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 なかなおり

 あなたはいつだって、その優しさを盾にする。
 大人の顔して、自分が傷つかないように逃げるんだ。ひどい。だってそうでしょう、尚巳さんは優しさのその先を知っていて、それなのに、私に振りかざすんだもの。
 ……きらいです。思ってもないことを、言う。
 だったらもっと突き放してくれたらいい。大人なら大人らしくいてくれればいい。たまに頼りなく笑わないで。見えない光を恨んでしまいそうなる。出来るなら、なんて出来もしない理想を並べたてたくなる。挙句に子供を言い訳にしてもっと甘えたい、なんて思ってしまうから。



「……怒ってるの」
「怒ってません」
「そう」

 嘘でしょ、とも、怒ってくれた方が楽だとも言われなかった。尚巳さんは何も言わない。何か言いかけて、でも、その代りに私から「何色ですか」と訊いた。尚巳さんは、白だと答えた。それはこの部屋の色ですか。それはこの世界の色ですか。違うよね、それは、尚巳さんの心の色なんでしょう。

「そっちいってもいいですか」
「うん」

 おいで、と言って引かれた手。それ以上は無くそれ以下でもないことを知って切なくなるのは、期待でもしたのかな。言い訳は一つ。あんまり優しくしないでください。だってそれに対して私は、何を返せばいいの。指が触れて髪に絡まる。

「さつきちゃん」
「はい」
「白って、何だと思う?」
「……」
「甘えることって、何だと思う?」
「……」
「わがままって、何だと思う?」
「    」

 ひどい。だってそうでしょう、尚巳さんは優しさのその先を知っていて、それなのに、私に振りかざすんだもの。今だってそう。知ってる癖に、分かってる癖に、――だいきらいです。ねえ。

「尚巳さん、何なんですか。優しかったり、頼りなかったり、分かんない。頼りないなら頼りないままでいてほしい。私どうすればいいの、どうしたって追いつかないのに」

 捲し立てた言葉に、答えはなかった。ゆっくりと手を伸ばす。容易に届いた腕が答えだと気づいたのは少しあと。

「ごめん、ごめんね」
 ちがう。
「ありがとう」
 どうして。

 ――大人のふりしか出来なくてごめんね。
 無声音で伝わる。充分に。
 違う。実際に大人なのは知ってる。知ってるからこそ。

 意地を張っていたのはお互いに同じだったことくらい、もう分かってるのに。
 あなたはいつだって、その優しさを盾にする。その優しさが何を守っているのか、そんなこと。

「ごめんなさい、ありがとう」

 だから同じ言葉を返す。それから、笑えればいい。







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