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新しく出来たアウトレットモールに買い物に行くけど萌乃も来る?というお母さんのお誘いに勢いよく頷いて、車に乗り込んで家を出たのが大体1時間前の話。とりあえずお昼ご飯を食べて、「お母さんお父さんあれ見たい!」「萌乃、1人で迷子になっちゃ駄目よ」「お前は方向音痴なんだからなー」という会話を交わしたのが大体15分前の話。

何が言いたいかって、迷いました。



「都内最大級恐るべし…」



こんな時でもスムージーを飲むのは忘れずに呟いてみるけど、実際問題結構笑えないのだ。だってこういう時に限って携帯の充電切れてるし、2人と連絡取る手段が無いんだもの。都内最大級というこのアウトレットモールで偶然2人に会える気なんて全くしないし、でも私もう中学生だし迷子センターに行くのは恥ずかしい。どうしよう。

と、考える事数秒。出した結論は。



「(とりあえず自分の見たいもの見よーっと!)」



ってな感じで、買いたい物買ってから探しに出る事にしました!ちょうど目の前にペットショップもあるし、これはチコへのお土産を買って行かない訳にはいかない。この前のお散歩といい、数少ない部活のお休みの日でも考えるのはチコの事ばかりだ。我ながら親馬鹿!

そうしてペットショップに入ると、流石アウトレットこれ絶対売れ残ったやつだー!と思う程センスがよろしくない犬用の服や、逆に、これは早い者勝ちだ!っていう可愛い服が色々あった。でも服を買える程お金に余裕は無いから、これは後でお父さんにおねだりするとして、今は可愛いお菓子だけ買っておく。一度物を買うとそれが引き金になるもので、私はそれからも色々なお店を1人でルンルン気分で回っていた。



***



のが、3時間前の話。



「(いい加減どうしよう)」



悠々気分で買い物をしていられたのも最初のうちだけで、ポツンと1人取り残されてる状況に何とも言えない寂しさが込み上げてくる。車の前にいればそのうち来るかな?と思ったけど、あんな馬鹿でかい駐車場の何処に停めたかなんて全く覚えてない。どうしよう、このままもしかして会えずに終わる?ここから歩いて行ったらどれくらいかかるかな。電車で帰るにしても此処からの乗り方全然わかんない。ていうか確かこの辺最寄駅遠かった気がする。だとしたらバス?いやそれ余計わかんない!

周りは家族連ればかりで、子供達の騒ぎ声で館内にかかっている音楽はほとんど聞こえてこない。いよいよ本格的に寂しくなってきた私は、甘い物を食べて気分を上げようと思い近くのフードコートに入った。テイクアウトでアイスを頼んで、適当な椅子に座ろうと歩いていた、ら。



「う、わっ!」

「待ってお兄ちゃーん!」

「早くしろよ!ブン兄ちゃんもう先行っちゃっただろー!」



目の前をちびっこ2人が通過。弟の方は思いっきり私にぶつかって、その反動でアイスがぽとり。気付かずに去って行くちびっこ。お、覚えてろよ、子供の頃から髪を赤くするなんて生意気な!!半分八つ当たりに近い感情で小さな後姿をちょっと睨むけど、こんな事したってアイスは戻ってこない。まだひとくちも食べてないのに。

仕方ないから余ったコーンだけをむしゃむしゃと食べ始める。あぁ、これ下までちゃんと実が入ってないやつだ。本当にコーンしかない。席が混んでいるから同じテーブルに家族連れが相席してきて、みーんな美味しそうなデザート食べてる。

くそう。くそう。



「あの、これ」



とその時。あまあああぁあい誘惑が目と鼻の先にボン!と現れた。



「アイス!」

「さっきと味違うかもしれないけど、良かったらどうぞ。後さっきからかかってる迷子アナウンスって君の事?」

「え?」



そんな神の様な事を言ってくれた眼鏡をかけた男の人に、全力で頭を下げながらアイスを貰う。でも次に言われた言葉はちょっとびっくりするもので、タイミング良くピンポンパンポーン!と言い始めたアナウンスによぉく耳を傾ける。じゃなきゃ聞き取れないんだもの。

東京都からお越しのー、牧田萌乃ちゃん、牧田萌乃ちゃん。水色のワンピースに、茶色の小さな鞄を持っています。迷子センターにてお父さんとお母さんが待っているので、以下略。



「は、恥ずかしい」

「…迷子センターの場所わかりますか?」

「わかんないです」

「アイス食べながらで良いので、行きましょうか」



男の人はちょっと困ったようにそう言うと、無表情ながらも私の前に立って案内し始めてくれた。途中で合流した男の人のお友達?は、アイスを食べながら後ろにくっついてる私を見るなり「迷子?」とすぐに察してくれた。やっぱり恥ずかしい。



「ああ」

「びっくりした、手塚が小さい子連れてるんだもん。こんにちは」

「こんにちは」

「お父さんとお母さん、もうすぐ会えるからね」



栗色の綺麗な髪をした男の子?(顔も本当に綺麗だけど、多分、男の子)は、私の身長に合わせて少し屈むと、優しい笑顔で励ましてくれた。それにうん、とだけ頷く。あの、これでも私一応中学生なんです、とはまさか言えなくて、此処はこのまま乗り切る事にした。

そうして私は無事迷子センターにてお父さんとお母さんと再会出来て、救世主達は何かお礼をさせてと言う2人の申し出をやんわり断ってそのまま帰って行った。ちょっと怖そうだけど優しい人と、綺麗で優しい人。ありがとうございました、アイス美味しかったです!


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bkm
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