「あいつら凄いな」

「猿ですね、両方」



目の前の光景に思わず感心した跡部だが、返って来た日吉の言葉も中々に的を得ている。

自分らの競技が終わり、バスケの応援をしているという芥川と忍足の元へ合流した2人だが、そこで繰り広げられている試合には釘付けにならざるを得なかった。



「萌乃もがっくんも頑張れー!!」

「いつもに増して調子ええんちゃう?」

「にしても跳びすぎでしょう」

「牧田は足が速いな」



萌乃と向日がそれぞれ試合をしているコートは隣同士にあるので、4人の足は必然的にそこに止まっている。ちなみに鳳と宍戸はもう試合を終え違う競技に向かったようだが、この2コートのギャラリーが他のコートよりも多いのは気のせいでは無いだろう。

通常スポーツは男女ではどうしても迫力が異なるように思うが、向日のアクロバットと萌乃の動きの速さや柔軟性は、そんな男女差など感じさせない。試合内容がどうこうよりも、2人の動きにまるで何かのショーを見ているような気分になっている者は少なくなかった。



「昔っからかくれんぼとかやっても普通じゃ思いつかないような場所に隠れたりしてましたからね、あいつ」

「一緒にかくれんぼやってた日吉を想像すると面白E〜」

「無理矢理付き合わされたんです」

「照れるなよ日吉、楽しいだろかくれんぼ」

「跡部は俺達が初めて跡部んち行った時に教えてあげたんだもんね!ミカエルとかおぼっちゃまは!?って本気で探してたC!」

「自分ら脱線しすぎやで。でもほんま、想像つかん所から出て来るなあの子」



躓いて転んだかと思いきやそのままの体勢からボールを奪って走り出したり、足の間からするっと抜けて来たり、その動きは野性的にも見える。女としてどうかを問われると何も言い返せないが、それが萌乃らしさでもあり見ている方も楽しいのは違いない。

そうして試合終了のコールが鳴り、向日は大差で、萌乃は僅差で相手チームに勝つことが出来た。各々お互いのクラスメイトとハイタッチを交わした後、2人ではしゃぎながら4人の元へ向かう。



「見ててくれたんですねー!跡部先輩も若も!」

「2人共ご苦労だったな。中々良い試合だったじゃねーの」

「猿山眺めてる気分でしたよ」

「いっちいち生意気だなお前っ!」



次の試合はまた時間が空くので、彼らはこの場にいない滝、鳳、宍戸、樺地の応援の為また違う場所へ向かう。普段はやっていないスポーツをするのも、彼らにとっては良い刺激になっているのかもしれない。



***



「どらぁああぁっ!!」

「「きゃぁああぁ!!」」

「鳳、叫び声女の子になってるよ」

「ウス」



場所変わりましてグラウンド、(お目当ての!)宍戸先輩の応援の為にサッカーを見に来た私達。跡部先輩と若もこの後出るみたいでウォーミングアップに行っちゃったから今はいないけど、代わりに長太郎がその分一緒に騒いでくれるから凄く楽しい!滝先輩と樺ちゃんも合流したし、相変わらず賑やかだなぁ。あ、ジロー先輩と岳人先輩は忍足先輩を引っ張ってジュースを買いに行った。あの感じを見ると多分奢らせる気なんだと思います。



「滝先輩はもう出ないんですか?」

「うん、ウチのクラスはさっきソフトもう負けちゃったから終わり」

「でも昨日のバドミントンやってた先輩優雅でした!」

「あはは、ありがとう」



樺ちゃんもさっきもう出ないって言ってた、本当はドッヂボールも出たかったみたいだけど、力加減が分からなくて怪我人を出しちゃったら嫌だからってやめたらしい。心優しい樺ちゃん、たまに切ない。そう思いながら樺ちゃんの肩をポンポン、と叩いていると、間髪入れず長太郎が両肩を掴んでガクンガクンと揺さぶって来た。うおぉおお眩暈。



「萌乃ちゃん今の宍戸さん見たーーー!!??」

「見ようにも視界が全部二重に見えるよーー」

「こらこら鳳、やりすぎ」

「あっ、ごめん」



昔は掴まれたりしてもこうはならなかったのに、長太郎ったら本当に急成長しすぎだ。長太郎と話す時にこんなに首が疲れる事になるとは思ってなかった。としみじみしているうちにパッと手が離れ、ようやく宍戸さんをじっくり見れる。

宍戸さんはサッカー経験者じゃないからフォームとかはきっと適当なんだろうけど、持ち前の運動神経の良さ・瞬発力・スピードが抜群でもう見てて楽しいのなんの!贔屓目が入ってる?なんとでもおっしゃい!そんな感じで試合中、私と長太郎はずーーっと飽きずに大声で応援していた。近くにいた弓道部の後輩に若干引いた目で見られたけど、引かれるのは慣れっこなので以下略。



「お前ら声でかすぎだろ!」

「だって宍戸さんの応援したくて!」

「俺達宍戸さんしか見えてませんでした!」

「だろうな」



苦笑してタオルで汗を拭きながら私達の元へ来た宍戸さん(勿論試合は勝ちました!)。その時、違う方向から「宍戸先輩かっこいいー!」と複数人の女の子の声が飛んで来た。確かに宍戸先輩はとってもとってもかっこいいけど、こんな風な声援はあんまり聞いた事が無かったから思わず目をぱちくり。隣の長太郎を見ると、まさに威嚇してる犬だった。ガルルルル。



「宍戸モテるねぇ」

「うるせーよ滝」

「宍戸先輩かっこいいー」

「茶化すんじゃねぇ!」



わざと小突く滝先輩の手を、宍戸先輩はパシンッ!と思いっきり払う。なんだかこの2人って対照的だけど仲良しで見てると心があったまるような、そんな感じだ。だからついニヤニヤしてると次は誰かが私の頭をパシンッ!と叩いた。見なくても分かる犯人に、キッと視線を鋭くして後ろを見る。



「痛いです若!」

「顔に締まりが無さすぎる」



それだけ言い残して若はさっさとグラウンドに入ってった。そんな意地悪ばっかするなら応援しないぞー!と愚痴りつつ、3分後にはまた長太郎と一緒に大声を出してる自分がいましたとさ。球技大会で声が枯れる事になりそうだとは予想外です。


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