甘やかな両頬にくちづけを



二週間前の日暮れ近い夕方のことだった。俺は一人でこの河原の土手に続く小路を歩いていた。巡回中に逃げられた部下を屯所に帰り着いたら殴り飛ばしてやろう、と息巻いていた俺が見たのは、紅紫色に染まった夕空と橙の光を反射した水面、そして万事屋三人の姿だった。依頼だろうか、小さな黒猫を抱いた銀時と楽しそうにはしゃいで唐傘を振り回す神楽に、両手にスーパーの袋を引っ提げて何事か話している新八。紅々とした空に優しく照らされて笑いあうその姿に、何故か両足は動こうとはしなかった。
あれが、家族なのだと。
あれこそが、家族なのだと。
血は繋がっていなくとも、そう確信させる何かが其処には在って。あれが、万事屋が心底大切にしている家族なのだと理解すると同時に己の中に芽生えたのは、

「─────認めて、欲しかったんだ。あいつが大切にしている家族に、俺のことを」
偶に銀時の傍に寄り添うことを、家族にとって一番大事な大黒柱を愛することを、隣に立つことを。
「最期死ぬときは、あいつの名前を呟きそうで」
いつの間にやらこんなに惚れていた。こんなに腑抜けてしまうくらいに、惚れてしまっていた。
だから、

「不束者ですが、宜しくお願いします」

そっと頭を下げた俺に聞こえてきたのは、呆れた嘆息のような、笑い声のような。
「そこまで言うなら認めてやることもないネ。私は歌舞伎町の女王神楽ヨこれからはそう呼ぶアル、トシちゃん」
「ああ、解ったよ神楽」
見上げた空と重なるような、澄みきったブルーの虹彩は鮮やかで。冷気を乗せた秋風が薄を揺らす。
互いに不敵な笑みを浮かべてコツン、と拳をぶつけあい、俺達は立ち上がった。






「トシちゃん、新しく駅前にケーキ屋さんが出来たアルよ!」
「そうかじゃあ今度の土産はそれにすっか」
睦まじく万事屋のテレビ画面前に座り込み、何とも楽しそうに笑い声を立てる二人。あれ、銀さんに逢いに来たんじゃないの土方くん。何だか最近頻繁に万事屋に通ってくれてる割には銀さんとの接触減ってるよねこれどう考えても減ってるよね。

「なあ、新八。あの二人あんなに仲良かったっけ」
「まあ、良い事じゃないですか」
散々な放置プレイに唇を尖らせ不貞腐れる俺を、新八があやすように宥める。
「じゃあ今から行ってみるか」
突然立ち上がった二人に何処へ行くのかと尋ねてみてもまるで応えてくれない。あれ、土方くん、俺達付き合ってるよね!
そのままガラリと引き戸を開けた二人に、慌てて居間を飛び出す。後ろから新八の憐れむような視線を感じたがそれすら気にする余裕はない。
「おい土方、神楽待てってば!」
「何だ銀時。俺達今から出かけてくっから」
「邪魔しないでヨ銀ちゃん」
何処までも冷たい二人に一矢報いてやろうと、身長のまるで違う彼らを三和土から思いっきり両腕に閉じ込めた。
「なっ……!」
ぎゅうぎゅう、と力一杯に抱き締めて膝をついた土方と立ち上がった神楽、瞳を大きく開いた彼らににやりと笑むとくっついた愛しい両頬にとびっきり甘やかなキスをする。
何だか幸せな味がした、なんて少し格好つけ過ぎだろうか。




やっぱり俺って今、人生の頂点にあるようです。
坂田銀時、職業は果たしてニート寸前とご近所でも評判の万事屋、何とか三十路手前を愛する恋人と家族と共に突っ走ってます。








(甘やかな両頬にくちづけを)

こんな俺は、欲張りだろうか





りね様フリリク「銀土前提の神楽と土方」でした。
……何だこの不燃物…実にすみませんでした(土下座)
本当にこの子難産で苦労しました…
りね様に限り煮るなり焼くなりフリーで…す……

りね様へ
20110923
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