▽25.




『はっ、はっ、…上手く撒けた、か、なっ…。』



現在の私は絶賛追いかけっこ中で
良くわからない校内を走り回る。

かなり走った先に大きな建物があり
身を潜める。


どうやらここはプールのようだ。



なんとか撒けたか?と物陰から静かに覗くと
キョロキョロと周りを見渡すゾンビさんが
いらっしゃる。

こちらには気づいていないようだ。



『よし、このまま静かにしてよう。』
と決め込み観察を続ける。

皆は大丈夫だろうか。


しばらく見ているとゾンビは私を見つけられなかったのか
来た道を戻りだす。
ほっと胸を撫で下ろし取り敢えず
ゾンビが遠退くまでは動かないでおこうと思うも

奥でキィーと柵が外れて何かが開く音がする。



不信に思いながらも無視することも出来ず
ゆっくり静かに奥に足を進める。



『おっきなプールだなぁ。』



更衣室や、シャワールームなどを抜けて
プールまで出てくると意外と綺麗な水がはってあり

ものすごく大きいプールが広がる。
いったい何コースあるのやら。


周りを見渡すも怪しい人影も物もなく
ただの大きなプール。
考えすぎかな?と思い戻ろうとしたとき

後ろから意外な人物に呼び止められる。




《ようこそ、ななさん?》




予想外の人物と声にいきおい良く振り返ると

そこには男の子が立っていた。
飛び込み台の上に言うなればそう、ちょこんと。


黒子君より少し高めの身長にバスケットをしていたとは
思えない身体の細さ。

黒髪、黒目、その風貌はとても儚く弱々しかった。





《貴女と直接話さすのは始めてですね。》

と淡々と話し出す。
も現状に頭が上手くついてこない。




『水色…君?』
分かりきっているのに言葉がでなくて息が詰まる。
なぜ?彼が出てきたのか?

どうしてこんなに悲しそうなのか?
しかし、私の様子を気に止めることなく話し出す。


《なるほど、、、やはり貴女は…。》と
水色君が言いかけたとき
バタバタと何人かの足音がこちらに近づく。



《…案外早く秀徳が来たな。
 そうとう貴女のことが、心配だったのかな?》


プールの入り口に目をやる水色君をキッと睨む。
『どうゆこと?何か、しかけたの?』






《何も?ただ、宝箱の代わりに“プールへ”とメモを
 渡しただけですよ?

 貴女にはここに来るよう敢えてゾンビを仕向けたので。》



ふんわりと笑う水色君。
くそ、知らない間にはめられてた。




すると、言葉通り秀徳組のメンバーがバタバタと
プールへ走ってくる。



「ななさん!大丈夫っすか!?」



と、先頭を走っていた高尾君がまず近寄ってくる。


『私は大丈夫!皆は?なんか、教室すごい音してたけど
 大丈夫だった?』



「俺等がやられるわけねぇだろう。轢くぞ。」


心配する私のおでこをぺしんと叩く宮地君。
「宮地さん、ツンデレ発揮してどうすんすか!」と
高尾君が突っ込み「通常運転だな。」と
木村君が落ち着いて解説している。



私はハッとして飛び込み台の方を見るも水色君は
いなくなっていて、


「どうかしたか?」と大坪君が心配そうに
一緒に飛び込み台を見やる。
飛び込み台に一歩一歩近づき触れる。


『さっき、ここに水色君が、、《僕がどうかしましたか?》


居なくなっていたはずの水色君が突然、
私と秀徳の皆の間に現れ驚く。

それは、秀徳組も同じて。

ましてや、始めて会った面々は呆気にとられていて。

まあ、一人緑間君を覗いてだが。



「水色。どうゆうつもりなのだよ。」





《久しぶりだね、緑間君。
 君とは一軍、三軍で直接会うことはなかったが
 覚えていてくれてたとは光栄だよ。》



水色君は秀徳の方を向いているのでハッキリとは見えないが
放送の時とは違い怒りや嘲笑ったような感じは
一切なくただ、普通に話している。
おかしなほど、それが怪しいくらいに。



「ふん、確かに軍が違えば会わず知らぬだろうが
 三年のころ同じクラスだったのだよ。」


とブリッジを上げる緑間君。
同じクラスだったんだ。体育館ではそんな話し
してなかったし知らなかったなと思えば
「赤司も同じクラスだったのだよ」と高尾君に話していて
私と同じことを思ったのだろう。



