「いたいけな少年1人で夜道帰らせるってどういう事だよ、やってらんねーよ!」
東京のナントカ中学校と練習試合した帰り、真田副部長と喧嘩してそのままバスに乗せて貰えなかった俺は、今自宅まで絶賛ランニング中だ。この前の新人戦であのキノコ頭と良い勝負したっつーのに、あの人が副部長になってからというもののいっつもこんな感じ。褒められる事もなければ笑顔も無し。あの老け顔!柳さんは褒めてくれんのにチクショウ!老け顔!
「若の怒りんぼ!でもごめん!でもあんな言い方しなくたって良いじゃん!」
と、つい口に出して愚痴を叫んでると、前の方から怒ってんのか謝ってんのかよくわかんない声が聞こえて来た。怒ってる割には涙声で、謝ってる割には納得いってなさそう。でも俺と同じくむしゃくしゃしてるには変わりない感じだ。なんて柳さん風に分析してると、段々と暗くて見えなかったその姿が露わになった。
「…こんばんは」
「ッス」
俺と同い年か、年下くらいの女子。夜道だから誰もいないと思ってたのか、俺の姿を確認するなり気まずそうに頭を下げて来た。んでなんとなーくお互い立ち止まって、なんとなーく近くにあったベンチに座る。なんだこの展開?
「やんなっちゃいますよね本当」
「お、おう。お前の事はよくわかんねぇけど、俺も今むしゃくしゃしてる」
「だって若ってば飴と鞭どころか鞭オンリーなんだよ。痛いったらありゃしない」
「副部長だってそうだ!褒められた事なんて俺1回もねえし!」
「あれ?そういえば君どっかで見た事ある」
お互い全く人の話を聞いてないまま自分の愚痴だけを言ってると、不意にこいつはそう言って俺の顔をまじまじと覗き込んで来た。言われてみれば俺もどっかで見た事ある気が?
「この前スーパーで会った?」
「いや会ってねぇ。夏休み市民プールにいた?」
「今年プール行ってない。弓道見に来てた?」
「行った事ねぇ。わかんねーな!」
「まぁなんでもいっか!」
したけど勘違いだったみたいだ。だから俺達はそのまま話を流し、またお互いの話は聞かずにとにかく愚痴を吐きまくった。「そんで副部長が」「あれは若の言い方が悪い!」会話のキャッチボールならずドッヂボール状態だ。でもただ吐き出せればそれで良いから、何もツッコまずに自分の愚痴を好きなだけ言う。そうするとどうしたもんか、言い終わった頃にはだいぶすっきりした感じになった。
「なんか、すっきりした。私が悪かったのかもしれない」
「俺も、やっぱりバス乗せて貰えなかったのは納得いかねぇけど、もっと強くなんなきゃいけねぇのかな」
「がんばろっか」
「おう」
そろそろ夜も更けて来たし、お互い家に帰る為にまた歩き始める。途中適当にコンビニに寄ってアイスとパン買って、2人でモグモグ食べ歩きしながらどうでも良い話をする。
「そういえばお前、名前は?」
「萌乃。そっちは?」
「赤也。何処中?俺立海」
「私氷帝。ていうか立海!?」
「え、何、立海嫌いなのかよ」
「嫌いというか良い思い出が無い!サナダ!」
「真田副部長!?」
「副部長か知らないけど、アクロバットの選手じゃなかった人!老けてる人!」
「なんだよそれあの人がアクロバットしてたら俺全力で指差して笑ってやるわ!つーかなんで、え!?なんで知ってんだよ!?」
結局歩いていた足も止まって、そこから更に1時間話し込んだのは言うまでもない。
***
「世間って狭いなぁ」
「どうした萌乃?」
赤也とのお散歩から帰って、お風呂に入って、リビングでテレビを見ているお父さんの後ろにドスッと座る。お父さんは私にそう言っておきながら意識はテレビに夢中で、だから適当に「なんでもなーい」とごまかしておいた。
「此処で会ったのも何かの縁だし、仲良くしようぜ。タメだし俺ら!」
「そうだね赤也!サナダからのいじめに頑張って耐えてね」
「お前も若の小言に負けんなよ!」
変な結束が交わされたつい数時間前を思い出す。なんだか赤也と話したら今まで沈んでいた気持ちもふっとんじゃって(ていうかどうでもよくなって)、今なんてもうお母さんの作ったお菓子を食べれる余裕もある。あ、別に今までも食べてたか。
「なんだか顔色元気になったわね。散歩中に良い事でもあったの?」
「世間って狭いね、お母さん」
「?」
とりあえず、明日若とお話しようっと。