「それでね!宍戸さんがね!もうねかっこよすぎたよね長太郎!」
「うん、流石宍戸さんって感じだった!宍戸さんの男らしさには本当に憧れるよ!」
「お前、ついこの間までは跡部さん跡部さんってうるさかった癖に次は宍戸さんかよ」
「跡部先輩と宍戸さんでは、憧れの種類が別物だよ!!」
翌日、昼休み。不定期に来る事にしている食堂で、いつもの4人でご飯を食べていると、私と長太郎の話を聞いた若は呆れながら嫌そうに目を細めた。話題は言わずもがな昨日の宍戸さんの格好良さについてで、樺ちゃんはうんうんと同意してくれてるけど、若だけはやっぱり面倒臭そうだ。跡部先輩しかり、なんてったって若は身近に素敵な先輩が揃ってるのに、こんなにもひねくれてるのかなー。
とそこで、入口の方からキャアッ!と黄色い歓声が沸き上がり、もしかして!と思いそっちに勢いよく振り向く。案の定目に入った跡部先輩に、その隣にいる宍戸さんに、私と長太郎は手を取ってわーわーと騒ぎ始めた。
「あ、跡部先輩と宍戸さんのコンビなんて!どうしよう!」
「破壊力が凄すぎるよね萌乃ちゃん!」
「お前らの目は節穴か。2人だけじゃなくて、先輩達皆いるだろうが」
「ウス」
その言葉に冷静になって目を凝らしてみると、確かに2人の近くには、ついこの前裏庭で会ったジロー先輩と先輩を起こしに来てた丸眼鏡の人、ピンクと茶色のおかっぱの人など、他にもあと4人いた。その事に私達は、ちょっと浮かれすぎちゃったね、と軽く笑う。
「あ!萌乃じゃんー!」
「こんにちはー」
「えっ、萌乃ちゃんジロー先輩と知り合いなの?」
とそこで私の存在に気付いたらしいジロー先輩は、寝ている姿からは想像出来ない元気さでこっちに近付いてきた。その様子には長太郎だけじゃなくて若もびっくりしてる。樺ちゃんはいつも通り。そして、そんなジロー先輩に率いられて他の先輩達も私達のテーブルに寄って来た。近い近い!跡部先輩宍戸さん近い!!
「あ、お前昨日の」
「こんにちは宍戸さん!」
「なんだ、今日も4人勢揃いしてんのか。仲良いなお前ら」
「ウス」
意を決して宍戸さんに挨拶をした隣では、跡部先輩が嬉しそうな表情で樺ちゃんに話しかけていた。それに答えた樺ちゃんも嬉しそうで、私の方までほっこりする。すると、若干蚊帳の外状態になっていた他の先輩達もなんだなんだと話しかけてきて、一気に私達のテーブルは賑やかになった。
「期待の1年達が揃いも揃ってランチタイムなんて、なんだか可愛いね」
「可愛いなんて言われて嬉しいと思いますか?気持ち悪いです」
「マッジでお前生意気なのなー。滝ー、俺がお前だったら絶対殴ってるぜ!」
「落ち着きぃや、威勢がえぇのはえぇ事やで」
となると、次に蚊帳の外になるのは私だ。テニス部の雑談に入り込む隙など全く無く、なんとなく恐縮しちゃって樺ちゃんの隣に移動する。宍戸さんは長太郎に取られちゃったし。いいもーん。
「皆仲良いねぇ、テニス部」
「まだまだ、これから、です」
「よくわかってんじゃねーか樺地」
「!?」
急に聞こえた品のある声に、気力が無くなって曲がっていた私の背筋がピンッ!と伸びた。鼻をかすめた良い匂いと共に隣に座ったのは、やっぱり跡部先輩だ。先輩は、目が点になっている私を見て噴き出すように笑った。
「お前、名前は牧田萌乃で合ってるな?」
「そ、そうです!クラスは若と一緒です!」
「そうか。樺地からは弓道部だと聞いてるが、弓道が好きなのか」
「大好きです!昔からずっとやってたんです」
「なるほど、良い面してんじゃねーの」
最初は緊張して仕方なかったけど、先輩が気さくに話してくれるおかげか段々とそれもほぐれてきた。こうやって話してみると跡部先輩は、良い意味で思っていたよりも普通で、ぽんぽんと言葉が出てくる。
結局昼休みが終わるまでテニス部の人達は私達のテーブルに居て、いつもとは色んな意味で違った時間を過ごす事が出来た。跡部先輩、宍戸さん、ジロー先輩以外の人と言葉を交わす事は無かったけど、別にいっかー!