成島くん誕 年度の始まりは四月二日で、終わりは四月一日。つまり彼は、わたし達学年のなかで一番最初に誕生日を迎える。彼がスタートライン。そう考えるとなんだか様になっているものだから、逆に面白い。 さて、はて。 誕生日って落ち着かない。わたしだけかもしれないけど、祝うときも祝われるときも、なんだかそわそわしてしまう。どうやって喜ばせようかなあ、とか、覚えててくれてるかな、とか。祝ってもらえた時の喜びは、言葉じゃ言い表せないぐらい、だ。だから、祝う相手にも同じでいてほしい。 それに、成島くんの誕生日を祝うのは、今回が初めてだから余計に。(だって入学式のときにはもう、十六歳だったんだもの!) 「花枝、何その深刻そうな顔。そんなんでもあれだぞ、おまえ結局はフローラルだぞ」 「違うから、絶対違うから。それに何か柔軟剤みたいでいや」 「柔軟剤……。これ以上柔らかくなってどうする」 「うん? 別に柔らかくないよ」 「はーいダウトー」 なんて、とりとめのない会話なんだろう。 まあ何が言いたいって、教室で考え事をしたのが間違いだったみたいです。人もまばらだったから大丈夫かと思ってたんだけど、本人がいたからアウト。って言うか部活なんじゃなかったの。あれ? そんな疑問を素直にぶつけてみるとお休みだそうで。菫荘できりちゃんを待たせているから、行かなければならないんだけど。来る? なんてそんな質問、もう答えは分かりきってるのに。 「もう今年度も終わりだねー」 「あ、クラス替えってあんの?」 「中等科はあったけど、どうだろ」 そう考えると、きりちゃんとはずっと一緒だなあ、とか。単に運が良いのか、名ばかりのクラス替えなのか。後者だったら問題を感じるけど、深く考えない事にしよう。それから菫荘について、ひたすらしゃべり倒したわけだけど、いつもの事だからもう何も言う事はない。自主学習なんてした覚えはきっと誰にもないと思う。 みんなと別れてから、 薄暗くなってきた空を見上げて、意味もなく微笑む。いや、もしかしたら意味はあったのかもしれないけど。それから、くるりと踵を返して、家と反対方向の本屋へと足を運んだ。 「あった、」 目的のものを見つけて、また笑う。いくつか候補を考えたんだけど、結局これに行きついた。というより、最初からこれ以外あり得なかったのかもしれないけれど。「プレゼントでお願いします」店員さんにそう伝えると、はい、なんて気まじめそうな返答が返ってきたものだから思わずおかしいなぁ、なんて思ってしまう。まったく失礼なはなしだ。 ――四月。 エイプリルフールで散々騒ぎまくって、色々な人に迷惑をかけたり呆れられたりしたけど、それはまた別の話。 一日を経ての二日の朝、決まりごとの様にメールを送る。ソファに身をひそめながら、昼ごろには届くかなあ、なんて考える。 直接渡そうかとも考えたんだけど、今回は郵送で届けようと、そう思った。ああ、それならわたしが郵便屋さんのふりでもして届ければよかったかな。来年はそうしよう。うん、決まり。 送ったのは、白い本。まっさらで、何もない、本。 成島くんの絵はいつも綺麗で、精密で魅力的なものばかりだから。きっとわたしにはわからない何かがあるんだろうな、って思う。だから、その世界を描けるように。 あとで会いに行こう。そして言えたらいい、笑顔で、お誕生日おめでとうって。 |