甘やかな両頬にくちづけを



俺って今、人生の頂点にあるんじゃね?
坂田銀時、職業は果たしてニート寸前とご近所でも評判の万事屋、何とか三十路手前を愛する恋人と共に突っ走ってます。




過去はまるで生死の境界線を往来したものの、今ではすっかり身も落ち着き金は無いがそれなりに面白おかしく日々を過ごしている。偶には誰かの為に少々命張ってみたり家族同然の従業員と馬鹿やったり、昔では信じられない程の安寧に身を寄せていて。ああ、これが幸せという奴なのかと思える程には平和に暮らしていた。それも最近、うっかり惚れた目付きの悪い副長さんへの、長年ひっそりこっそり温めていた甘酸っぱく擽るような感情に耐えきれなくなって、清水の舞台から紐無しバンジーで転落する並みの覚悟と過去に培ってきた貪欲なまでの執着でもってどうにかお付き合いまでこじつけた。日々忙殺の二文字がお似合いな恋人との逢瀬は少なけれど、ツンデレを極めた彼の密やかな愛情表現はそれはそれは美味しいもので、今更不満など無かった。
そんな折、よく脳内に浮かぶこの言葉、「俺って今、幸せの頂点にあるんじゃね?」
他者が聞けば確かに痛々しいことこの上ない、従業員の子供達に漏らした暁には間違いなく今以上に侮蔑の冷視線を送られそうだ。近頃でも十二分に凍死しそうだけど。氷河期かそうか仕事も氷河期迎えてますもんね。問題なのは是が文字通り浮ついた心情を示しているのでなく、将来の危険性を警鐘している点にある。例えば、二次関数のグラフを考えてみるとする。あれ、上に凸のグラフだったら頂点過ぎたら落っこちるだけだから。しかも転落するにつれてスピード加速してるから。下に凸っていう可能性は考えないのか、って今まで俺が転落人生を歩んできたとでもいう発言は控えて欲しいかな、できれば。

「銀ちゃん、お前鏡見てみろヨ。いつにもまして気持ち悪い顔してるアル」

愛読書の週刊誌を手にしつつ渦巻いた思考が止むことのない銀時に、振り向きざまに神楽が告げた。





「今日は良いお天気ですね。洗濯物日和だ」
少々物寂しい昼食を終えて、未だ膨れない胃袋にこれでもかと熱い緑茶を注ぎ込む。三人で食卓を囲み寛ぐなか、新八の言葉で晴れきった秋空に視線を向けた。
「あー……布団も干さねぇとなあ。つーかぱっつぁんよ、何かお前日に日に台詞が主婦だよな。いつぞや乗り込んできたホストの母ちゃんみてーにはなんなよ」
「新八は既に主婦アル。歌舞伎町一体のスーパーのセール情報は誰よりも確かヨ」
口唇を歪めながら揶揄う半ばニートも同然の雇い主と同じ従業員の問題児に、米神をピキリと引き攣らせて、まるで駄目なあんたらのせいでしょ、と擦れた眼鏡を押し上げながら強い口調で言う。

「まあ、こんだけ晴れてんしなー。久しぶりにどっか出掛けるか?」
「ヤッホイ!私遊園地行きたいアル」
二人とも何処か自覚していたのかあっさりと新八を切り捨てる。仕方ないなぁ、と一つ嘆息して何やら盛り上がる二人の輪に加わった。



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