その一瞬を焼き付けろ | ナノ


「あぁーんもうっ!何が起こってんねんこれー!女の子になれて嬉しいけど!」
「私は全く持って嬉しくないんだけどどうしたら良い?」


目の前で浮かれている“自分”を見て、そして触るとゴツゴツしている“自分”の体を感じて、いよいよ眩暈が激しくなった。今週はこういう奇妙な事ばかりが起こってもう私の頭はパンク寸前です。

事の始まりは3分前、小春ちゃんが洗濯物の手伝いの為に私に駆け寄って来た所から始まる。道端にあった石に躓いて、となんともお約束な展開を広げた小春ちゃんは、おっとっと!と片足でしばらくバランスを取ろうとしたのちに、結局失敗して転んだ。だから手を貸す為に私も駆け寄れば、これまた石に躓いておっとっと、バタン、ごっつん。って感じ。ようは頭がごっつんこした訳です。


「だからって、こんなの漫画の中だけだと思ってたんだけど」
「もしかしたらアタシ達、同じ夢の中におるのかもね〜!」
「ねぇお願いだから私の体でくねくねしないで」
「何やってるの、2人共」


とそこで耳に入った声に、思わずゲ、と声が漏れた。その声は本人にも聞こえたのか、相変わらずニッコニコと私のあまり好きではない笑顔を浮かべている。


「あら幸村君、汗が滴ってる姿も素敵やでー!」
「えっ?」


あ、でもちょっと待て、今私は小春ちゃんだったんだった。そして小春ちゃんが私で以下略。お願いだから私の姿でそんな発言しないでという想いも虚しく、小春ちゃんは幸村君に寄り添って猫撫で声をあげた。もう一度言うけど、私の姿で。


「ねぇ辞めてって言ってるでしょ!」
「ちょっと待って。金色、本気でオカマになったの?そして綾奈は変な薬でも飲んだ?」
「あらやだ、ごめん綾奈ちゃん。浮かれすぎたわぁ」
「本当だよ…」
「え、ごめん、意味分かんないんだけど」


流石の幸村君でもこの状況には笑ってられないらしい。だから私達は一度顔を見合わせて、声を揃えて「こういう事です」とありのままの現状を伝えた。そうすると、


「何それ超ウケる!」


まぁそう返ってくるとは思ってましたよえぇ。最初は戸惑っていた癖に瞬時に満面の笑みになった幸村君は、そのまま私達の腕を引っ張ってコートの方へ走り始めた。無邪気な笑顔浮かべてるけど足めっちゃ速いし力超強いんですけど。

そうしてコートに着き幸村君が「皆ー!」と叫ぶと、元より小春ちゃんを探していたらしいユウジがこちらに全力疾走して来た。いや待て待て待てと声に出す前に、ガバッ!と勢いよく抱き着かれる。


「小春何処行ってたんやぁー!会いたかったでー!」
「あのユウジ、悪いけど私綾奈」
「何言うとるん、こんなかわええの世界で小春だけやで」
「はははー盲目過ぎてウケる」
「なんや標準語ゲームかいな?俺もやったるで!」
「所詮姿が変われば分からなくなる程度の愛やったんやね、ユウ君。もうええわ!」
「は?何言うてんねん綾奈?」


そんな会話を交わせばやっぱり幸村君は爆笑。騒ぎを聞きつけた皆がなんだなんだと群がって来ると、いよいよどうしていいか分からなくって思わず体を強張らせる。なんせユウジ未だに抱き着いてますからね。


「アタシ達、中身が入れ替わってもたみたいやねん!」


小春ちゃんが声高々にそう言うものの、皆は何言ってんだコイツって書いた顔を向けて来るだけだ。誰か1人くらい分かってくれるだろうと周りを見渡すと、目が合った宍戸だけは本気で心配そうな表情を浮かべてくれている。そりゃそうだ、私がこんな悪乗りするはずないの知ってるもの、奴なら。


「夢なら本気で醒めて欲しいんだけど、そうでもないみたい。突然変異体にどうしようもない状況です」
「ちょっと、アタシの体をエイリアンみたいに言わんといて!」
「似たようなもんやろ」


ナイスツッコミ財前。というのは置いといて、これが悪乗りでは無いと分かるなりユウジは即座に離れて行った。んで微妙に顔を赤くして「すまん」。ちょっと可愛い。かと言って小春ちゃんにも抱き着けないで悶々としてる所がまた可愛い。いや、抱き着かれたら抱き着かれたでその絵面にどう反応していいか困るけど。


「そんな漫画みたいな事あんのかよ」
「私がいかに困ってるか、宍戸なら分かるでしょ?」
「俺も分かるよ綾奈ー!マジマジすっげーウケる!」
「ジローは黙っててー」


何故入れ替わったのかという数々の質問への応答は小春ちゃんに任せて、とりあえず宍戸とジローの間に身を置く。どさくさに紛れて胸を触ろうとしていた立海悪餓鬼3人組はしっかり殴っておいて(なんやかんや言って小春ちゃんも男だから結構力が出た。これだけは快感!)、ぼんやりと騒いでる皆を見つめる。


「お前この前もそうだったけど、当事者だってのに随分他人事だな」
「いやなんかどうしたらいいのか分からなくて」
「うげえ、やっぱりなんか綾奈じゃないみたいだC。ヤダ〜」
「私が1番ヤダよ」
「ショック療法はどうだ?」
「乾君、それ汁飲ませたいだけでしょ。ちらつかせないでもらえるかな」


でも、ショック療法といえばまた頭をごっつんこさせてみたら治るかもしれない。痛いのは嫌だけどこのままでいるのはもっと嫌だ。だから小春ちゃんの背後に近付いて、自分の頭を両手で抑えてそのまま勢いよくぶつける(紛らわしい)。


「いったぁーーい!?もう何すんねん急にー!」
「だからくねくねさせるの辞めてってば。しかも治ってないし…」
「試しに違う人と頭ぶつけてみたらどうですか」


何それ、同じ人ととは2回出来ないってやつ?どんなルールだ。でも案があるのならとりあえず試してみる価値はアリなので、私は提案して来た日吉君を掴んで思いっきり頭突きした。提案はしたものの自分でやられるとは思っていなかったのか、彼の顔は驚いていて…って、あれ。


「いきなり何するんですか!」
「日吉君、小春ちゃんになってる」
「知ってますよ!貴方は今俺です!」


その後、目の前で中身が入れ替わる瞬間を見てしめたと思った野郎共が、次々に頭突きを始めたのは言うまでもない。笑い事じゃないんだぞこっちは。

中々カオスな光景だったけど結果的には全員元の体と中身に戻ったし、それならもう何も言うまい。中身が入れ替わりやすくなる日もたまにはあるんですねぇ。ちゃんちゃん。


19彼が彼女で、以下略
(20140721:和胡美)
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