▽31.






とりあえず、ただただ走る。
ここで止まったらジ、エンドだ。

息があがり周りの皆が少し心配そうに見ている。
でも、大丈夫だと言う力はなく
前を向いて走る。


少し後ろに居た火神君は既に横に並んでいて
「大丈夫かよ?」と火神君も心配してくれる。

いったい誰の責任だ?と思うも
抗議する力もなく。

見かねた火神君が「わりぃ」と一声かけると
ひょいと横担ぎされる。

『うえっ』と声を出すも気にしていない様子で
その状態のまま走り出す。

やれやれといった様子で日向君が見つめているけど
もはや、走るイコール担がれる私は定着しつつあるのだろう。


すごく申し訳ない。

まあ、しかし赤司君の時のようなお姫さまだっこ的な
恥ずかしい横担ぎじゃなくて良かった。


でも、欲を言うならば私は宮地君がしてくれたような
背中におんぶが好きなのだが。




『火神君ごめんね、』
ちらりと火神君を見て言うと「うっす。」と
普通に返されたので

素直に担がれることにしようと思う。


そんなこんなしていると
テツ、俺最強と書かれた水場が見えてきて

黒子君が急いで近くの体育館に手をかける。

すると一度目は開かなかった三軍体育館が
意図も簡単にバンと開き
体育館へバタバタと入り込み
また、バンっとドアを締め鍵をかける。

ダンダンとドアを叩いてくるかもしれないと
身構えたが、案外あっさりとしていて
こう、責めるような捲し立てるようことは外にいる
ゾンビはしてこなかった。



とりあえずは安心かと火神君に下ろしてもらい
ここから彼への質問と言う名の説教タイムが始まる。


「おい、火神。どうゆうことかまず説明しろ。」


般若降臨中の日向君。
お?クラッチタイムか?と思うと
同じことを思ったのか

すかさず伊月君が宥めに入るの。

「まあまあ、日向落ちつけって。
 とりあえずは皆無事で良かったじゃないか。」


しかし内容も良く把握していない状況で
いきなり走らされた日向君の怒りはおさまらず

「良くねぇーよ!危うくゾンビのお仲間になっちまう
 ところだったろーが!」

と火神君の頭をグリグリしている。



「すんませんって!
 俺もいきなり体育館から大量のゾンビが出てきて

 焦ってたんすよ!!」



どうやら火神君は体育館倉庫内にあった
備品等を使い、まず体育館倉庫の扉を壊し

体育館内へと行くと体育館自体の鍵もかかっていたため
所持していた拳銃で鍵を撃ち抜き壊し外に出たとのこと。

ここまででも、かなり突っ込み所が満載ではある。
さすがの虹村さんもドン引きだ。

しかし、それではゾンビに追いかけられていた理由にならない。


日向君を見つけた時のことで
無理矢理こじ開ける、抜け出す以外では出られないことと

扉を開けられるのは黒子君のみとなっていたはずだ。



火神君が抜けだ際には黒子君は私達と居たはず。
捜し手の黒子君が、いないと言うことは

ゾンビ出現の条件を満たしていないと、言うことだ。

すると火神君が少し言いにくそうに
視線を反らし頭を掻く。



「いや、その後じっとしてらんねぇで渡り廊下歩いてたら
 バンバン、ドアを叩く音が聞こえて来て
 見に行ったら体育館につっかい棒がしてあってよ

 誰か捕まってんのかと…」


「思って開けたら…ゾンビだったということですか。
 まったく、火神君は。」


と黒子君含め一同溜め息がもれる。


『ちょっと待って。その体育館もしかしたら
 虹村さんが居たところじゃないかな?』



火神君の話でつっかい棒してゾンビを閉じ込めていた

虹村さんと会った体育館を思い出す。

「確かに可能性は高いな、、」そう虹村さんが、
肯定した時だった。


火神君のワイルド過ぎる話でうっかりしていたが
ここは、三軍体育館。

水色君に指定された場所だというのとを。





《…ラストステージ、三軍体育館へようこそ、
 どうだい?黒子懐かしいだろ?

