06
好きか嫌いかで言うたら、興味無い。そんな新しい選択肢を生み出してしまう程、俺はこの子に興味が無い。



「もーやばいです本当に!可愛い可愛い可愛い可愛い」

「…そか」



ちゅーのは今日廊下でぶつかった時の反応からして、てっきりこの子もわかっとるもんやと思っとった。でもどうしたものか、今は岳人から貰った犬に興奮しすぎとるせいか、俺に対してもお構いなしになっとる。

別に、テニス部の奴らがこの子と仲良くする事に関しては激しくどうでもええ。元々俺自身がそない人とつるまへんし、今日だって謙也に頼まれてなかったら岳人の家だって行ってない。



「…ごめんなさい。うるさいですね」



しばらく歩いてようやく気付いたんか、この子は気まずそうな顔で俺の顔色を窺い、腕の中におる犬を軽く抱き締めた。それにフォローを入れるのも面倒やから、特に返事はせず俺も犬を抱え直す。謙也の奴、イグアナの次は犬かいな。あいつんちいつか動物園になるんちゃう。電話で無駄な事話したんは失敗やったわ。

沈黙が続き、お互いの犬が鳴くか細い声だけが響く。あまりにも静かやから隣を見て少し目線を下げると、この子はなんとも言えん表情で俺の事をガン見しとった。予想外の視線に若干たじろぐ。なんやねん。



「なんや」

「忍足先輩は、どうして」

「こない冷たいんか、てか」

「…それもですけど」



恐る恐る問いかけて来たその質問は、これまでも幾度となく言われて来た陳腐なもんやった。男女問わず言われて来たそれに、いちいち答えるのも面倒や。だから溜息を吐いて無言でやり過ごそう思たら、この子はまたあの、と話を切り出して来た。無言で視線を下げて、はよ言え、と目で訴える。



「なんで忍足先輩は、テニスが上手いんですか」



多分、その言葉の直後に出たは?は、今までのは?で1番全力のは?やった。

もう一度言う。



「は?」

「だって、長太郎が言ってました。テニスっていうのは、チームワークがなきゃ出来ないって」

「それはあくまでもあいつの考えやろ」

「チーム内の連携が取れてないと、勝てるものも勝てないって」

「俺が連携取れてへんて言いたいんか?自分に何が分かるねん」



話してて段々と苛立ってきた俺は、それまで一応この子に合わせとった歩幅を本来の自分のペースに戻した。

テニスにチームワークなんて必要あらへん。そらダブルスを組んどる以上岳人の動きは見なあかんけど、別に俺はちょこまか動くあいつのフォローに入ればえぇだけの話やし、いつ何処でも仲良しごっこなんて真っ平御免や。



「は、腹立ちましたか?」

「わかっとるなら聞くなや」

「私、犬の名前決めました!チコにします!」

「話逸らすの下手すぎやろ」

「忍足先輩!」

「だからなんや!」



俺の歩幅に合わせて小走りしてくるこの子がどうにもウザくて、思わず少し声を荒げる。するとこの子は一瞬たじろいだけど、目をきつめてまた反論して来た。



「絶対、勿体無いです!!」



ほぼ叫び声と言ってもえぇくらいのその言葉に、通行人は皆眉を顰めて俺達を振り返る。しまいにその子は勝手に走り出してしもたから、残された俺の立場が無い。

今まで、特定の誰かと仲良くしようなんて思った事無かった。謙也は身内でただの腐れ縁みたいなもんやし、岳人もまぁ一緒にいて退屈はせんけどそれ以上のものはあらへんし、他のテニス部の奴らだって、別に。

チラリ、と視線を感じた方に目をやると、腕の中におる犬はじーっと俺の事を物言いたげな顔で見つめとった。それに対し、お前までなんやねん、とか犬に話しかけてしもた俺は多分、頭のどっかやられてしもた。


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