甘やかな両頬にくちづけを



「今日は、」

何時もは逆立つその流麗な眉根を珍しくぎゅっ、と寄せて俯き、何か言葉を探すように言い淀む。普段類を見ない何処か弱々しい姿に、言うまでもない庇護欲と暫く逢えずに胸の中で燻っていた恋心がひっそりと生命を吹き返すような音を立てた。
「今日は、その………」
それから更に幾度か躊躇うような素振りを見せて、はくはくと音にならない言葉を紡ぐこと数分、そろそろじれったくなって来た頃。「だから、今日俺はっ……その、こいつらに話があって……」
「こいつらってどいつアルか、男ならもっとはきはき言えヨ」
ぽつりぽつり落ちてゆく土方の言葉に、神楽は心底彼厭っているような峻烈さを台詞の端々に滲ませる。神楽は、そんなに土方が……?
神楽が土方を疎ましく感じている、その事実に何故か木枯らしが枝先の僅かばかりの紅葉を奪うような、寒々とした突風が突き抜けた感覚に襲われた。俺とあいつは普段将に犬猿の仲と形容すべきくだらない喧嘩ばかりで、きっと新八と神楽もそう信じて止まなかったはずだ。まさか俺達二人がれっきとした「恋人」同士でレンアイしちゃってる、なんて言われようものなら卒倒してしまいそうだ。
そう、そんなこと解っているはずだろう?
だったら、何で、こんなに。

ココロが冷えきっている?

ああ、解っているなんて所詮そのつもりだっただけなのだろう。解っている、のではない。解って、欲しかっただけなのだ。烏滸がましいにも程があるだろう、こんないい歳した大人のレンアイを年端のいかない子供達に認めて欲しかった、だなんて。
でも、こいつらはまごうことなき家族で。
あいつは初めて心から惚れてしまった恋人で。
だから、だから。
だから、俺は──────……

「……悪かった。俺は、眼鏡とチャイナに話があんだ」
悶々と渦まく暗鬱なネガティブ思考は凛々たる土方の声で、立ちこめていた暗雲に幾筋の光が射し青空に変わるように、一気に視界が晴れた。
弾かれたように瞳だけ土方へと向ければ、其処には。緊張した面持ちに、ピンと真っ直ぐに伸ばされた背筋。ああ、土方のこの顔が好きだ。張りつめた弦のようなギリギリと限界を感じさせるような脆さを備えるくせ、しかしそれでも伸ばした背中は振れることを、曲がることを、知らない、真選組を護る為なら何をも厭わないそんな土方が、俺は。
「俺を、……俺の、銀時との交際を認めてください」
今、何て言った?
そんな、土方が。
ゴリラ愛護団体会長を勤めゴリラの為に命を捨てるような土方が、ゴリラを筆頭にした真選組という組織の為に命を捨てるような、あいつが?
新八の、ヒュッと息を呑む音がやけに響いた。
真選組である自分が色恋沙汰なんて恥だからだとか言って、およそ三ヶ月目に突入したお付き合いはごく内密に進められてきた、というのに。惚れた弱みか、そんな土方の言葉に無心で頷いたあの夜を俺はまだ忘れたわけではない。確かに、彼はそう己に告げたはずだ。

「どうしようもねえちゃらんぽらんで、」
「トラブル背負うばっかの甲斐性無しでその背中傷だらけにして、」
どうしてだろう。
自分を貶すばかりのその言葉に、釘付けになるのは。
でも、と土方は小さく呟いて、

「決して折れない、真っ直ぐなこいつに惚れてんだ」
だから、と尻すぼみになりつつも続けた土方を新八が、もういいですから、と手で制す。
「土方さんの気持ちは解りました。何となく最近銀さん嬉しそうだったのは土方さんのおかげなんですね」
こんなマダオで良ければ、貰ってやってください、と、
人の良い笑顔を浮かべて。




「私はそんなの認めないアル!」


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