「「うおぉおおぉ!?」」



放課後。部活へ向かう為に廊下を走っていると、曲がり角の所で岳人先輩に遭遇した。ギリギリぶつからなかったものの無駄に大声を出してしまったせいで、周りの人は皆びっくりした目で私達を見ている。その視線の多さを自覚した私達は、一度目を合わせてから溜息を吐き、とりあえずお互い謝った。ごめんなさい。



「ったく、驚かせんなよなー」

「あれおかしいな、どっちかっていうと先輩の方が爆走してたように見えたんですけど、見間違いかな」

「冗談だって!」



ガハハ!と大きな口を開けて笑いながら、先輩は私の背中を一発バシンと叩いた。け、結構痛い。先輩は私とさほど身長も細さも(これ自分で言ってて悲しい)変わらないのに、やっぱり力の差は歴然としている。さすが男子だ。

そんなどうでもいい事を考えていると、先輩はあ、そういえば、と違う話題を振って来た。なんだろーと思って首を傾げる。



「萌乃、お前犬いらね?」

「へ?」



あまりにも突拍子のない事を言い出した岳人先輩に、私は思いっきりアホ面で返してしまった。全く何の話か掴めなくてとりあえずびっくりしてると、先輩は携帯で時計を確認して、やべえ!と一言。



「そうだ部活だった!とりあえず、帰り校門前で待ってろ!」

「え、あ、へ?…りょ、了解でーす」



あれ、結局何の事か分からずじまいだった。まぁ確かに今はお互い急いでるし仕方ないっか。若干後ろ髪引かれる思いではあったけど、私は走り出した先輩と同じようにその場を離れ、部活に向かった。



***



「そこ、最後の動作違う!先に顔を正面に戻しなさい!」



先輩達の怒号が響く。1年生は皆、大まかな所から細かい所まで兎に角みっちりしごかれている中、基本がわかっている私はそこまで先輩達の指導を受けていなかった。道場でも練習中は、1年生の輪よりは先輩達の輪の中にいる事が多くなって、入部した時よりも俄然やる気が高まってきている。



「牧田、1回引いてみて」

「はい!」



そう思いつつも近くで杏子が怒られている姿を見て少し同情していると、私の大好きな三笠先輩が掌で汗を拭いながら話しかけてきた。部内でも1、2を争う実力の持ち主である三笠先輩に射形を見てもらえるのは凄く光栄な事なので、私もつい浮かれながらゴム弓を持ち直す。

それから、弓構えから残心後の動作まで一通りやってみせると、周りの友達や先輩からはさすが!、とか、凄い!、という賞賛の言葉が上がった。やってる人自体が少ないこの弓道について沢山の人に褒められるのはあまり慣れてないから、少し恥ずかしくなって思わず顔がにやける。

でも、そんな中三笠先輩はなんとも言えない表情で一度頷き、じゃあ走り込み行って来て、とだけ淡々と言い放った。



「先輩!私の射形駄目でしたか?」

「ううん、そんな事無い。牧田の射形、綺麗で丁寧だし私は好きだよ」

「…じゃあ、なんで」



結局先輩が私のその問いに答える事は無く、そのまま違う子の指導に行ってしまった。

先輩の事は本当に好きだし尊敬もしてるのに、時々先輩が見せるこの感じにはどうも慣れる事が出来ない。こんな事は口に出して言えないから、まぁ溜め込んで終わるんだけど。そんな煮え切らない想いを抱きつつ、私は走り込みの為に一度道場を出た。玄関まで行って、外靴に履き替えて、外に出る。



「お、牧田じゃねーか」

「あー!」



とそこで、なんと嬉しい事に宍戸さんに遭遇した。聞けば宍戸さんも走り込み中らしく、私なんかより全然ペースが速いはずなのに、一緒の速度で合わせてくれている。くうー!かっこいいー!



「練習中って袴着ねーのか?」

「最初のうちは慣れるっていう意味でも着てたんですけど、最近ではもっぱらジャージですよー。筋トレとかこういう走り込みもするとなると、やっぱり袴だと何かと不便なので」

「そっか、そうだよな」



それからも少しだけ話をして、真面目な宍戸さんはじゃあ俺行くわ、といって私の先を走って行った。あっという間にその背中は小さくなって、私も負けじと速度を上げてみる。追い着こうだなんていう無謀な考えは持っていません。

とそこで、私の視界にテニスコートが映った。相変わらずフェンス周りが女の子だらけなその様子を横目でちらりと見ると、若達3人は一生懸命練習していて、それを見て私は走る速度を少し上げた。くよくよなんてしてられるか!


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