はち切れんばかりの歓声が急に響いて、思わず両手で耳を塞ぐ。隣を見れば杏子も同じようにしていて、ついでに口元は思いっきり苦笑していた。
「私達が入学した頃でも凄かったのに、今年は更に倍増だね」
「まぁ、今年がピークだろうね」
ちょっと冷たく言い放った杏子は、そうしてまた目の前のステージに目を向ける。ちなみに私達がいるのはステージの舞台袖で、次が出番だからこうやって待機しているのだ。
そもそも今何が行われているのかというと、毎年恒例の新入生歓迎会・部活紹介ってやつです。私達の1個前は男子テニス部なんだけども、これがまた凄いのなんの。テニス部はこれには新3年生しか出ないみたいで、主に跡部先輩が指揮をとってるおかげで、さっき登場した時からいっこうに歓声が鳴り止まない。馴染のある先輩達の姿に心が躍る反面、この後に私達弓道部だなんてあんまりだ。インパクト、惨敗。
「そこでつまんなさそうな顔してるてめぇも、此処での学校生活をどんなもんにするかはてめぇ次第だ。刺激が欲しけりゃくれてやるよ」
キャアア!と騒ぐ生徒達。絶対違う意味で捉えてるよね!とまぁそんな感じでテニス部の紹介は続き、去年は跡部先輩だけのリサイタルショーだったけど今年は皆さんの美技が数々と繰り広げられ、終わった頃には生徒達は皆完全燃焼していた。その後にやった弓道部がどんな反応を貰ったかは、もう、ご想像にお任せします。
***
「もー、あんなの反則ですよ!」
「あはは、ごめんごめん。でも俺じゃなくて跡部のせいだから」
「先輩達は皆目立ちすぎですー」
昼休みに教師に呼ばれて職員室に出向いた滝は、帰りの廊下でトイレに行く途中の萌乃と遭遇した。「こんにちは」と元気いっぱいの挨拶の後で投げられたその不満に、滝も先程の事思い出し笑う。一緒にステージに出た立場ではあるが、跡部の豪快さに関しては客観視せざるを得ない。
「喋ってたの跡部だけだからね。ジローなんてすっぽかして生徒席で寝てたし」
「あれ、宍戸さん同じクラスなのに連れ出さなかったんですか?」
「面倒臭かったんでしょ」
いくら熱血な宍戸とはいえ、流石にそんな隅々の事まではしてられない。ましてや彼はステージに出たくない派だったので、誰がいようがいまいがそこまで大した問題では無かったのだろう。
という話はさておき、滝は何かを思い出したように「あ」と声をあげると、首を傾げている萌乃に再び向き直った。
「牧田さん、今日の部活後暇?」
***
と昼休みに滝先輩に誘われ、訳も分からず部活後校門前でテニス部の皆さんと待ち合わせしてマイクロバスに乗られて来た所は、なんと、なんと。
「お城だあぁあー!!」
「騒ぐな恥ずかしい」
跡部先輩のお家でした。
「滝先輩、なんでこいつを誘ったんですか」
「ほんっとお前は萌乃に厳しいよなー、人数多い程楽しいし良いだろ!」
「ですよね岳人先輩!」
「調子に乗るな」
まぁまぁといつものように仲裁に入ってくれる忍足先輩に甘え、私も皆さんと足を並べて跡部先輩の家に入る。なんでも今日は先輩の家で晩餐会(って言った方がしっくり来るくらい豪華!)をするらしく、それに私もお招き頂いたのだ。なんたる幸せ!
「凄い、異空間みたいですね!」
「萌乃、俺が最初に此処に来た時と同じ反応してるC」
「お前は更にうるさかったけどな」
「萌乃ちゃん、興奮して物壊したら駄目だよ」
「分かってるよ!」
ジロー先輩を宥める跡部先輩と、私の様子を見てオドオドする長太郎。皆心配性だ。
「にしてもどういう風の吹き回しやねん、いきなり晩餐会て」
「たまには良いだろ」
「ウス」
「今年が俺達にとって最後だからな。景気づけだ」
ちょっと照れ臭そうにそう言った跡部先輩は、樺ちゃんを従えて2人でずんずんと前を歩いて行った。それに他の皆さんは目を合わせて笑って、だから私も若の脇腹を突いてみる。いつもなら殴られるけど、今はちょっと払われるだけで終わった。
「全く、俺達は来年もあるだろ」
「まぁ良いじゃん日吉!今年が勝負の年なのには間違いないよ」
「そうですよ若!」
「フン」
どんなご飯が出て来るのか、ドキドキワクワク。