R15くらいで…

僕の額と君の体温が触れあったとき




今はもう子の刻を回っただろうか、歌舞伎町とはいえこの一帯は平屋が連なる住宅街、しんと優しい静寂が辺りを包んでいる。
常夜灯の密やかな灯りで仄かに照らされた銀髪は、眩しい日光を一杯に浴びる昼間とはまた違った、苦味を含んだ煌めきを魅せていて。何処までも俺の瞳に焼き付いて、離れない。
せめて今だけは容されるだろうか、と鈍い光を放つ銀色に控えめに指先を伸ばした。
「どしたの、土方」
すれば、己より幾分大きく節ばった掌に自分の髪をくしゃり、と交ぜられた。銀色の男はもう一度、どしたの、なんていい歳した男には酷く不釣り合いな舌っ足らずの口調で、しかし唇に何処か心地よさを乗せて優しく問うものだから。
「何でも、ねぇよ」
三十路に片足突っ込んだ、俺よりも歳上の癖に誰よりも子供じみた男で、それだのに時折、達観した思慮深い僧侶のような聡明さを備え誰よりも大人になる目の前の銀色が可笑しくて、愛おしくて、堪らなくなったから。
苦笑をひとつ、零して。
なんでもねぇ、ともう一度呟いて。
何よりも美しい銀髪に指先でそっ、と触れた後。
薄暗い室内でも緩く浮き上がる、ふんわりと柔らかい笑みを溢す優しい唇に、苦笑の滲んだ己の薄いそれでゆっくりと口付けた。

「あのさ、今の状況理解してる、土方クン?」

ふわりと甘く掠め取るような短い口付けの後、何処か冗談じみた声音で呆れたように尋ねれば。俺がてめえに押し倒されてんだろうが、なんて強ち間違いではないというか正解なんだけれども出来ればほんの少々でもオブラートに包んで欲しいです、てかそういう事聞いた訳では無くて。

「いや、まあそうなんだけどね、さあ今からアンアン啼かせてやろうかって気合い入れてた時に、さ」
今のキスは反則なんじゃねえの?
愛しい愛しい土方からのまさかの不意討ちに少しでも報いたくて。最中のような、ざらついた低音で耳朶に直接囁き込めば期待通りにかぁっと音が響きそうな程、頬に朱が走った。
己の頬も若干熱を感じるから恐らく少し赤面しているに違いないけれど。何時もは土方の艶やかな肢体を覆い隠す憎いこの暗闇に、この時ばかりは感謝せざるを得なかった。

感じていた昂ぶる己の欲熱も、何となく刺を削がれていて。
誰よりも愛おしいこいつを、とびっきり優しく抱いてみようか、なんて柄でもないことを浮かべ。
先程まで弄んでいたせいか、濡れ尖った、充分に熟れきっている胸をゆっくりとなぞって再び口内に含めば、ん、とくぐもった吐息が滲む。やはり、優しくできそうにはない。ごめんねなんて胸の内で呟いて、少々乱暴な手つきで漆黒のスラックスを下着と共に一気に脱がせた。え、土方が呆けた声をひとつ洩らしたのを合図に、緩く立ち上がりかけたそれを甘く擦った。はっはっ、と徐々に速さを増してゆく荒い息遣いにとてつもない興奮を覚え、さらに手の上下運動を激しくしてやれば抑えきれない嬌声を控えめに響かせて土方は達した。
可愛い、と誰ともなく漏らした後覆い被さってぎらり、と土方を見やった。焦点の合わない濡れた瞳でぼう、と虚空を彷徨う姿に違和感を覚え、


「ひじ、かた?」
土方は少し我に帰ったのか、なんでもねぇ、と言いたかったのだろう。しかし、その応えは音になることは無く。
益々、おかしい、そう確信してこつんと己の額と土方のそれをくっつける。普段は長めの前髪で姿を潜めている土方の額は、白くて、小さくて、汗の粒がつうと流れて、ただ綺麗だと思った。自分の額で触れてみれば結構な熱を感じて、ああ熱いなあとぼんやりごちた。額をくっつける時は閉じていた瞳をふと開いてみれば、視界いっぱいに長い睫毛に縁取られた美しい黒曜石が映って。

どれくらいの間、そうしていたのだろうか。

はぁっと土方の熱を含んだ吐息を感じて、慌てて額を離した。
「あ、ごめ土方………じゃねえ!てめえ馬鹿、熱あんじゃねーか!」
すっ、と意識が覚醒したような気分で二、三度頭を振り急いで土方に服を着せてゆく。

無茶ばかりやってのける副長さんには全く、呆れるばかりで。熱があるなら大人しく自分の布団で睡眠を摂れば良いものを、そんな時に限って家に来るものだから。
そんな馬鹿で律儀な彼に、全く、と軽くデコピンをお見舞いしてやる。余程きつかったのだろう、着流しを纏い冷やした手拭いを額に載せてやる頃にはすっかり寝息を立てていた。

まあ、無理させた自分が悪いか、と苦笑して。

ごめんねなんてせめてもの償いにと熱を孕んだ頬にひとつキスを落とし。
ぽん、ぽんと一定のリズムを刻んで───────その昔、風邪を引いて震えながら座りこんでいた自分へ先生が優しく微笑みながらしてくれたように、怯える幼子をあやすような手つきで肩を叩いて、だいじょうぶ、と囁き続けた。


next→



(苦しそうな寝顔にごめんね、を)








自分にえろは無理でした(死)
20110724

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -