半分コしましょ?2



「………なんだよ」

国家権力の象徴、幕臣の証である漆黒の隊服の裾をガッチリと掴まれ土方は眉間に皺を寄せながら不機嫌な声を出した。目尻を垂らせ、まるで捨てられた仔犬のような表情に似つかわしくない握力でもって引き留めておきながら、一言も発する気配の無い銀時にはぁぁと深く嘆息し、不意に懐をまさぐるとその髪色によく似た携帯電話を取り出した。

「………あぁ、近藤さん……何だまたあの店行ってんのかよ、そうだ総悟が、……あ、少し遅れるかもしれねぇ、あぁ、ちゃんと大人しくしといてくれ─────後で迎えに行くよ」



二、三分会話した後パチリと携帯を二つに折ると、未だ隊服を掴んだままの銀時を見やった。
「お、多串君、あの………」
「おい、てめえ何か用あっならさっさとしやがれ。こちとら仕事中なんだよ」

ふぅ、と紫煙を燻らせながら言い放ち鋭い視線を送れば、思いもよらず、意を決したようなしっかりとした面持ち────本人が言うところの煌めいた瞳で。そんな若干の動揺を感じ取ったのだろうか、指先で握られた煙草からハラリと灰が舞った。

「十四郎」

およそ聞き慣れない己の名は想像以上に甘やかに耳朶を打った。銀時との逢瀬が叶わない度、頭に愛する恋人を想い浮かべながら密かに右手で自らを慰めていたが、そんな妄想上の銀時よりもずっとずっと格好良くて、煌めいていて、素敵だった。

何時もはヘタレでヘタレで耳の垂れた大型犬くらいにしかならない癖に。

万事屋のくせに、ずりいんだよ

せめて頬が赤らまないよう、唇を噛み締めて耐える。普段こそ己が優位に立っているせいか、どんな顔をすればいいのか解らなくて。掴まれた左腕はどうしようもない程に熱を持っていて。

こんなのは知らない、年端もいかない子供にでさえマダオと称される堕落したこの男を、摺れた恋愛ばかりでここぞというときに限って腰のひけるこの男を、リードしていくのは決まって自分だから。こんな風にじっと己を見つめ、とうしろう、と甘い声を舌に乗せる、こんなの全く知らない。

どうすればいいのか、必死に打開策を練り続けていた明晰な頭脳も、この時ばかりは完全に活動を停止していた。しゅうしゅうとオーバーヒートしたコンピュータのような音が聞こえてきそうなほど弱っていたのだろうか、最早、土方の思考力なんて無いに等しい。今、攘夷志士にでも斬り掛かられたりしたらどうなるのか、とぼんやり考えて唇からするりと洩れたのは、

ぎんとき、

屋号ばかりで一度も呼んだことのないこの男の名だった。








ぎんとき、




(その音は何故だか酷く幸せな気分にさせる)









次回完結(次こそ半分コします)
銀土に戻すのに思いの外手間取りました

20110807
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