恋愛両成敗だったり?




(全然祝った感の無い)銀誕の一応続き物です。アレ見てないと全く意味不明なので一応其方を先にご覧ください。






まったく惚れたが負け、ってよく言ったもので。




十月もつごもり、今でも尚信じられないような大イベントが発生したのは、もう二週間以上も前の事になる。フラグが立つ以前に幾度も真剣を突き付けられ往来での子供じみた喧嘩は日常茶飯事、爽やかな程に嫌われている自覚しかなかった自分達。
(いや、俺も割と人に言えねえくれぇには似たようなモンだったけど)
でも、俺にだって意地があるってもんだ。好感どころか壮絶に嫌われている相手にどうアピールしろというのか。ゼロどころじゃないから、マイナスからのスタートだから。そもそも初対面から刀の切っ先を突き付けられどうして彼に惚れたのか自分でもよく解らないのだが、気付けば神楽辺りにはあっさり感付かれるくらいにはあの目付きの悪い鬼の副長サンにどっぷりオチていて、全くどうしようもない。さりげなく好意を伝えようと若干態度を軟化させたり、堕落しきった自分のイメージを払拭しようと何時になく張り切って男前をアピったりしてみた。今考えると、かなり恥ずかしいことをやらかした自信がかなりある。一ヶ月前、サウナでばったり出会った時に零した一言なんて、
「男は身体が資本だろ?『普段ぐうたらしてるくせに脱いだら男前ね』、ってベッドで女の子に言われてぇじゃん?ついでに銀さん、コッチも立派だから、って──痛てっ」
言いながら腰に巻いた白いタオルをぺらりと捲って首を傾げると、頭を叩かれた。
いや、実際言ってほしいのは土方くんなんだけどね。でも我ながら引くわ、うん。酔った勢いで女の子に絡む変態親父か、俺は。いやいや親父とか認めないけど、断じて認めないけど!しかし一つ弁解するならば、そもそも流れとして土方が己の身体を、些か嫉妬の滲むように筋肉のついた部分にぺたぺたと触れていったのが原因なのだ。うっかり勃ちあがりかけた自身を宥めようと、必死で理性を総動員させた結果がコレだったわけで。まあ、これは流石に土方引いてた気がする。だって自分が言われた立場だったら、間違いなく拳で沈めてたもんな俺、そういうレベルの失態だから。
そんな下手打ったり喧嘩したりで、好感度上げるどころかこれ以下はないという程に落ち込んだに違いない、はてどうしたもんかと頭抱えてだらだら過ごす内に迎えた誕生日だったが。

「これは、嫌われてはねぇ、って自惚れちゃってもいいわけ?なあ、土方くん」
愛しむようにそっと缶を撫でれば、秋桜の可憐な花弁の向こうに、頬を染めてコクリと頷く愛しい顔が見えた気がして。堪らなく幸せな気分のままに、淡く色づいた花を丁寧に押し花にして、ラミネートしていく。片恋慕の相手から貰った一輪の花を押し花にして取っておく、だなんて今時寺子屋のガキでもやらないだろう。従業員の子供達に見つかりでもしたらそれこそ、腹を抱えて爆笑されそうだ。
でも、これでいい。
でも、これがいい。
自分がかつて、誰にも言わずにこっそりと夢見たレンアイはまさにこんな形を描いていたから。誰かに愛され、誰かを愛する、という人間の理を全く知らなかった餓鬼の自分に、師は繰り返し言った。
─────恋することは、とってもいいことなんですよ
愛の形は、別に恋愛だけじゃない、私だって銀時のことを愛しています。しかし、やはり人生において恋は外せないものです。恋は、人を良くも悪くも変えてゆきます。そして、いい恋は人をまるくしてくれるんですよ、と。
そんな師に、自分は絶対にそんなもんするかと言い張ったけれど、実はこっそり餓鬼ながらも恋なんかに憧憬を抱いていた。実際大人になってからは、やれ擦れた恋愛だなんだと子供達に蔑まれるばかりで。
だから、きっとこれが初めての恋なんだろう。
初恋は、思っていた以上に厄介で、苦しくて、とっても幸せだった。




「あれ、汚職警官ズアル」
酢昆布を咥えて一歩前を歩いていた神楽が、人差し指で前方を指し示して振り向いた。その白い指先の向こうには、小さいながらも此方へ向かって来る見覚えのある黒服の人影があって、知らず知らず頬が緩んだ。
「オイてめーら、この女王神楽様に挨拶無しで歌舞伎町の道通れると思うなヨ」
さっと通り過ぎようとした土方と、その少し後ろで珍しく巡回に付いていた沖田の前に仁王立ちになった神楽の台詞に、吹き出す。
「うるせぇチャイナ、てめえなんぞが女王なら俺ァ天下治める帝國の皇子でィ。さっさと崇めな」
形の良い片眉を上げて更に挑発する沖田とメンチを切りあう神楽を見ながら、土方はしかめ面で煙草を咥える。仕事中だからか、さっさと行くぞ、と急かしつつそんな二人が微笑ましいのかそわそわと挙動不審になって、無理矢理引き離そうとはしない。すればやはり何時もの如く、
「今日こそ決着付けてやろうじゃねーかィ」
「望むところネ」
だなんて吐き捨てて、二人仲良く連れ立って遠ざかってゆく。去り際に、
「あ、そうだ旦那。土方が途中で追いかけて来たら面倒なんで、万事屋で一日監禁しといてくだせぇ。午後からはそいつ非番なんで、好きにしていいですぜ」
サラサラの栗髪をなびかせたドエス皇子が振り返っていけしゃあしゃあと宣った台詞におい待て、と慌てたもののとっくに二人は消え失せていた。往来のど真ん中で睨み合っていた二人は、そういえば普段よりも何処か楽しそうで、何だか策略の匂いがしていた。
(つか好きにする、って出来たらとっくにやってたっつの)
何とも爽やかな笑みを浮かべて去っていったドエス少年に心の中でごちたものの、取り敢えずこうなったら仕方ない。隣で半ば放心したように口を開けた土方の手を引いて、万事屋へと連れていった。

