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焦っちゃ駄目だと自分に言い聞かせて、とりあえず新人戦に向けて練習を積み重ねる。良いのか悪いのか慣れというのは怖いもので、こんな状況でも弓だけは引き続けれる自分にびっくりだ。



「今日は気持ち悪いくらい集中してるね。どうしたの牧田」

「気持ち悪いって酷いです先輩!」



それに今日は後輩指導で三笠先輩も見に来てくれてるし、気を抜くにも抜けないって話なんです。

杏子と喧嘩してから1週間が経った。ジロー先輩に言われた通り、いつもみたいにしつこくならないよう話しかけるのを我慢してたら、いつの間にか話しかけるタイミングを失ってしまった。でも、杏子とならきっと大丈夫って信じて、今はまだ行動に移さない。補欠だからって杏子は気を抜く事なく練習してるし、私も落ちを任されたからには誰よりも頑張らなきゃいけない。だから今は話す時期じゃないと思ってなんとか割り切れてる、と思う。



「まぁ、何があったのかはなんとなく想像出来るけど」



すると三笠先輩は、ふいにそう言って杏子の方に視線を送った。名前も1回も出してないし杏子の事も見ないようにしてたのに、なんで分かったんだろう?それにびっくりして思わず弓を引こうとしていた手を降ろせば、「分かりやすすぎ」と苦笑される。



「それでもちょっとは大人になったのかな。我慢を覚えたね、牧田」

「変わらなきゃいけないと思ったので」

「どうなんだろう。牧田にはそのままでいてほしい気もするけど、それだけじゃ上手くいかない事もあるか」



そこまで話していると顧問から喝が飛んだので、私と三笠先輩は気を取り直し再び練習に取り掛かる。変わらないって、変わるって、どっちも難しいのかもしれない。



***



「おはよー若」

「ん」



朝練が終わり教室に戻ると、そこにはいつも通り涼しげな表情で席に座っている日吉がいた。予鈴10分前の教室内の出席率はそこそこで、まだ賑わっているとまではいかない。



「練習どう?捗ってる?」

「お前に心配されるほど怠けちゃいないのは確かだ」

「何それ酷ーい!」

「おーい、牧田いるか?」



お決まりの会話を広げている所でドアから萌乃を呼ぶ声がし、2人で誰だと後ろを振り返る。萌乃の方はその人物を目に入れた瞬間パッ!と目を輝かせ、一目散に彼の元へ走り寄った。



「宍戸さん!おはようございます!」

「はよー。相変わらず元気だな」

「バッチリです!」

「んじゃ心配はいらねーか」



宍戸の言葉に萌乃は一瞬?を浮かべたが、すぐにそれが何の事を指しているのか閃いた。ついこの前、杏子の事で悩んでいる所を1番最初に助けてくれたのは彼と鳳だった。それ以来鳳とは勿論何度も顔を合わせているが、学年が違う宍戸とは中々会う機会が無かった。



「も、もしかして心配してわざわざ来てくれたんですか?」

「長太郎からもう大丈夫そうだっつーのは聞いてたけど、やっぱ顔見なきゃわかんねぇしな」

「宍戸さん…!」

「分かった分かった」



先程より更に輝きを増した目で見つめられると、いい加減宍戸も照れるのか鬱陶しそうに片手を振った。それが照れ隠しなのは誰から見ても明白である。



「上手い事言えねーけど、またなんかあったら言えよ」

「はいいい!ありがとうごじゃっ、ざい、ざいます!」

「噛みすぎだろ」



最後に労うように肩に手を置き、宍戸は颯爽と自分の教室に帰って行った。その後ろ姿を惚けた感じで見つめていると、現実に引き戻す平手がバシン!と頭にお見舞いされる。



「家庭内暴力反対だよ!!」

「誰がお前の家族だ。もう予鈴鳴るぞ」

「はーい」



プリプリと不満を募らせていた萌乃だが、自分以上に不機嫌な顔の日吉を見るとそれ以上何かを言う事は出来なかった。なんで若怒ってるんだろうなぁ、などという疑問は、口に出した所でまた叩かれるだけなので言わない。


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