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「おっはよー!長太郎!」

「あ、おはよう。萌乃ちゃん」



翌日。登校中に鳳の後姿が目に入るなり、萌乃はいつも通り一目散にその背中に近寄った。

昨日の出来事について萌乃から何かを言われた訳では無いが、もう知っているんだろうな、というのはそのボンボンに腫れている目を見れば一目瞭然だった。それでも何の態度も変えずにニコニコ笑っている健気な姿を見て、思わず鳳の方が情けない笑顔になる。



「萌乃ちゃん、ありがとうね」

「へ?何が?」

「あと、ごめんね」



ありがとう、と言われた時はピンと来なかったが、ごめんね、と言われた事で萌乃も何を指しているのか悟ったようだ。取り繕っていた笑顔が一瞬にして寂しそうなものになり、鳳は一瞬、この言葉を伝えた事を後悔した。



「テニスはテニス、だもんね」

「うん、そうなんだ。順位は付けれない」

「分かってるから大丈夫。私、若も長太郎も樺ちゃんも皆大好きだよ」

「ありがとう。俺達も萌乃ちゃんに救われてるよ」

「だと良いなぁ」



そう言いながら余計に泣きそうになった萌乃が、一体誰を想ってそんな顔になっているのか、鳳はすぐに分かった。恐らく素直では無い彼の事だから、馬鹿みたいに正直な萌乃がこうなってしまうのも仕方ない。



「日吉なら大丈夫だよ。萌乃ちゃんが付いてあげて」

「うん、大体引き剥がされちゃうけど」

「照れ屋だからね」

「少しはデレデレしてくれてもいいのになぁー若の意地っ張りー」

「誰が意地っ張りだ」



その時後ろから突如割り込んで来た声に、萌乃だけでなく鳳も驚いたように後ろを振り返る。



「…日吉」



今日は朝練は無いが、恐らく自主練でもしていたのか。部室においてあるシャンプーの香りがほのかにするところから、シャワーでも浴びて来たのだろう。昨日のあの騒ぎの後の練習ではロクに顔も合わせなかったから、こうして真正面から立たれるとどう会話を交わせばいいか分からない。そんな不安を萌乃も感じているのか、彼女は2人の顔を交互に見比べながら困ったようにオドオドしている。日吉はそんな情けない顔を見るなり、はあ、と深い溜息を吐き、一度目を閉じてからその強い眼差しで鳳を捕らえた。



「俺は負けないぞ。あんな形で下剋上達成しても意味無いからな」

「…うん」

「お前もその位置かっさわれないように精々気を付けるんだな」

「当たり前だろ!」



いつもに増して毒舌なのは、恐らく日吉なりの気遣いなのだろう。その事を理解している鳳は、鬱憤が晴れたように歯を見せて笑い、2人は一度拳をコツン、と合わせた。そしてその光景を誰よりも嬉しそうにして見ているのは言わずもがな萌乃で、彼女は2人の間に割り込むなりその腕を取り、意気揚々と教室まで歩き出した。



「また今日から頑張ろーー!」

「朝からうるさい」

「あははっ」



昔はさほど変わらなかった身長も、今ではくっきりと差が出ている。彼らは、着実に成長していた。


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bkm
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