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「その調子じゃ萌乃ちゃん、宿題は日吉君にみっちり見て貰ったみたいだね」

「えっ何でわかったの?」

「日吉君の形相も凄い事になってるから」



前の席の友達がそう言うから若の方をチラリと見ると、確かに目の下には隈がクッキリとあった。しかも私の視線に気付くなりギラッ!と睨んで来て、慌てて逃げるように目を逸らす。そりゃそうだよね、結局昨日宿題終わったの夜遅かったし、帰ってからも色々聞いてたもん。私も全然寝てない。



「何目逸らしてんだ」

「痛っ」



そんな始業式当日、後で若に何て言おうなんて考えていると、当の本人がすぐ後ろまで来ていた。周りを見れば皆式の為に教室から出始めていて、私もそれを見て席を立つ。



「き、昨日は何時に寝ましたか」」

「2時。正確に言えば今日だな」

「だよねー」



言えない!まさか1時には寝てたなんて言えない!でも若にはその事もきっちりバレてるのか、これまた鬼のような目つきで睨んで来た。なんだか年齢が上がるにつれて厳しくなってるよ、この人。

とそこで廊下に長太郎と樺ちゃんの後姿が見えたので、私は逃げる意味も込めて2つの大きな背中に飛びついた。2人も昨日一緒にいたけど、私達よりは早く終わらせてたからその顔はすっきりしてる。



「おはよう萌乃ちゃん。日吉から逃げて来たの?」

「あ、バレてる」

「ちゃんと、家に、帰れた?」

「なんだかんだ若が送ってくれたよ」



体育館に着けばクラスごとに別れなきゃいけないからここで2人とはお別れだ。首根っこを掴んで来た若にズルズルと引き摺られ、女子列に放り込まれる。周りから相変わらずだね、と笑われたので、これが相変わらずってどうなんだろうと思いつつも笑って流しておいた。

周りを見渡せば、この夏休み期間中に随分と変貌を遂げた人や、色白だった女の子が真っ黒になってたり、あぁ夏休み終わっちゃったんだなぁ、と今更実感した。先生の退屈なお話には耳もくれずに、人間観察も飽きたからちゃっちゃと寝る体勢に入る。



「夏休み後という事で気持ちが引き締まらないのも分かりますが、こういう時こそ背筋を伸ばし、有意義な学校生活を送りましょう」



はぁい先生、と上辺だけ心の中で返事をした後、私の意識はそこで途絶えた。



***



「休み明け早々だけど、今日は来月にある新人戦についてまず発表があります」



新しく部長になった2年の矢倉部長がそう言うと、私を含む1年の皆の表情が一様に変わった。例年より少ないという私達1年生は全部で7人、メンバーも選抜5人+補欠2人だから必然的に全員選ばれる事になるけど、問題は5人の中のポジションと補欠2人が誰かという事だ。

正直に言うと、1年生の皆からは教えてと言われる立場だから選抜に、その中でも最後の重要なポジション“落ち”に選ばれる自信はなんとなくある。でもそれを表に出してうるさくするなんて事は出来るはずがないので、私は正座で部長の言葉を待った。



「―――…、最後に落ち、牧田!」

「はい!」



予想が確信に変わって、普段よりも大きい声で返事をする。やったやったと心の中で浮かれていると、ふと隣に座っている杏子の雰囲気が暗くなったのに気付いた。



「補欠は熊村と水越。各自新人戦まで気を抜かずに練習に励む事!」



水越、というのは杏子の名字で、あんなに頑張っていた杏子が選ばれなかった事に私の肩も少し下がる。道場内は原則無駄口を叩かないのが基本なので、私はロードワークに出た杏子の背中を追うようにそこを後にした。



「杏子!」

「何?」



さっさと走り始めた杏子に追い付くと、その第一声はかなり冷たいものだった。いつもと明らかに違う声色に一瞬ビクつきながらも、此処まで来ちゃったから話を続ける。



「大丈夫だよ、まだ私達1年だし」

「いいじゃん萌乃は絶対選ばれるし、選抜と補欠の差大きいもん」

「そんな事無いよ、練習重ねれば大丈夫だよ」

「あっそ」



八つ当たりだというのは分かるけど、ここまで冷たくされちゃあ流石にちょっとムッと来る。だから待ってよ、と言いながら腕を掴むと、その手はパチン!と払いのけられた。



「ちょ、叩かなくたっていいじゃん」

「うるさいんだけど、余計なお世話だよ。選抜の、それも落ちに選ばれた萌乃に何言われても嫌味にしか聞こえないから!」

「そんなつもり無いよ!」

「萌乃にその気が無くても私からしたら腹立つよ!いつまでも無自覚でなんでもやってけると思わない方が良いよ、お節介超ウザいから!」



そこまで言うと杏子は一瞬ハッとした表情になって、そのままバツが悪そうに足早に去って行った。残された私は、突然言われた言葉に上手く整理がつかなくて思わずその場に立ち尽くす。

無自覚。お節介。今まで何度も言われてきた言葉だけど、こんなにも真正面から否定されたのは初めてだった。今まで何となく、それが私の長所でもあるような気がしてたけど、あれ、違ったのかな?そう思い始めると、気持ちがどんどん沈んで行く。真っ暗闇に急降下。



「萌乃ちゃん、大丈夫?」

「悪ィ、立聞きするつもりじゃなかったんだけどよ」



その時に茂みから出て来た長太郎と宍戸さんを見て、ふと視界が歪む。2人は私の顔を見てギョッとするなりあたふたと慌て始め、最終的に長太郎がよしよしと抱き締めてくれた。そこで初めて泣いてる事に気付く。



「俺はお前のそういう性格良いと思うけど、人によってどう思うかは違うからな。あんま気にすんな、つっても無理だろうけどよ」



多分こういう慰めに慣れてないのか宍戸さんの言葉はつっかえつっかえだった。でも正直あんまり耳に入ってこなくて(ごめんなさい宍戸さん)、長太郎にしがみついてワンワンと泣くのが精一杯。2人にも迷惑がかかるからなるべく早く泣き止むように頑張りたかったけど、ちょっと、無理かもしれない。


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