その一瞬を焼き付けろ | ナノ


ぐつぐつと煮えている善哉を見つめながら、あの二年生二人をどうしてやろうかとぼんやり考えていた。昨日猫を愛でているところを写メに撮られ、一日嘲笑うような視線で二人に見つめられて今日は機嫌が悪い。

同じ後輩でも青学の海堂君と桃ちゃんはあんなに良い子なのに。あと二年といえば、うちの鳳君も良い子だよね、宍戸の話を聞く限り。日吉君の話はあんまり聞いたことは無いけれど、樺地君もあの跡部にずっと尽くして本当に健気だと思う。

あと後輩といえば、青学の越前君と四天宝寺の金ちゃんか。あの二人も可愛いというか、他の老けた集団と違ってきちんと後輩っていう感じがして可愛い。越前君は生意気そうだけれど、そこがまた手懐けたくてたまんない。


「とりあえず財前と赤也はどうにかしないと、なめられるな……」
「うちの赤也がどうかした?」
「え?」


振り返る前に、背後から独特の空気を感じた。恐る恐る振り返ると、そこには立海のジャージを着た綺麗な顔の男の子が腕組みをして立っている。


「えーっと、幸村、君」
「あ、名前覚えててくれたんだ?」
「弦一郎んとこの部長さん、だっけ」


善哉の火を止めて蓋をし、白玉粉の袋を開けてボウルに入れる。どうもただの善哉ではいけないらしい。たまにはお餅とかにしたいなぁ、なんて考えながら白玉粉に少しずつ水を加えながら練っていく。

幸村君はそれを興味深げに眺めながら、特に何を話す訳でもなく私の隣でただ立っていた。立海の人とはほとんど会話をしたと思うけれど、この人は少し毛色が違う。

絶対的な威圧感があるけれどどこか儚いというか、繊細さも持ち合わせているような。弦一郎には微塵も無い雰囲気が彼にはあるような気がする。


「幸村君のところの二年生はあれだね、ちょっと思慮深さに欠けるね」
「あはは、馬鹿だろ? でもそこが面白いんだけど」
「敵に回して良い人と悪い人が解ってないみたい」
「うちの三年には絶対逆らえないから、金澤さんに迷惑かけるなって俺からも言っておくよ」


そうしてもらえると助かると言うと、幸村君はにっこりと微笑んだ。立海は二年生が三年生に絶対服従の関係なのね、恐ろしい。各学校で上級生と下級生の関係が色々と違って面白い。

ていうか私三年生なんだし、二年から舐められるっていうのがおかしい話なのだ。赤也は幸村君の言う通りただの馬鹿だとして、財前は生意気を通り越してもう、スレているといった方が正しいかもしれない。

財前の矯正は一体誰に言えばいいだろう。白石が部長ということだけれど、白石が言って聞くなら元々あんな態度で私に接しては来ないだろう。どうしたものか。


「金澤さんって、真田と幼馴染なんだって?」
「ああ、うん。あと国光と」
「真田と手塚が名前呼びって面白いよね」
「それ、不二君と越前君も言ってた。そんなに面白い?」
「ふふ、うん」


弦一郎って呼んでる人、他にはいないのだろうか。というか全体的に言えることだけれど、同じ部活でずっと一緒にいる割には名前を呼び捨てしている子が少ないなという印象を受ける。

氷帝も、ジローと向日君、あと鳳君は名前で呼ばれることが多いみたいだけれど、他のメンバーはほぼ苗字呼びだ。ていうか、跡部のことを名前で呼ぶというのが抵抗あるというか、なんというか、跡部は跡部だよねぇ。


「真田は金澤さんのこと、名前で呼んでるんだっけ」
「ん? うん」
「俺も綾奈って呼んでいいかな?」
「は?」


なんでその会話の流れでそういうことになるかが理解出来ない。弦一郎は幼馴染だから名前呼びなのであって、確かに中学生から弦一郎と知り合ったとしたら、きっと真田と呼んでいたに違いない。

幸村君はこの一週間以内に知り合ったばかりだし、まともに話をしたのはこれが初めてだ。なのになんで、いきなり名前を呼ばれるのだろう。

……まぁ、別に呼び方なんてどうでもいいけれど。ていうか、嫌って言わせないけどっていう顔してらっしゃいますけども。


「返事が無いってことは、良いよってことなのかな」
「……好きにしてください」


そう返すと、満足そうな顔をして彼はじゃあねと調理室を出て行った。まったく、何をしに来たのだろう。





「あ、綾奈ちゃん」
「ああ、千歳。こんなとこで一人で何してんの」
「散歩ばい」
「はぁ、散歩」

白玉も無事に茹で上がり、全員分よそったので一休みしようと自動販売機に向かっていると、向こうから目立つジャージの目立つ身長の男が歩いてきた。この時間はおやつ前で確かに自由時間にはなっているけれど、散歩をしている子がいるなんて。

白石と謙也君は大体の性格が解るけれど、千歳に関してはあまりよく解らない。にこにこ笑っているように見えるけれど、本当の心の内までは読めない。かと思ったら散歩とか言い出すし、好きな食べ物を前に聞いたら馬刺しって言ってたし。


「あのさ、千歳んとこの二年生だけど……」
「光君がどげんしたと?」
「四天宝寺の先輩にもあんな感じなの?」
「光君は誰に対してもあんな感じばい」


やっぱりそうか。赤也の対策は出来たとして、財前には一体誰に頼めばいいだろう。考えても思いつかないので、ここは同じ学校でいつも見ているはずの千歳に聞いてみよう。

しばらく考え込んで下を向いていたあたしがいきなり顔を上げたからか、千歳は目を見開いてどげんしたと? と聞いた。あまり頼りにはならないけれど、聞かないよりはましだ。


「千歳、財前の弱点知らない?」
「弱点ち言われても……」
「どうやったらあたしの言う事聞くと思う?」
「んー……善哉の白玉増量したら懐くんじゃなかかね」


そんな馬鹿なと思いつつおやつの時に財前の器だけ白玉を三個から五個に増量したら、その直後から昨日の写真の事であたしをからかわなくなったから、千歳のアドバイスもあながち間違いではなかったのかもしれない。



10儚さの演出とかもういいよ
(20121106:理恵)
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