happy wedding



「なあ、土方」
いつにない緊張した面持ちの銀時にどうした、なんて心地よい低音とともにさらり、とした漆黒を揺らして振り返った。
普段はすらすらと廻るはずの自慢の口だっていくら唇を舐めてもかさついた渇きが潤されることはなくて、
考えるまでもなく紡がれるはずの言の葉は今までの罵詈雑言の応酬ですっかり散り終えてしまったかのようで、
いつだってへらりとしたしまりのない表情を貼り付けていた余裕さえも何処かへ消えてしまったのだろうか、額からぽつりと、汗が零れた。
こんなにもみっともない俺だけど
なあ、これで解っただろう
お前を前にして余裕なんてこれっぽちも持ってやしないんだ
だけど、これが、本当の俺だから・・・

「十四郎」
「・・・・・・」

そっと一歩踏み出して、愛しい彼に近づく。
そして、告げるんだ。世界で一番の愛の告白を。

「十四郎、俺と・・・」
結婚、してください

瞬間、ふんわりと頬を染めた彼を腕に閉じ込めて、誓う。
もう、一生君を離さない―――




「・・・ってふざけるなあああ!!」

土方は、そう叫び声を上げた後のんきにパフェをもっさもっさと胃袋におさめていた銀髪の顎におもいっきりアッパーを食らわせた。ぶふぇらあ、とあがった妙な奇声に何事かと周囲の視線が居たたまれなくなるが、そんなことよりもしかし。
仕事中にもかかわらず連れてこられたファミレスで何処か誇らしげな様子で今朝方見たという夢の話を、それも単にこの男の妄想としか言いようがないくだらない話を聞かされとりあえず殴った自分は間違っていないと心に問いかけてみる。うん、間違ってねえ。

ちょっと来てよと軽い口調の割には案外強い力で腕を取られて。身長こそ同格なものの、体格や筋肉、そして腕っ節なんかは認めたくないはないが若干、向こうの方が上で。
だから、こうやって捕まえられるとろくな抵抗さえ出来ずになすがままになってしまう。半強制的に連れてこられたファミレスは昼時という時間帯のせいかまたは今日が休日だからなのか中々の賑わいをみせていて。そのため、あまり目立つような真似はしたくなかったし、特に隊服を着ている今、するつもりもなかったが。

目の前の、天パを揺らし頬を緩ませただらしない男のせいで土方の決意はものの三分というどこぞの料理番組並みのスピードでしてもって崩れることとなってしまった。



「っいってええ・・・土方くんてば照れなくてもいいじゃん、今のところは、まだ夢なんだし?まあ、そのうち正夢にしてやるけどね」
「そうかそうかそんなにいい夢がみたいなら一生眠らせてやろうか?」
やおら冗談とも取れないような凶悪な顔でにやりと口角を歪める愛しい恋人は随分と逞しい、が。瞳が全く笑って無いところに生命の危険を感じる。
「いやほら、何ていうかその土方くんとの新婚生活の夢はばっちこいだけれども死んじまったら見れ無くね?つかむしろ実現させたいですつかさせてください・・・あ、いや刀向けんのやめね?」

背筋を真っ直ぐに伸ばして凛と刀を手にする彼は惚れ惚れする程美しいのだが、自分が斬られる訳にもいかない。必死に止めてやれば、チッと舌を鳴らしてどうにか鞘に戻してくれた。なんで舌打ち?
「というわけで、土方くん・・・」
「・・・・・・・」
「僕と結こ──────」
「それ以上言ったら今すぐ斬り捨てんぞ」

夢の中の土方くんだとしおらしく頬を染めてめでたくゴールインするはずだったのだが。まさかの斬り捨て宣言ですか、そう来ますか。
現実の土方くんはというと、何やら携帯を取り出して厳しい表情で何処かに電話をかけている。別に電話なんて構わないが、一ミクロン程には構って欲しい。
土方が通話している暫くの間、ちまちまと残っていたパフェを堪能する。こんなシチュエーション下でも甘味はやはり美味しい。少し味気なく感じたのは気のせいだと言い張る。甘味に罪はない。

パタ、と携帯を閉じて土方は音もなく立ち上がった。
「あ、ちょ何処行くの」
「あん?仕事に決まってんだろ」
これで文句ねぇだろうが、と五百円玉を投げて寄越した後一切振り替えることなく自動ドアの向こうに消えてしまった。





to be continue
happy wedding2…?


(あとがき)

続くといいな
20110717
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -