はじまりのうた いち



銀色に輝く髪がけだるげに揺らめいた彼を初めてみたのは、高校生になったばかりのことだった。
初めての出会いは桜の木の下で、なんてロマンチックなことがあるわけもなく、ただ入学式のクラス掲示を見ようと若干疎らになった人集りに走ったとき。

近藤や沖田の分までも確認しようと、視線を泳がせながら移動しているとふと隣の人物と肩がぶつかった。…すいませんと低い声で一応謝罪を済ませ、再び探し始める。
「ったく今どき小学生でももっとましな謝り方すんじゃねぇの?」
沖田の名前を同じ組番号で見つけた。何だ、あいつクラス一緒かよなんて苦笑して目線を右にやると、近藤の名をようやく発見した。彼は二つ隣のクラスらしい。哀しみにうなだれる彼の姿と、そして憎たらしい笑みを溢して文句ばかり言う奴が頭に浮かび、思わず微笑した。
「ちょっと人にぶつかっといて無視はないだろーが、え?何、幼稚園児ですかコノヤロー」
隣から陰湿な暴言が聞こえ首を少しだけ右に回すと、きらり、と光る銀髪とは対称的に死んだ魚のような瞳をした男がいた。ふわふわと自由に揺れるその髪にはやはり異質な真新しい学ランに、先程配布されたしおりを持っているところから己と同じ新入生であろうことは想像できた。黙っていれば、そしてその眠たげな眼差しさえなければ、男は見目が良い方だとも。
「んだよ、何じろじろ見てんですか……別にこの髪は、」
「地毛だ、って言いてぇのか?んなの見りゃ分かるに決まってんだろうが」
くるくるりと独特の動きを見せる銀髪を少し手に取り不機嫌そうに弄ぶ男に、土方が呆れるように言えば、え、と驚いた。
「まじで、そう思ってんの?」
そう確かめるような声で此方を伺った後、冗談ではないと感じたのかふっと緩やかに口元を上げ、

─────やべ、嬉しいわ
ぽつりと落とした声音は酷く優しいもので。そしてゆっくりと顔を上げて土方を見つめると、ふんわりとした笑顔で一言、サンキュ、と呟いた。
ただ、綺麗だと思ったのを覚えている。俺には到底真似できない、本当に綺麗な笑顔だった。
自分が特別なことをした記憶はこれっぽっちも無かったが、彼にとっては違ったのであろう。ザッザッ、と独りで去ってゆく靴音に耳を澄ませつつ、その背中が小さく、見えなくなるまで見つめ続けた。






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(それは、ほんとうに綺麗な笑顔で)



淡い栗髪の、あの人を想い出させた
20110521

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