僕の額と君の体温が触れあったときに



緩やかに意識が浮上し、ぼんやりとした瞳が最初に焦点を合わせたのは自室のものとは違う、煤けた天井の木目だった。此処は何処だろう、と霞み掛かった脳内で考えれば、ものの数秒で昨夜の記憶がフラッシュバックして。やけにさっぱりとした身体で恐らく万事屋であろう寝室で一人、朝を迎えているということはあれから今まで眠りこけてしまったということで。普段なら己でやるはずの後処理も、ああ見えて世話好きな彼がきちんと新しい布団まで敷いてくれたらしい。ここ数日書類整理で屯所に籠もりきっていたからであろうか、相当疲れが溜まっていたようだ。昔はどれ程徹夜しようがこんな事は無かったのに、と情けない己に嘆息し、未だ力の抜けきった身体に鞭打ってそろそろと起き上がった。

「…………はっ……」

上体を起こしてみれば、身体は鉛を敷き詰めたかのように重く、そして熱い。立ち上がろうと試みたものの、酷い眩暈に目の前が黒一色に染まったため早々に諦めた。体調が悪いのだ、と漸く悟って真っ先に頭に浮かんだのはやはり真選組の面々で。本日は一ヶ月振りにもぎ取った非番だから良いものの、流石にこの身体ではあの鈍感さが美徳とも言える己が大将さえ誤魔化せそうにはない。明日までには本調子とまではいかなくとも、無駄に聡いあの部下共を誤魔化せる程には体調を整えないと、と熱のせいかあまり回らない思考力でもってどうにかそこまで答を出した後、耐えきれなくなったのかぽすん、と背中から大分に薄い布団に倒れこんだ。

うとうとと次第に深くなってゆく闇に引き摺り込まれそうになった土方の感覚器官が鈍く捉えたのは、ススス、と控えめに開かれた襖の心地よい音色と、それに合わせて増した淡い朝日の光だった。ん、と黒曜を縁取る睫毛をパチパチと瞬かせゆっくりと瞼を開ければ、
「土方、もう大丈夫?」
瞳一杯に広がった銀色に酷く安心を覚えた。




昨夜急な発熱でぶっ倒れた、未だ寝ているであろう彼を起こさないよう、極めて慎重に襖を開くとまず視界に映ったのは、ん、と幼子がむずかるような仕草でもってゆるゆると若干眩しそうに瞳を瞬かす土方の愛らしい姿だった。普段とは打って変わってノリノリの土方が実は発熱していた、なんて思わぬアクシデントにより中途半端な熱を持て余していた自身がうっかりオーバーヒートを起こしそうになり、慌てて般若のような形相のお登勢を思い浮かべやり過ごす。無意識の内に洩れそうになった、ナニ今の誘ってんの、などという大人気ないことこの上ない言葉を強引に呑みしだくと、流麗な柳眉を顰めた土方に、代わってあたかも恋人が心配でたまらない体を装って声をかけた。目下この状況で一番の危険なターゲットは己の股間事情です、なんて口が裂けても言えるはずは無く、どうしようかなんて思案しつつ取り敢えず汗で濡れた額を冷やした手拭いで拭ってやった。

「すげー汗、やっぱ結構熱出たな…調子はどう土方くん」
「………よろ、ず…や…?」

喉が痛むのか、擦れ声で己の屋号をどうにか発した後引きつれるように咳を零して。本気で体調が優れないのだろう、ケホケホと尚も咳き込む彼に一抹の罪悪感を抱えながら、昨夜と同じくこつんと額を合わせる。但し、昨夜と違いを見せたのは、

「─────っ!なな、な………」

何度もくんずほぐれつ抱き合い、とても朝っぱらから口には出来ないあんな事やこんな事までイタしちゃっているにも関わらず、今時寺子屋の女の子でも平然としているようなこんな動作に、お前は何処の生娘だと思わずツッコみたくなるような華麗な恥じらいっぷりを魅せてくれた土方の仕草で、

「ま、そんなトコに惚れたって言っちゃえばそうなんだけど」

ノリノリだった昨夜のお前は何処行ったんだ、と問えばどうなるのかなんて考えれば何となく可笑しくって、未だ少々熱っぽい額にくっつけたまま口角を上げて、賑やかな従業員達が引き戸を開くもう少しの間まででも、と触り心地のよい滑らかな頬に擦り寄った。




(これが幸せってやつなんだろうか)


そんなことをふと思った己に苦笑して、





話……が…進まな…い
20110810
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