その一瞬を焼き付けろ | ナノ


「あんたらと綾奈さんって、どうやって仲良くなったんっすか?」
「赤也!あんたらとはなんだ!口の利き方に気を付けろ!」
「あーはいはいすんません。で、どうやって?」
「赤也あぁあぁ!!!」
「落ち着け真田」


休憩を利用して何やら話し合いをしていた真田と手塚の間に、タオルを肩にかけ、ドリンクを飲み歩きしながら切原が割り入った。

突然の質問、そしてその口の利き方に真田は発狂しているが、手塚は特に気にしていないのかスルーしている。そんな手塚に宥められ真田もようやく落ち着いた所で、3人は本題に入る。


「最初に綾奈に会ったのは、山奥の川だったか」
「川ぁ!?」
「うむ。俺達はお祖父様に釣りに連れて行ってもらったんだが、その時にちょうど綾奈もいたのだ」





「ええいっ、国一!今日という今日は決着を着けてやる!」
「国光、釣り針で怪我をしないよう気を付けるんじゃぞ」
「話を聞けえぇえぇええぇ!!」


兼ねてより仲の良い(?)手塚国一と真田弦右衛門は、弦右衛門が主に対戦を申し込む形で、休暇を利用しては釣り等に出掛ける事が多かった。

勿論それには孫の手塚と真田も連れ回されていたのだが、その面子に新しく仲間が入るようになったのは、2人がまだ小学校3年生くらいの時だろうか。


「そういえば弦右衛門、今日はワシの友人も誘ったんじゃ。釣りが上手くての」
「ほう、お前が言うならば相当なのだろうな。で、その友人とやらは?」
「おーい!遅くなってすまんのうー!」
「おぉ、来た来た」


遠くの方から聞こえた声に、国一は手を振って呼びかける。それまで釣り用具に真剣に見入っていた手塚と真田も、国一の声に導かれるように視線をそちらに向けた。


「ちと迷ってしまったんじゃ。どうも、金澤友和と申します。これからよろしくのう。こっちは孫じゃ。ほら、挨拶しなさい」


小柄な友和の背中に隠れるようにしているのは、これまた小柄な綾奈だ。人見知りな彼女に対し弦右衛門は勢いよく挨拶をしたが、強面の老人に迫られれば女の子が怖がるのは当然である。

だから綾奈は更に身を縮こまらせ、しまいには友和の服の裾を引っ張り、小さく「帰りたい」と呟いた。


「名前をはっきり言わんとはたるんどる!」
「俺は手塚国光だ、よろしく」


綾奈の態度を真っ向から指摘する真田と、何も気にしていない様子で名前を告げる手塚。

対照的すぎる2人の顔を綾奈はジッと見比べた後、手塚の方へ逃げるように飛びついた。それを見て老人3人組は釣りを始めるが、真田は勿論納得がいかない。


「こら!なぜ逃げるのだ!」
「真田、おおきな声をだすな」
「さなだ、こわい」


それからというものの、とことん自分を避けては手塚の隣にべったりと付く綾奈に、最初は苛立っていたが段々寂しくなったのか、ようやく真田は行動に移した。


「エサやだーー!!虫!!」
「…俺がつけてやる!」
「…ほんと?」
「だから、名前をおしえろ!」
「…綾奈!」
「真田弦一郎だ!」
「弦一郎!」
「綾奈!」
「綾奈、俺は手塚国光だ」
「国光!」
「綾奈」
「やっぱり国光が良い!」
「なぜだ!?」


とまぁそれからも言い争いは多々あったが、最初のような険悪な雰囲気は無く、そんな3人の様子を見て祖父達も笑みを浮かべた。

小学校も住んでる地域も違う3人は、そこまで頻繁に会えるという訳ではなかったが、祖父達の集まりには必ず参加したし、祖父達からお互いの様子も聞かされていた。

中学に入ってからは手塚と真田の部活により集まる率は減ってしまったが、それでも3人は相変わらずだった。






「へえー、綾奈さんって昔はそんな可愛いキャラだったんっすねー!」
「なんだかんだ俺達には気を許しているからな!」
「お前はあまり好かれていなかっただろう」
「あれは照れ隠しだ!」
「まぁ、確かに綾奈は昔に比べたら落ち着いたな」
「うむ。もう少し可愛げがあったものだ」
「副ブチョが可愛げとか言うの似合わねー!」
「なんだと!」
「ねー、本当似合わないよねー」


2人の話を聞いて楽しそうにしていた切原は、頭上から聞こえてきた声を聞いてその表情を更に深めた。反してピシッと表情が固くなるのは、彼の目の前に座っている手塚と真田だ。


「なーに勝手に人の昔話してるの」


ゴン!と鈍い音が響く。2人の頭に勢いよくドリンクボトルが置かれたのを見て、切原はとうとう噴き出して笑った。


「い、いつからいたのだ!」
「ほぼ最初から。どんな風に話すのかなーと思いきや、もう!」
「別に問題無いだろう」
「照れ隠しだのなんだの、的外れもいいとこだっての。しかも、さも私の人見知りのせいみたく言ってたけど、弦一郎にあんな態度されちゃ怖くて当然なんだからね。ていうか悪かったね、可愛げなくなって」


切原の分も合わせた3本のドリンクボトルを無造作に置いた後は、ブツブツ文句を垂れながら宿舎内へと戻っていく。

そんな綾奈の姿を見て3人は目を合わせた後、手塚でさえもが口角を上げ、笑った。


「お互い大好きっすねえ、あんたら」



11過去の美化はやめてくれる?
(20121127:南)
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