その一瞬を焼き付けろ | ナノ


「ぶふっ!」
「ブチョー!副ブチョが鼻血出して倒れたっすー!」
「案外そういう趣味あったんだねえ真田。死んで良いよ」


でっかいお兄さん達に囲まれながらキョロキョロと周りを見渡す自分、推定5歳。


「すまない金澤、まさか成功するとは思っていなかったし、お前に使う予定も無かったんだが」
「事の発端はどう考えても仁王だろ…何処行ったんだよアイツ」
「でもちっこくてかわいーのな!相変わらず無愛想だけど!」


珍しく眉を下げて謝ってくる柳君は、本当に子供をあやすように私の頭を撫でた。ジャッカルは真犯人を探しに行って、丸井君は軽々と私を抱き上げる。彼が膨らましたガムが顔にあたりそうで嫌だ。

つーか何この状況、と思っているのは私も同じなので、改めて振り返ってみましょう。

ついさっき午後2時くらい、ドリンクを運びに立海コートに向かっていると途中で仁王君に遭遇した。さらっと何も言わずに運ぶのを手伝ってくれた仁王君。そこまではおぉ気が効くじゃんと感心していたし、その後に「これ美味いから飲みんしゃい」とまさかのドリンクをくれたのには更に舞い上がった。なんたって今日は暑い。んじゃ遠慮なくいただきまーす、とペットボトルの蓋を開けると、遠くの方から柳君が全力疾走してくるのが見えた。何あのシュールな光景と若干笑いながらもジュースを飲んでいると、あれれれ、なんか体に異変。気付いた時にはこのサイズ。


「要するに君は、蓮二が乾に対抗して作った通称柳汁の餌食になったって訳」


あくまでも笑顔で説明して来た幸村君だけど、そんなん納得出来るか!腑に落ちてない事を体をジタバタさせる事で表現し、丸井君は慌てて私を地面に降ろした。そして、


「何、おしっこしてぇの?」
「消えればいいのに!!」


思わずほっぺをぱちん!と叩く。でも5歳児の力なんてたかが知れてて、丸井君はけらけらと笑いながら私の来ているTシャツを整えた。ちなみに服までは小さくなってくれなかったので、今はTシャツを地面に引きずりながら歩いている。ブラは脱げたズボンにくるんで適当なベンチにポイ。さすがにパンツを履かないのはいただけないので余った箇所を腰で結んでいる。女として良いのかという質問は受け付けない。

とそこで、コートの入り口からバタバタ!!と何人分もの足音が聞こえて来た。うわぁ絶対これややこしくなる、と思った頃には既にしっちゃかめっちゃかになっていて、もう誰に抱き上げられているかわからない。


「んもぉーっ!綾奈ちゃん可愛いーっ!」
「甘え下手な子供ってほんまかわええよなぁ」


論点がズレてる小春ちゃんと白石は構わない事にする。


「それよりこれどうにかならないの?」
「もう1回同じのを飲んでみるのはやりました?」
「うんでも無理だった」


日吉君に相槌を打てば、それまではしゃいでいた人達が途端に考えるモードになった。いや、未だにはしゃいでる人も何人かいるか。そいつらはもういいや。そうして全体がちょっと重い雰囲気に包まれている時、また入口から騒がしい声が聞こえて来た。隣にいた銀さんの肩に登ってなんだろうと見てみると、ジャッカルと柳生君に腕を取られて宇宙人状態の仁王君がいる。めっちゃくちゃ気まずそうだ。


「全く!女性に得体の知れない飲み物を飲ますとはどういう事ですか!」
「…ごめん、金澤」


怒られた子供のように上目遣いで謝って来た仁王君。びっくりして逃げちゃったとかヘタレかこの。まぁ確かに彼もまさかこんな事になるとは思っていなかったんだろう、けどそれではい良いですよと言える程私も大人じゃない。ていうか今子供だし。体が小さくなると同時に中身もちょっと幼児化しているのか、なんだか喜怒哀楽の波が激しい気がする。とりあえず仁王君の元へ行こうとまた体をジタバタさせると、銀さんから滝君、滝君から財前、財前から目的地に到着。腕の中にいる私を見て、いよいよ困る仁王君。


「どうしてくれるの」
「…わからん。どうしよ」
「どうするのーーー」


つい涙目になって来た自分が悔しく恥ずかしく、両手で仁王君のほっぺをぐりぐりする。隣にいる柳生君が「や、やめたまえ」と狼狽え始めて、とうとう泣きだした私に皆がどよどよと騒ぎ始める。

もう1回言う。何だこれ。


「お前は何だってこんな厄介事に巻き込まれるんだよ」
「あとべぇええ」
「本当に子供だな」


後ろからひょい、と私を抱き上げたのは結構な勢いで苦笑している跡部だった。もはやひきつけを起こしている私の背中を、跡部がぽんぽんと優しく叩く。この人こんな保父さんみたいな事出来たんだ、と思っていると、段々と落ち着いてきて呼吸も休まる。跡部の肩越しに皆を見ると泣き止んだ私に安心してかほっと一息吐いている。そんな表情を見て私も安心して、次は眠気が襲って来る。








「やっと起きたか」
「ぎゃあああああ!?」


寝惚ける暇も無く映し出された跡部のドアップに、全力で叫んで、全力で押し飛ばした。ベッドから転げ落ちている跡部を見てあっと我に返り、久々にこんな叫んでしまったとちょっと後悔する。更には「いてぇ」と頭を抑えながら起き上った跡部を見て小さく「ごめん」と呟く。


「夢オチ、じゃないよね」
「向日辺りが写真撮ってたから見せて貰ったらどうだ」
「うわあああ黒歴史」
「結局時間が経てば治るもんだったみたいで、15分前くらいから戻ってたぞ」
「じゃあなんで跡部此処にいんの?」
「誰かさんが首に巻き付いて離れなかったんだろ」
「本当に今日人生最大の黒歴史」
「そんな言い草アリかよ」


用が終わったならさっさと帰ると言わんばかりにドアに手をかけた跡部に、お世話になったのは間違いないからお礼を投げかけておく。するとまたさっきみたいに苦笑しながら、「仁王が落ち込んでたから後で行ってやれ」と言われた。時間を見ると16時過ぎ。晩御飯の準備に行く前に立海コートに行ってみよう。あれ、そういえばなんでわざわざ跡部自室に連れて来てくれたんだろう。別にベンチで良かったのに。そう思ってその趣旨の質問をしてみると、


「お前その格好で野郎共の中にいるつもりか」


この黒歴史、誰かどうにかして下さい。



17彼女が幼女に若返り?
(20131122:南)
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