01
「俺、中等部に入ったらテニス部に入る」

「俺も入ろうかな!」




幼稚舎の頃、若と長太郎と帰っている時。沢山の歓声に導かれるがままに行った先には、中等部のテニスコートがあった。私達は3人共、私は弓道、若は古武術、長太郎はピアノという趣味があったし、別にテニスに特別な感情は持ってなかったのだけれど、そこで繰り広げられていた試合を見て、2人の興味は一気にそれに集中したみたい。

試合をしていた人は、皆に「跡部様」と呼ばれていた。その跡部様が観客席より少し外れた所にいた私達の横を通りすがった時、ふいに若と長太郎は冒頭の台詞を言い出したのである。



「…暇だよー」



そんな2人を、勿論応援したい気持ちは充分にある。あるけれども!要するに何が言いたいのかと言うと、暇だ!!

弓道部の仮入部は明後日からだから、必然的に若、長太郎、それに樺ちゃんまでいなくなってしまうとなると、私はとてつもなく暇になる。あ、そういえば樺ちゃんは例の跡部様と昔からの知り合いらしい。私達が6年生の頃に急に転入して来たのも、跡部様を追いかけて来たからなんだって。跡部様がどんな人かは直接話した事ないから知らないけれど、きっと樺ちゃんが慕うくらいだから良い人なんだろうなぁ。…なんていうのは今はいい!!



「暇だよー…」

「あれ萌乃ちゃん、1人で何してるの?」

「あぁー!長太郎ー!」



そうして1人で玄関でウダウダしていると、ジャージに着替えた長太郎がひょっこり姿を現した。見慣れた人の登場に浮かれた私は、一目散に上履きのままドアにいる長太郎の方へ行く。



「萌乃ちゃん、上履き汚れちゃうよ」

「長太郎、もう終わったの?若と樺ちゃんは?」

「ううん、まだまだこれから。俺は先輩に雑用任されて、今から保健室に物取りに行くんだ」

「そうなんだー、いつ終わるの?」

「最初だからそんなに遅くはならないと思うけど、それでもまだかかるよ。萌乃ちゃん、帰ってて良いよ?」



私より少し背の高い長太郎はそう言うと、小さな子供をなだめるように苦笑しながら頭を叩いて来た。若が厳しい分、長太郎はこうやって優しくしてくれるから好きー。だから私はその言いつけを守る為に、仕方なく今日はもう家に帰る事にした。前まではいつも3人のうちの誰かの家に乗り込んでいたから、こんな早い時間に帰るのは少し勿体無い気がするというか、寂しい。どうせ家に帰っても誰もいないしぃ。

───幼稚舎に入って1番最初に友達になったのは、意外にも長太郎じゃなくて若だった。若はその頃からもう仏頂面で他人にも自分にも厳しい性格だったけれど、幼い私はそんな若にもベッタリだったらしい。深い理由は自分でもわからないから、多分直感的なものだったんだろうなぁ。で、長太郎とは入学してすぐにあった遠足で仲良くなった。確か、すっごく美味しいお菓子をくれたのがキッカケだったはず!樺ちゃんは転入して来てから長太郎が話しかけて、その流れで私と若も話すようになったんだよなぁ。

とまぁこんな感じで、今まで私達は4人でずーっと仲良くやって来た。勿論喧嘩も沢山したけれど、3人といる時間は凄く楽しくて、大好きだ。中学では皆部活に入るのを知っていたから、一緒に過ごせる時間が少なくなる事は覚悟していたけれど、いざその時が来てみるとまぁー寂しいのなんのー。一応おどけて言ってみせるけど、実際割と本気で心細かったりする。



「なんか、色々大丈夫かなぁ」



クラスは若と一緒になれたから、勉強面はなんとかなる(長太郎と樺ちゃんも隣のクラスだし)。周りの席の子も楽しい人ばっかりだし、学食も高級ホテルのか!?ってくらい美味しいし、弓道部に入るのだって楽しみだ。でも、これからこうやって1人で帰る機会が増えるのかと思うと、やっぱりまだ幼稚舎に戻りたいと思ってしまう自分がいた。


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bkm
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