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 ニアリーイコール

 薄暗い部屋の中であだっぽくうねる肢体は、白く淡くつややかで。挑発するような、誘惑するような瞳がまた、どうしようもなく煽り立てる。陶器のような肌が広がる黒髪の中に埋もれては、彼女は薄く笑う。「あたしの事好き?」なんて、答えなんか聞かずとも分かっている質問をしてはまた、可笑しそうに笑う。伸びすぎた爪で俺の頬を撫でては、首に手を回し、甘えるように力を込めた。


「ね、あたしの事好き?」
「ああ、勿論」
「そお」


 興味ありげに訊かれた割には、そっけない返事をされてしまった。こういうのをいちいち気にするのは、俺の短所なんだろう。生真面目だの短気だの、言われた事がある。これは短所としか言いようがない。と言うかそもそも、長所と言えるものが無いような気がする。ああ、まあ、そういう事もあるだろう。なかったらなかったで仕方ない。


「……やさしーの、巳(おみ)のいいとこだと思うけどね、それが仇になるよぉ?」


 俺が考えごとをしているのなんか、全くお構いなしなんだろう。彼女――アズサ(字面は杏紗だと言っていた。)はからからと笑う。長い黒髪、猫に似た瞳、白い肌。見た目は綺麗なのに、軽すぎる口調がそれを台無しにしている。もうちょっと真面目に話せないのかと指摘した事があるが、「あんたじゃないんだし無理ぃ」、と笑われてしまった。はたして、どういう意味なのか。
 ――で、優しさがなんだって?


「何が言いたいの」
「だからー、そうやって仏頂面してさ? なに? 冷たい人を気取っても無駄だよんって話」
「お前はあほ気取っても無駄だよ」
「は−ん?」


 ほんとに緊張感がない。駄目だ。流される。って言うかそもそも何の話をしていたのかさえも曖昧になってきた。もっと言えば、俺らは別に話をするためにこんな場所に居るわけじゃない。午前二時に、しかもベットの上で。あー、もうなにがなんだか。それはアズサも同じなのか、寒いだのなんだの言いながら布団にもぐってしまった。顔だけが覗いていて、小さな子供みたいだ。


「駄目だよ。痛いときは痛いって言わなきゃ、悲しい時は、」
「――。……黙れよ」


 唇をふさいでは、押し込めるように抱きすくめる。お願いだからやめてくれと、本気で思った。俺らはあまりにも似すぎていて、だからこそ一緒に居たんだろう。でも、駄目だ。求めるものが一緒では、需要と供給が成り立たない。そんな事は分かっているはずだったのに。それは、


「それは、お前も同じだろう?」
「…………うん」


 それは、お互いを傷つけるだけ。愛だと騙っていただけ。ごめんとは言えなかった。喉に突っかかって、苦しくなってもがいて。空気を求めてはむさぼるように唇を重ねた。これで良いんだと思う。お互いに、変わる事は出来なかったけど。これでいい。これでいいよ。だからもう、終わりにしよう。


 ――別に、急に出た話じゃない。もとより相性は良くなかった。――いや、良すぎて悪くなっていた、というのが正しいんだろう。もっと言えばそれさえも間違っている。同じことを繰り返すようだけど、とにかく、俺らは、似すぎていた。表面じゃなく、根本が。似すぎていたからこそ愛せなかった。自分を愛せさいしないのに、愛せるわけがなかった。ナルシストにはなれそうもない。けれど、別れを言いだせるわけもなく。だからこそずるずると、傷をなめ合っていた。


「アズサ」
「んー?」
「もういいよ」
「うん。うん、そうね」


 お互いを認める事は、自分を認める事みたいで、それさえもできなかったけど。彼女がそう切り出したってことは、きっと。もういいんだ。引き金を引いたのは彼女。撃たれたのは俺。傷口には、暖かな痛み。開放感。――もういいよ。もう一回繰り返しては、彼女を撃った。どうか。どうか。




 愛していた。切り裂けるような痛みに耐えながら、君を愛していた。
 さようなら。どうか、幸せでいてください。



</補足>3年ぐらい前の話です。病気になる前かな。今の尚巳の性格は完全にアズサに影響されてます。へらへらへらへら。まぁでも結局は、表面が変わっただけで根本は全然成長してないです。これから変わっていければいいな。</>




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