その一瞬を焼き付けろ | ナノ


「まーた寝てるよ」


そのでかい図体を大っぴらにして寝ている姿を見るのは、これが初めてじゃない。しかも決まって人から見つからなさそう所にいるのだから、探す方も大変だろうなぁと白石の顔が頭に浮かんだ。


「ほら千歳起きな、弦一郎に走らされるよ」


持っていたタオルやらドリンクやらを一度芝生に置き、千歳が寝ている茂みに歩み寄る。ゆっさゆさと体を揺らしてみるものの起きなくて、私はもう一度耳元に手を添え「おーーい!」と大声で叫んだ。でも、起きない。


「またウチのトトロが寝とるんすか」
「財前。どうにかしてよ」
「その人、眠りは割と浅いからすぐ起きるんすけどね」
「あ、やっぱそうだよね?」


今までも何回かこういう状況に陥って起こした事はあるけれど、その時は少し揺らしたりすればすぐに起きた。なのに、今はスースーと寝息を立てており一向に起きそうにない。


「昨日夜更かししてた?」
「いや、全員夜は早いっすね」
「おかしいなー…おーい、千歳ってばー」
「おーい」
「こら財前蹴るんじゃない」


先輩に対してなんという扱い。でも、ここまで起きないのは流石におかしいんじゃないか?そう思ったのは財前も一緒みたいで、「部長呼んでくるっすわ」とコートの方に駆けて行った。なんだかんだで心配らしい、当たり前か。
そしてものの数分で白石だけではなく色々なメンバーが着いて来て、中にはやはり弦一郎の姿も。うわぁ怒ってるなぁ、鼻息荒すぎて鼻の穴膨らんでるよ。


「千歳ーー!!起きんかーー!!貴様何度目だ!」
「ほんまいつもすまんなぁ綾奈ちゃん、千歳ええ加減にせいやー」


叫ぶ弦一郎、揺さぶる白石。それでも千歳は起きない。


「おいおい大丈夫かよ?マジで起きなくねぇ?」
「こいつ食いモンくれるし良い奴なんだよ、ここで起きなかったら…」
「物騒な事言わないでよ」


氷帝と立海の赤毛コンビにツッコミつつも、そんな悠長な事言ってられない感じなの?これ。いよいよ柳や忍足君など真面目なメンバーも出て来て、触診とかし始めて、待て待て待て。



「熱中症や脱水症状でもあらへんし、なんやコレ」
「不可解だな。とりあえず中へ運ぶか」


力の抜けきった、それも千歳サイズの人間を運ぶのは中々大変で、それは男達に任せて私は後ろを着いて歩く。自分が持って来ていたタオル類はちゃっかり宍戸が持ってくれていて、でも今はそれにありがとうと言う余裕も無い。こう見えて、心配はしている。
そして部屋に着き、ベッドに寝かせる。広い部屋だけどこんなに沢山人数がいると流石に狭く、それでも私は合間を縫って前の方に出た。もう一度言うけど、こう見えて心配はしている。


「熱も無いのになんで…」
「千歳ぇええぇえ!!!!」


そうして顔を近付け、額に手を当て熱を測ろうとしたその時。廊下からドタバタとうるさい足音が聞こえて来て、バーンッ!!と派手にドアが開いた。振り返らなくてもそれが誰かぐらい分かるので、その間に熱を測る。全然平熱だ。
と、その時。


「千歳大丈夫なんかぁああぁ!!!」
「ぐえっ」


金ちゃんが背中に圧し掛かって来たと同時に、私の口からは蛙が潰れたような声が、皆の口からは「あっ」という声が揃って出た。そして、チュ、という聞き慣れなさすぎる効果音。チュ、だと?


「…ん、うるさいばい」
「千歳!千歳ぇええ!!」
「う、わ、なんね皆揃って。ん?綾奈ちゃん?」
「…なんなの」


唇じゃない。唇じゃない。唇じゃない。それを頭の中で繰り返しつつ、千歳の頬をグイッと拭い取る。起きたならそれでいい。何も異常が無いなら構う事ない。でも、腹いせにお腹にグーパンはいれとく。次は千歳から潰れた蛙のような声が出た所で、私はさっさとその場を後にした。


「…皆、顔が怖いとよ?」


今日の夜ご飯、カップ麺で良いかな。


20キスで目覚めるらしい?
(20161007:南)
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