───なーんて嘆いていたのも、もう1週間前の話で。



「でね、その三笠先輩がもうすっごいの!何がってそりゃ全部凄いんだけど、中でも残心が綺麗すぎてもぉおおぉ」

「テニス部も、やっぱり跡部部長は凄いよ!オーラが他の人とは圧倒的に違うんだ。後ね、先輩で宍戸さんっていう人がいるんだけど、その人も男らしくて憧れてるんだ!」

「ウス。跡部さんは凄いです」

「どの人も下克上のしがいがありそうだ」



教室の一角で部活の先輩達の事を興奮した様子で話している私達は、ハタから見たら相当ミーハーに見えるんだろう。ちなみに教室は長太郎と樺ちゃんのとこで、入学して以来、昼休みには面倒臭がる若を連れていっつも此処に来ている。時には違う事を話したりもするけれど、やっぱり基本的には部活の事ばかりだ。でも、3人と少し距離が開くのを寂しがっていた自分なんて、とっくのとうにいなくなっていた。ていうか距離なんて開いてないし!



「それにしても、テニス部も弓道部も終わる時間同じで良かったよねえ。一緒に帰れる!」

「ウス」

「樺地も、帰りは跡部部長車だから一緒に帰れるもんね。やっぱり皆でいるのが1番安心するよ」

「そんな甘っちょろい事言ってたら、あっという間に他の奴らに抜かされるぞ。大体お前は考えが甘すぎる」

「いいじゃんー、私達の仲だもんー」

「どんな仲だ、引っ付くな!」



若だけは幼稚舎の頃よりも更につっぱねるようになっちゃったかなぁと思うけど、この事をお母さんに話したら「若君も思春期だからねえ」って言ってたから、それで納得する事にする。

私が弓道に目覚めたのは、小学2年生の頃だった。目覚めたと言っても体の発育上ガッツリとした練習は出来なくて、なんとなーく感覚を掴む事くらいしかさせてもらえなかったけど、それでも弓道には何故かとても惹かれるものがあった。私は体も小さい方だし、体力はあってもセンスはそこまであるってわけじゃないし、自分がこういうスポーツに向いてない事くらいはちゃんと自覚してる。



「萌乃ちゃん、ちゃんと的に当てられてるの?」

「一応経験者ではあるけど、まだ弓にも触らせてもらってないよー。ていうか長太郎、その質問失礼!」

「そんなもんだろ。俺達もまだ基礎練だけだしな」

「ウス」



そもそも、弓道を含めた武道全般に興味を持ち始めたのは、いわずもがな若がキッカケだ。だから最初におぉっ!って思ったのはやっぱり古武術だったんだけど、そこから色んなものを見て経験して感動して、その中で1番これやりたい!ってなったのが、弓道だった。

基本的に何にでも興味はある。でも、その中でも弓道はずば抜けてる。だから、例え向いてなかったとしてもそこらへんは努力で埋めたい!普段若は私の事をどっちかって言うと馬鹿にしてるけど、そういうとこは悪くないな、って昔褒めてくれた事があったから、自分の中でもこの気持ちだけは大切にしている。



「あー話し足りないっ。後ね、皆の話聞いてテニス部の事ちょっと調べたんだけど、テニスの先輩って本当に凄いんだねぇ」

「今更かよ。散々話してるだろ」

「そうだけどさ!」



きっと、私が弓道をこんなに大事に思ってるのと一緒で、3人もテニスが大好きでたまらないんだろう。だから、私達全員がこんなに恵まれた環境にいれる事が嬉しくてたまらない。



「これから、頑張ろうねえ」



きっとこれから先、私が思ってた以上に辛い事もあるだろう。幼稚舎の頃から中等部の部活にはもちろん憧れていたけれど、その分少し怖さもあった。上下関係とか厳しいのかな、練習って大変なのかな、ちゃんとついてけるのかな、友達できるのかな、やめたくなっちゃったりするのかな、そもそも部活って何なんだろう。



「当たり前だ」

「絶対に、皆で強くなろうね!」

「ウス!」



それでも真っ先に入部したのには、そんな怖さなど諸共しない気持ちが他にあったからだ!

弓道が好きだ。若が好きだ。長太郎が好きだ。樺ちゃんが好きだ。たくさんの好きが私の側にいてくれる、それだけでもうなんでも頑張れる。



「ねえ、今年の1年、おもしろい子いた?」

「俺的にはあの鳳ってやつだな、ホイホイ言う事聞くだけかと思えば意外とやり込んでるし」

「あぁ、あの子ね。やり込んでるって言ったら日吉って子も中々だと思うな」

「宍戸も滝もよく見てんなぁ、俺自分の事ばっかでなんも後輩の面倒見れてねー!」

「樺地は言わずもがなだ。流石俺様の1番近くにいるだけあるぜ」

「でも樺ちゃん、前女の子と一緒に帰ってて楽しそうだったCー。その鳳って子と日吉って子も一緒だったけどー」

「何ショック受けとんねん跡部。過保護か」



もっともっと色んな事を知りたい。色んな人に会ってみたい。今の私にはちょっと釣り合わないこの大人っぽい制服も、卒業する頃には似合ってるようになってればいいなぁ。そんな風にワクワクしながら口に放り込んだ唐揚げは、なんだかすっごく美味しかった。


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