《君との昔話に花を咲かせたいが、今は時間がなくてね。》

と水色君はこちらに振り向き私の肩をトンっと押す。
まさかの行動に踏ん張ることも出来ず
そのまま重力に逆らわずバシャーンとプールへ落ちてしまう。



もちろん、急いで上がろうともがくも
どうやらプールのそこで待機でもしていたのか
ゾンビが足を引っ張り上手く上がれない。

と言うか水の中でゾンビて

いろいろ気持ち悪くて怖い。

なんとか振り払おうとジタバタするも意味なく
ただただゾンビがまとわりつく。

ちょ、ちょっと、どこ触ってるの!と言いたくなるほど
するするとゾンビの手が這う。


太股まで上がってくるゾンビの手に
ゾンビの気持ち悪さと、また別の気持ち悪さと
あいまって本当に気持ちが急く。


水の中で拳銃は使えない。

殴る、いやいや無理だ。

しかしゾンビは徐々に上へ上へと上がってくる。
私の身体も沈んで行く。

なんとか息を止めて意識を飛ばさないようにする。

水中じゃ、なにも出来ない自分に苛立ちと不甲斐なさ感じなから。











▽▲










バシャーンと音を立ててななさんが水に落ちる。
一瞬のことで身体が反応できなかったが
すぐ横で宮地さんが一番早く反応し走りだそうとする。

それを慌てて木村さんが止める。も
宮地さん、マジで人を轢きかねない雰囲気を醸し出してるし

真ちゃんは真ちゃんはで、ものすんごく怖い顔で
水色ってやつを睨んでる。


「おいてめぇ!どうゆうつもりだっ!」


木村さんに抑えられている状態でも
宮地さんは臆せず怒鳴ってて
なりふりかまってらんねぇってことは伝わる。



「確かにさ、冗談にしてはやりすぎじゃね?」






《ふ、そうかい?いつだって僕は本気、、だよ?

 ちなみにこのプールの底には
 ゾンビを待機させているから
 彼女、直ぐに上がってこれないだろうね。》



そこで我慢していた宮地さんがついに、プールに入ろうと
するのを木村さんだけじゃなく
大坪さんも止めに入ってていろいろやべぇ、


「やめとけ宮地!ここから見たってななさんも
 ゾンビの姿もうっすらしか見えない!

 今行ってもお互い危険な目に合うだけだ、
 いったん落ち着け。」


やりきれない気持ちがあるのか力強く掌を握る宮地さん。
いや、気持ちは分からなくもねぇけどな。

じゃあ、どうすれば!っと宮地さんも
いまだ全然落ち着いてなんかいなくて。
すると、さっきから何か一人で考え込んでた真ちゃんが話し出す。


「何か仕掛けがあるのだろ?…さっさと話すのだよ。」

やっぱ、俺はこうゆうときの真ちゃんが一番すごいと思う。
怒っていても落ち着いていて、でも自分がぶれねぇとこ。

《ああ、あるよ。
 奥の倉庫に水量調節機があるから使うといい。

 ただ、一般的な学生に利用できるかまでわからないが。》 

じゃあ、健闘を祈るよ?とさらさらと消えちまったその様子は
マジで気味がわりぃとしか言いようがない。


しかし今はそんなこと考えている暇もなく
急いで奥の倉庫へ走る。



「真ちゃんどうよ!?」と真剣に機械とにらめっこしてる
相棒に声をかけるもしかめっ面で
この顔けっこうやばいんだなぁーとか少し心ん中で焦る。


その時、大坪さんが「ちょっといいか?」と
機械を見始める。

そういや、大坪さん編み物や細かい作業は得意だっだし。
と、期待する。


「どうだ?、大坪?」



宮地さんの言葉に大坪さんも結局はしかめっ面。


「正直わからないな。でも、おそらくここの非常時ボタンを
 押せば取り敢えず水は引きそうだ。」と

頑丈なプラスチックに、囲まれた赤色のボタン。
良くこうゆうの見るわ、たしかに。


「でも、殴るにしたってちょっと頑丈なすぎないか?」

木村さんがためしに軽く叩くもびくともしない。
なんか、殴るもんがあれば…………ん?

そういや俺、殴るもん…持ってた。と思い
一回倉庫をでてプールサイドにかけてあった

鉄バットを握り戻る、



「これならどっすかね!!??」





宮地さん、木村さん、大坪さんは目を見開くも
真ちゃんはどや顔で
いや、うん、おは朝のことを言いたんだろうけどよ。

「ナイスなのだよ、高尾!」
と俺からバットを奪い取ると、大きく振りかぶり
がしゃんとボタンを壊し押す。

それと同時にゴゴゴと水の引く音がし
これまた急いでプールへと戻ると水がだんだんと
引き始めていた。


プールの頭の方でななさんと
ゾンビの姿が見える。

いや、ななさんにまとわりつくゾンビの姿だ。
腰辺りまで手が回っており、かなりヤバイ状況だ。

俺は水が引ききってないプールへ入りじゃぶじゃふと
足を進める。
膝下辺りまで水は引いていて歩きづらいが
歩けないことはない。

後ろで、木村さんや宮地さんに「おいっ!」と
言われるが
いやいや?さっき先輩の方がくいぎみだったよなぁー
と、のんきに考えななさんのところまで行く。

そんで、ゾンビをまず殴っとく。
案外簡単に殴られてくれたゾンビは倒れはしないが
よろけてななさんから離れる。

遠くで真ちゃんが銃を構えていて
「馬鹿めっ、打つのは得意でも撃つのはそうでもないのだよっ!」
と言いながらゾンビの頭に弾が命中しちゃうところとか
マジでイケメン。

『ごほっ、ごほっ…。』
噎せてるななさんの背中をゆっくり擦り
「怖かったすよね、」と言えば『信じてたから大丈夫。』と
言われて恥ずかしくも己の顔が崩れるのがわかった。


しかし、弱々しく腕を掴むななさんの手は震えていて
その手に手を重ねてぎゅっとする。

守ってやりたい。
抱き締めてやりたい。

という気持ちに、かられてしまうが

ここで、できないのが俺の弱さだよなぁ、と
思った。











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