 それとも、途中で一軍に行ってしまって
 もう覚えてもいないのかい?》




喧嘩をふっかけているのか、姿を表した水色君は
にんまり、とした笑みを浮かべている。


「水色君…痩せてしまいましたね。」

嫌味を言われたのにも関わらず
目を伏せ悲しそうに彼を心配する黒子君。

その黒子君の肩に虹村さんは手をおき
一歩前へ歩みでる。

私は、いや私も日向君も伊月君も黙ってその様子を見ている。


「なぁ水色。お前、こんなことしたかったのか?
 俺や黒子、他校のやつらにななを巻き込んで

 お前がしたかったことなのかよ?」



そう言う虹村さんも黒子君同様悲しそうな顔をしていて

やはり、彼らにしか分からない思いがあるのだろうか。



《主将。僕がしたかったのは
 もちろんバスケですよ。今も昔も。》


「…したかった、つーことは今はバスケしてねぇつーことか?」


臆することなく問いかける火神君。
彼はバスケに誠実だからなぁ。



《していないよ。これからもしないだろう。
 いや、出来ないと言った方が正しいだろうね。》

出来ない。そう言った彼はくるりと後ろを向いてしまい
表情は見えない。

すると、うっすらと水色君の姿が薄くなっていく。

ここから消えてしまおうとしているのは
安易に想像でき黒子君が

「っ!水色君!!」と叫ぶも
水色君の心には届かず


《後悔して後悔して後悔して後悔して後悔して

 どれだけ僕が憧れて焦がれて裏切られて
 後悔して…絶望したか。

 恨んでも!悔やんでも!憧れても!


 僕には届くことのない光と影。》


最後の方は悲鳴に近いような叫び声で
正直に異質で怖いと思った。

彼の辛い。という気持ちは伝わってきたが
それ以上は執着心や歪な思いしか伝わらない。


「水色君、君は……。」



再度、黒子君が呼び掛けるも水色君は振り向かず
たんたんと話し出す。



《…今回はここにたどり着いた時点でクリアだよ。》



そう言うと、始めと同じ様に濃い霧が立ち込める

「くそっ!またかよ!」と焦る日向君や火神君の声が聞こえる。

しかし一回目の経験が、項を期してか
皆、むやみやたらには動かない。


また、直ぐに霧が晴れるのを祈りながら待つ。


しかし霧は濃さを増す一方で
内心焦りだしていたところに

まさか

目の前に水色君が現れるなんて
誰が想像できただろうか。


《貴女と二人でお話がしたくて、》と言うのだから
もう、頭は考えるのをやめてしまう。
むしろ考えられない。


『水色君…。』

私は何も彼のことを、しらない。
かける言葉も見つからない。



《僕は始め貴女を誤って連れてきてしまった。
 そう思いましたが…違いました。

 確かに呼びたかったのは貴女では無かったが
 貴女で間違いなかった。》



感情の読めない顔で淡々と話すも意味が全く伝わらない。


『どうゆうこと?私じゃないけど私だった?』


首をかしげるも水色君は気にしていない様子で


《今はまだ、分からないでしょうが
 僕や赤司君の勘が正しければそのうちわかりますよ。》


そこまで言うと水色君は一枚の紙を差し出す。
警戒しながらも、私に対して差し出されているもので
受けとると紙には

“最後の選択肢は君に委ねるものとする。
 君にしか引けない物なのだから。“

と書いてある。


『……どうゆうこと?さっきの話と言い
 この、紙と言い水色君は何を考えてるの!?』

彼を掴もうと手を伸ばすも彼に実態がなく
掴めない。


《僕は、ただ皆にも絶望を見てもらいたいんだ。》



そう言って消える水色君。
同時に晴れていく霧。


霧が晴れると皆のいる体育館の真ん中に戻ってきていて
周りを確認すると
虹村さんや黒子君、日向君に伊月君、火神君も
戻ってきていてステージには

宝箱が1つぽつんと置かれている。


私の手には前ほど渡された紙があり
静かにそれをポケットにしまう。






この後にある出来事なんて
誰も想像出来るはずもなく。












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