原君に同意しつつ焦る山崎君。

「焦るな、見苦しいぞ。」
と古橋君が制すも落ち着かない山崎君に
「うっせぇよ、」と瀬戸君があくびをする。

彼は本当に緊張感がない、

「いやだってよ!マジで返れなかったら困るし!
 それに俺今の花宮とのチーム嫌いじゃねーし!」

と焦る山崎君は、それはそれは本音をポロポロと
溢す。「ザキきしょーいっ、」と原君は言いつつも
口は弧を描いたままで。


「ぎゃんぎゃん喚くんじゃねぇよ。
 俺らがこんなクズの創った世界から出られないわけねぇだろ。」

と花宮君がふんっと鼻をならす。
始は少し怖かったけど、今なら分かる。
本当はメンバー想いで優しいことを。


「そうっス!そこの腹黒が言ってた通りっス!」
と黄瀬君が立ち上がる。
「っ腹黒だぁ?」と青筋たてる花宮君は眼中にないようだ。


「確かに俺は頭足らずだし周りにも迷惑かけるっスけど
 努力してきたっス!
 それに、女の子を泣かすようなあんたには
 もう、どうこう言う権利ないっスから!!」


なかなか黄瀬君らしい言葉だ。と
微笑ましくなってしまう。


「全くもってその通りだ!
 女性を泣かせるなど言語道断!傷をつけるなど
 もっての他だ!
 世界がお前を許しても俺がお前を許さない!」


と何だが話がそれた気もしなくはないが
森山君も怒ってくれている。
げんに小堀君が「いや、森山ちょっと違くないか?」と
突っ込んでいる。

「お(れ)もゆ(る)せないっす!!こんなの!!まちがって(る)!」

相変わらずの滑舌だけど、うん。勢いは伝わる。



「何言ってっか分かんねぇーよ!
 だか、確かにやり方が気にらねぇな!
 正々堂々と出来ないのか!!」


早川君や笠松君も怒ってくれている。
すると、「そうよ!!」といきなりリコちゃんが
叫ぶ。


「あんたが何考えるの知らないけど
 うちの馬鹿共はこんなことじゃ、ヘコタレないのよ!

 もちろんななさんだって渡さないんだから!」

と目にうっすら涙を浮かべていて

「カントクの言う通りだぜ。あんまし俺らを
 甘く見んじゃねぇーよ!
 全部お前の思い通り行く訳ねぇだろ!ドアホ!」


と、怒鳴る日向君に
「日向…。やっと、使えたなドアホ。」と木吉君は肩に手を置く。
「うるせぇよ、木吉!」と言うも流石木吉君、気にしていない。

「まあ、あれだな。楽しくできないっつーのは
 悲しいことだな。」

と困ったように微笑む木吉君。

「なんと言うか木吉らしいな。
 が、しかしだ。確かに俺達は今を生きているんだ。

 進むのを止めたあんたとは違う。
 できれば、素直に帰してほしいものだな。」

少し笑みを溢しながら力強く言い放つ伊月君。


「マジで水色、お前ごちゃごちゃ面倒くせぇんだよ!
 バスケが好きならキセキの奴ら憎まず
 自分が頑張りゃ良かったじゃねーか!!

 こんなまどろっこしいやり方して
 なな傷つけて…いい加減にしろよ!」


怒る火神君の横から黒子君がひょいと出てきて

「水色君。君は、君の気持ちは全く理解できない
 わけではありません。

 ですが、ここにいる皆は誰一人として
 ななさんを犠牲にするきはありません!」




皆があんまりにも嬉しい言葉を連発してれるものだから
私の涙腺も崩壊し涙が溢れる。




「さあ?水色、どうする気だい?
 俺達の気持ちは固まっているが?」


大胆不敵。まさにその言葉が似合う赤司君。
私がこんなんじゃ駄目だと涙を拭う。

すると虹村さんに手を捕まれ
「ほら、擦ると目が赤くなるっつただろうが。」と
困ったように笑っていて



この笑顔を


皆を守りたいと思った。

私じゃ役不足だったとしても。
そう思うと先程の不安な気持ちは幾分がマシになっていて

私も自然に笑うことができた。







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