「………邪魔、する」
屯所へ、早めに非番を取ることにした旨と謝罪を入れて、何かあったらすぐ呼ぶようにと念を押した土方は、何処か所在無さげに引き戸を引いて靴を揃えポツリと呟いた。殊勝というか、律儀というか、少し緊張した面持ちの土方にそういえばプライベートで此処来るの初めてだっけか、と頬を掻く。神楽は先程沖田と何処かへと消えてしまったし、新八は妙の買い物に付き合うとかで出ているから、今この家には自分と土方、二人きり。何だか面映ゆいことこの上ないようなシチュエーションに、頭をくしゃりと掻いて、土方を居間のソファーに座らせた。
「あー、っと、何か飲む?まあ珈琲とかねえから茶だけど」
「………っ、茶……頼む」
えらくぎくしゃくした会話に緊張やら気恥ずかしさやらが相まって、やや乱暴に急須に茶葉を突っ込む。ドクドクと速まる鼓動が、物凄く恥ずかしい。好きなコが家に来ただけで挙動不審、って中二か。
湯を入れて、蒸らしている間に土方の前に灰皿をそっと置きに行くと、
「これ……お前の本か?」
どうやらソファーに置きっぱなしにしていたらしい読みかけの本の背表紙を撫でて、土方が此方を見上げ首を傾げた。
(うっ………可愛いなコンチクショウ!)
ただでさえ土方が来てるだけで興奮しているのに、天然で愛らしい仕草をこれでもかと見せつけられて思わず蹲りそうになるのを堪え、背中を丸めるのみに留める。自然と縮まった距離に息を飲みながら、何ともなしに土方の手にした本をちらりと覗くと。
「あああ、そ、そ、それは………」
「てめぇがまさかこんな本読むなんて……意外だよな」
目を細めて少し薄い口唇を緩く上げた土方はもう今にでも襲い掛かりたいくらいには、可愛かったのだけれど。その前に、その本の中には──────…
「中身、それ、見た?」
「中?初めをちったぁ覗いてみたが、駄目だな。学が無えから、どうにも文読むのは苦手だ」
「あっそう………うん、だよね、ちゃんと直しますすいませんほんともう」
そう言って土方の手からそっとその本を取り上げようとして、失敗した。
「つーか、何でこんな本読んでんだ?てめえはジャンプしか読まないと思ってたんだがな」
こんな小難しい政治の本なんて、と何処か誇らしげな表情とか本気で腰にクるんだけど、いやそうじゃなくて。
「あー、だからその、それしまってくるから」
「ん、何だコレ」
色々見つかったらイケナイものがあるから、と口にしようとした瞬間、土方は“ソレ”を分厚い本の間から抜き取った。
「うわああ駄目、それ土方駄目だから!放して、一回放そうお願いだから!」
「え、これって………」

焦った俺の手をひょいと軽々しく避けて、土方が手にしたものをしげしげと眺める。ああ、もう駄目だ。今なら羞恥で死ねそう。
「あぁ、悪いかよ、誕生日に誰かさんがこっそりくれたプレゼントですう!いや、解ってるから?どんだけ今自分が恥ずかしい大人か解ってるから?」
込み上げてくる羞恥心を誤魔化そうと半ば自棄になった俺が、必死で隠そうとしたのは、
「これ、この前の………」

土方が玄関の前にいじらしく置いていた、愛らしいプレゼントだった。
「し、おり……?」
せっかく貰った綺麗な綺麗な秋桜を枯れさせてしまうのは余りにも忍びなくて。それに、土方がもしかしたら抱いているかもしれない、俺への優しい想いも散ってしまうかもしれない。独り善がりだなんて解っていた、でもどうしても、ずっと残しておきたかった。
そんなことばれたら散々馬鹿にされるか、あるいは冷徹な視線でバッサリ斬り捨てられるのも解っていたから、こっそり栞にして使うつもりだったのに。

「うるせぇ、何も言うなバカ」
気恥ずかしくて、ふいと横を向いたけれど、想像していた土方の馬鹿にするような声はいつまでも聞こえてこない。そろそろとソファーを見上げてみれば、
「……っっ………!」
茹ったように顔を朱紅に染め上げた土方の顔があって。
何か言ってやろうと思ったけれど、何だか己の頬も熱かった。




(恋愛両成敗だったり?)

これ、そろそろ敗けを認めるべき?





やらかしてすみませんでした。銀誕全く祝ってなくね?という苦情来るんじゃないかとビビってたのやら、罪悪感やらで急いで書きましたら恥ずかしい大人達がいました。色々手遅れなのも、少し自覚済みです…!
20111030
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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