「うわぁーこのチョコケーキ凄く美味しいです!」

「クーベルチュールだからな」

「流石跡部先輩!」

「当然だろ」



色んな種類の夕飯の後には豪華なデザートまでもが用意されているのは、今となっては最早此処では常識となっているが、それでも最初は驚き興奮した。キャッキャと浮かれている萌乃も騒いでるには騒いでいるが、その質が自分達のとは違う事に彼らは勿論気付いている。



「あの子結構グルメなんやなぁ。材料も当てとったし、跡部と話が合うくらいに単語もよぉ知っとるやん」

「萌乃ちゃんの家、実はお金持ちなんですよ。生活自体は派手じゃないですけど、家族全員食べる事が大好きだから食に関しては羽振りが良いんです」

「和洋中なんでも知ってますよ。その結果あんな大食いになりましたけど」

「じゃあ次は萌乃んちで飯だなー!」



ケーキを次々と頬張る向日や宍戸、芥川にとってはさほど興味が無いようだが、跡部程では無いにせよそれなりに食の知識がある滝と忍足は、感心したように萌乃に視線を向けた。



「萌乃ってば幸せそうに食べるから、俺なんか眠くなって来ちゃったC〜」

「なんでそうなんだよ」



とそこで芥川はパタリ、と宍戸の肩に頭を預け、数秒後には深い眠りに落ちた。宍戸も今更とやかく言ってどうにかなるとは更々思っていないので、芥川の皿に残っていた半分程のケーキを一口で口に放り込み、自分の残りの分もパクパクと食べ始める。どうやら彼にとって、食は楽しむものというよりも腹を満たすものという認識らしい。



「食堂でよく餌付けされとんの見るけど、それも氷帝のクオリティやから喜んどったっちゅー訳か」

「そういう訳でも無いですよ。未だにアイスの当たりで喜んだりもしますし」

「そんな牧田さんが日吉は好きなんだよね」

「誰が!」



その時、滝の茶化しに反発した日吉はついバンッ!と大きな音を立てて立ち上がった。一瞬静まり返った室内に、「どうした日吉」「どうしたの若」と不思議そうな顔をしている跡部と萌乃の声が響く。その反応に日吉以外の者は苦笑し、彼も馬鹿らしくなったのか「何でも無いです」とだけ答えてまた席に着いた。



「あ、つーかお前ら球技大会何出んだよ?」



本人にその自覚は無いだろうが、話題を逸らしてくれた向日に日吉は心の中で胸を撫で下ろす。何故球技大会と体育大会両方あるんだ1つにまとめればいいだろ、と常々思っていた彼だが、この時ばかりはその事に感謝せざるを得なかった。



「まだ決めてへんわ。去年と同じで卓球あたりちゃう?」

「俺は最近背伸びて来たからかバスケの候補に入ってるんですけど、正直あんまりやった事ないので不安です…」

「お前ほんと背伸びたよな!少しは分けろよクソクソッ!」

「私もまだ考えて無かったですー。というか宍戸さん、どうしたんですか?」

「…俺、球技大会どころじゃねーんだよ」



盛り上がりを見せたかと思えば傍らでは浮かない表情をしている宍戸を見て、萌乃は心配そうに顔を覗き込みながら問いかける。そしてその返答には他の者もなんだなんだと顔を見合わせ、バツが悪そうにしている彼の言葉を待った。



「担任に、次の中間考査で全教科70点以上とんねーと部活停止って言われてんだ」

「宍戸先輩、そんなに成績悪いんですか?」

「うるせぇ痛い所突くんじゃねーよ!」

「自分そんな頭悪いイメージあらへんけどなぁ。どっちかっちゅーとジローの方が危ないんちゃうん?」

「ジローはテスト前に俺様がプリント作ってやってるから大丈夫だ」

「なんか知らねーけどあの教師俺に目付けやがってんだよ」

「目つきが悪くたって髪が長くたって、宍戸さんは宍戸さんです!」

「うん、鳳、それフォローになってないよ」



確かに宍戸はたまにツッケンドンな所があるが、まさかその性格がこんな所に影響を及ぼすとは本人も予想していなかったのだろう。捉えようによっては差別的なその課題に、彼らも最初は冗談めいて話していたが次第に真剣になる。



「おい亮、都大会前に部活停止とかふざけた事すんじゃねーぞ!」

「意地でも取ってやるよ」

「宍戸さん私も応援してます!一緒に勉強しましょ!」

「お前がいても邪魔になるだけだからやめとけ」



それからもしばらく雑談は続き、午後9時を回ったところで跡部家の車により彼らは帰路に着いた。楽しいイベントもそうでないイベントも、去年より記憶に残りそうな気がするのは、恐らく間違いでは無い。


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