「萌乃だー!おっはよー!」

「ジロー先輩、もうお昼ですよ〜」



今日は始業式とホームルームだけだったから、昼休み前に授業は終わった。そんな早めの放課後、部活に行く為に廊下を歩いていると、前から走って来たジロー先輩はそのままの勢いで私に飛びつき、ニカッと目尻を下げて笑ってくれた。いつもは大体樺ちゃんに部活まで連行される事が多いのに今日は珍しいなぁと思っていると、「おい待てよジロー!」と宍戸さんの声が。



「お、牧田か。忍足から聞いたけど本当にバッサリいったんだな」

「こんにちは宍戸さん!そうなんです!」

「マジマジ似合ってるC!」

「お前今日テンション高過ぎだろ」

「だって俺達同じクラスじゃーん!」

「え、そうなんですか?」



呆れる宍戸さんに引っ付いてるジロー先輩は、その引っ付く力を更に強めながらそう言った。私の問いかけに宍戸さんは「中学最後だっつーのにうるさくなりそうだぜ」と溜息。そういえばこのお2人は幼馴染らしいし、そりゃあ嬉しいに決まってるよなぁ。なんだかんだ宍戸さんも本気で嫌がってる訳じゃないのはすぐに分かるし、今年皆と離れてしまった身分なだけにすごーーく羨ましい。と、そんな嫉妬の眼差しがバレてしまったのか、お2人はちょこっと苦笑い。



「萌乃分かりやすすぎだC。離れちゃったんだねー」

「そうなんですよ…」

「まぁ、こんだけマンモス校だと一緒になる方が難しいだろ。来年に期待しとけよ」

「っていうか、俺達の場合高等部も一緒だしねー!」



長い目で見ればそうなんだけど、大事なのは今という事でうんぬんかんぬん。という雑談を繰り広げている間にそろそろ部活に行く時間になって、私達は止まっていた足を再び動かした。3人横並びで、主にジロー先輩中心に話が進んでいく。



「そういえば、テニス部は新歓何やるんですか?跡部先輩の事だからド派手にやりそう!去年も凄かったですし!」

「去年俺達何やったっけー?」

「あれだろ、主に跡部の美技リサイタルショーだっただろ」

「あぁそうだそうだ、あれマジマジ笑ったC!」



新入生歓迎会の中には部活紹介コーナーもあって、去年見た限り氷帝は全部の部活それぞれに個性があった。むしろ個性の大爆発だった。その中でもテニス部の番になった時の歓声は凄かったし、跡部先輩のインパクトも強烈だったなぁ。あれからもう1年経つんだぁ、とここでちょっとしみじみ。

で、結局何をやるかは当日までのお楽しみという事でお預けをくらい、私達は1階で別れた。弓道部だって張り切るんですからねー!



***



「治らないな、牧田」



練習風景を見渡している顧問は、不意に隣にいる部長にそう話しかけた。部長もそれに合わせて萌乃に視線を移し、しばらく様子を見た後に同意するようゆっくり頷く。



「新人戦以来ずっとあんな感じですね」

「あの時は早気(はやけ)かと思ったが、今は真逆だな」

「早気ならまだアドバイス出来たのですが…遅気(もたれ)は自分も初めて見たので、なんとも」



一般的に、早気は弓道をやっている者なら比較的経験する事が多いが、それの逆である遅気は珍しい部類に入る。

打ちたくても打てない、という原因不明の心理によって、弓を放つまでの時間が通常よりだいぶ長くなってしまうのだ。しかも、その状態で放たれた場合の矢が的に中る可能性はほとんど無い。



「本人は頑張ってるんだけどな」



しかし、萌乃本人がその弓道の病気のようなもので弱音を吐いた事は、今の所一度も無い。競技中以外は笑顔が絶えず、一時期喧嘩をしていた杏子とももうすっかり元通りになっているようだ。



「逆に言ってくれた方がこっちも支えてあげやすいんですけど、それはこっちのエゴですよね」

「あまりにも続くようなら、こっちから機会を与えてやらなきゃいかんがな」

「牧田は絶対にもっと強くなれます。躓くには早すぎる」



普段全くと言って良い程他の事でも弱音を吐かない萌乃が、心の底ではどう思っているかなど顧問と部長の2人には分からない。ただ、その笑顔の裏に何かが抱えられているのだけは、漠然と勘付いていた。


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