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 お誕生日会

 三月二十日、結城きり。三月三十日、花枝ちか。四月二日、成島岬。四月七日、御子柴頼。三月下旬から四月上旬にかけて、菫荘は誕生日ラッシュだった。

「ということで、まだちょっと早かったりするけど誕生日おめでとう」
「おめでとうございまーす!」
「おめでとう!」
「ん、おめでとー」

 最年長の頼の音頭に合わせ、ちか、岬、きりが声を上げる。「俺まだ誕生日、結構先なんだけど……」「いーじゃんいーじゃん!」ばしばし頼の背中を叩く岬に「成島くん、頼先生に失礼だよー」ちかが注意するのに頷いてきりがくすくす笑う。

「えへ、ケーキおいしー」
「花枝それ何個目?」
「先生ココアとって」
「どれ? これ?」

 机の上に広げられたケーキやお菓子、ココアやコーヒーの香りが立ちこめる。それを飾り立てるのは、四人の笑い声。これと言った飾りなどはないものの、笑顔がそれを何ともない事にしてしまう。

「ねえねえっ」
そんな中、弾むような喜々とした声で、ちかが問いかけた。
「プレゼント交換とかしないの?」
「え、わたし持ってきてないよ」
「俺もないよ」
「俺も」
「まあわたしもないけどね」

 言ってみたかっただけなの、と笑ってしまうあたり、計画性がないのか何なのか。三人は一瞬面くらったように顔を見合わせるものの、「もう……」ときりが呆れるように笑うだけで、あとはまた笑みを重ねる。

「じゃーさ、今からお互いに用意すれば?」
「え?」

 何がじゃあなのか、といった表情で頼が岬を見る。けれど当の岬は「だって面白そうじゃん?」と言っては、からからと笑った。ちかはそれに乗らないはずもなく、きりももう慣れているのか、仕方ないなぁ、と言ったような表情をしている。

「でもプレゼントってなにを? 今からとか思い付かない」

 きりが尋ねるとちかと頼は顔を見合わせ、言い出した岬に視線を向ける。えー、っとお……、と何も考えていなかったらしい岬はしばらく言い淀んでいたが、いきなりぱっと顔を輝かせて胸を張って自分を指差した。「なあに?」ちかが首を傾げると、岬は大袈裟に手を広げて首を振る。

「プレゼントは俺自身だろ!」
「……」
「……」
「……え、えへへ」
「花枝いい、なんか切なくなるから無理して笑わないでいいよ……ッ!」
「プレゼントならリボンつけるか」
「わたしコサージュ持ってる」
「ちょっとお前ら何考えて……」
「ねえちかちゃん、ケーキまだあるー?」

 あるよー、とキッチンへ向かうちかに「ついでにコーヒー」と頼が声をかける。完全に忘れ去られた岬はしばらくわあわあ言っていたが、きりは一言「成島くんうるさーい」


 すっかり萎んでしまった岬を横目にケーキを頬張るきりと、飄々とコーヒーを飲む頼。ちかは岬を心配してか「ケーキいる?」などときいているが、岬は首を振るばかり。暫くの間そんなやりとりを続ける二人を見ながら、きりは頼に小声である事を頼む。頼はそれを笑顔で了承しては、席を立った。

「あれ、先生は?」
「お手洗いだって」
「コーヒー飲みすぎなんだよ……」

 未だにぐずぐず言っている岬が、そう毒づく。けれど、女子二人に完全なスルーを決め込まれ、さらにしゅんとしてしまうばかりだった。

「どうする?」
「どうするも何もないよ」
「そっかあ」
「ケーキまだある?」
「うん」

 へらり、と笑いながらケーキを頬張っていく二人。そんな二人の視界に頼がとらえられる。おかえりなさい、と言おうとしたちかの口が止まったのは、その後ろに別の人影の見つけたからだ。暫く不思議そうにしていたものの、その視線はすぐに岬に注がれる。それから、くいくい、ときりの服を引っ張ると、きりは満足そうに微笑み、どう? と言った風に片目をつぶる。ちかは小声で最高、と笑った。

「ねーねー、ななに用ってなにー? みさきちがどしたのー?」
「ななたろう!? え!?」
「あ、みさきち! ななね、頼せんせーにみさきちが呼んでるよーって言われたからね、来てあげたんだよ!」

 えっへんと胸を張るななとを見て「なに威張ってんだよ!」と岬が楽しそうに笑う。その様子を見たきりは頼にこっそりお疲れさま、と声をかけた。頼はそれを受けて軽く頷き、そのままドアの方を指差してみせる。
 なあに? ちかが岬とななとの邪魔をしないように無言で首を傾げてそちらを見ると、ドアの向こうからは聞き慣れた声が聞こえてきた。

「あ、しーくんも呼ばれたの?」
「しーくんって呼ぶな。ひつぎもか」
「うん、きりちゃんが呼んでるーって頼くんが」
「俺もちかが呼んでるって」

 その声を聞いた二人はばっと顔を見合わせ、「ひつぎくん!」「氏瀬くんっ」思わずそれぞれ想い人の名前を呼ぶ。それに応えるかのように二人がドアから顔を出し、柔らかく笑った。

「やっほー、きりちゃん」
「何してんの、ちか」



***




「どうしよう、ケーキ足りない……」
「え、じゃあ、ちかげ呼ぶ?」
「あ、俺食べないよ」
「あれー? ななの紅茶がない」
「さっき全部飲んでなかったか?」
「あ、ココアももう終わりだわ」
「……楽しんでるとこ悪いんだけど、お前ら、もう七時だよ」

 きゃいきゃいとした話し声は、何処までも果てなく。止めなけば、終わらないほどに。
 そこで、さすがに見かねたのであろう頼の発言に、驚きの声が重なりあう。確かに針は七時をさしている。
 騒ぎに騒ぎまくった結果、どうやら日が落ちるまでに至っていたらしい。言われた彼らはそこで初めて気付いたとばかりに顔を見合わせた。


「楽しかったねー!」
「うん、凄く。またやろうね」
「今度はプレゼント有りな」
「ごめんもう勘弁して」

楽しそうに響く笑い声。それを合図にするように、今回はこれでお開きという流れになった。
皿やコップの片付けを終えて、帰ろうとしたきり達を呼び止めたのは、言うまでもなく。


「誕生日おめでとう」


――大好きな君たちへ、愛をこめて。





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