炭酸ラムネと扇風機とふたり1.5



咆哮を上げる攘夷志士共が乗り込んで来る訳でもなく、爆破テロが勃発する事もなく。厳重な警備体制が敷かれた割に何事も無かっただけ、若干肩透しを食らったような気にもなるが土方自身こうなる事を予期していなかったと言えば嘘になるかもしれない。根拠なんて無い。だがどうしても、攘夷戦争が終末を迎える直前迄闘っていたという高杉や桂がこの式典に乗り込んで来る姿を想像することは出来なかった。

高官や天人を漸く全て見送った後、隊士らを退き上げさせる。一般市民も帰途に着いた今、閑散とした其処をじっと見つめる。桂は穏健派にまわったとはいえ最早形骸化し戦没者を弔う要素を一切排除しきったこの式典に何も思わないではいられないだろうし、ましてや高杉などは軍艦で派手にぶち壊しに来てもおかしくはない。まあ、そんなものでやって来られては流石に厳しいだろうが、しかしそれでも。テロリストについて考えを巡らしていたはずなのに、結局浮かんでくるのはあのキラキラとした銀髪で、ずっとずっと触れてみたいと実はひっそりこっそり思ってたりあわよくば何かの隙に応じて実行しようかと考えたこともあったりなんかして・・・・・・悶々と思考していた土方だったが、殺気を肌で感じた身体は一気に意識を覚醒させ、半ば無意識に刀の柄に手をかけて一気に振り向いた。

「・・・・・・総悟か」
殺気の主にはあと嘆息し、両の腕の力をだらりと抜く。

「何の用だ」

何時からたろう、一切の感情を削ぎ落とした能面には全く似つかわしくないこの大きな緋色の双眸に見つめられるのは酷く苦手で。今もほら、思考の総てを読み取られている気になって、その視線から逃れるようにふいに横を向き、煙草を咥えて低くそう問うた。

「ねえ、土方さん」

平素と比較すれば、吃驚するほど優しさを纏ったその声に思わずピクリと身構える。

「姉上の二の舞は、許しやせん」





(もうすぐ、雨が降りそうな)



きっとあのときの空は、こんなに曇っていたのだろう


20110824
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テーマ「人外ファンタジー」
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